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家族になった日
しおりを挟む鬼の形相のケネスがノックもせずにドアを開けた事に皆が驚いたが、誰もその事には何も言わなかった。
即座に跪き、無礼な振る舞いを謝罪するが、俺と同じく怒りで小刻みに震えている。
「重ね重ねの無礼になりますが、どうか私に一言その者への発言を許して頂きたく願います。」
「構わん、ケネス立ちなさい。」
と父がケネスの発言の許可を出した。
ケネスは一度深く息を吐き出すと、
「この容姿を好む方がいるのも承知しています。好きになるのは自由ですから。
あの頃は皆10代の若造です、それぞれが好きな人がいる事に何の問題があるのでしょうか?私は好きな人も作ってはいけない決まりでもあるのですか?
貴方に許可を得ないと恋愛も出来ないのですか?
ブリジット様は主の大事な方です。
見つめるのはいけない事なのでしょうか?
声をかけられて喜ぶのはいけない事なのでしょうか?
それに勝手に私の好きな人を決めつけないで頂きたい。
私の好きな人がブリジット様だと一言でも言った事がありましたか?
そんな噂が流れていたのでしょうか?
私は聞いた事がありません。
なのに、数回、たまたまブリジット様の方を見ていただけで、ブリジット様と勝手に決めつけ、このような所業に至るとは、死んでも許す事は出来ませんね。
この後の聞き取りは私が担当させて頂きます。
皆様、急な訪、申し訳ございませんでした。
私は急いで神殿に行き、竜王様に生まれ変わってもあなたの側にだけは生まれないよう、祈りを捧げないといけませんから。
失礼致します。」
ドアを閉める際、ケネスがシャルルの頭を撫でているのが見えた。
シャルルもリジーも泣いていたのが分かった。
今、ドアの向こうでリジーとシャルルが泣いてるのかと思うと…ケネスが聞いていたのかと思うと…たまらない気持ちになる。
あんな事を言われたシャルルの気持ち。
ただリジーに嫉妬し、傷付ける為だけにシャルルを身籠った事実。
それらの発端はケネスへの恋情だと知ったケネスの気持ち。
リジーに伝えられない想い。
どれを思っても、悔しくて、腹が立って、竜力が溜まる。
見れば、父も兄も何度も息を吸って長く吐いてを繰り返している。
母は怒りと、リジーとシャルル、ケネスを思って泣いていた。
「・・・ケネスが其方の尋問をするそうだ…。もう聞く事など一つもない。
それらをとっとと連れて行け。」
父が指を振ると、女が急に呻き出した。
「もう其奴の声なんぞ聞きたくはない。今だけ口を塞いだ。ここから出てしばらくしたら元に戻る。連れて行け!」
うーうー唸っている女と結局何も話さなかった男は牢へ連れて行かれた。
俺は急いで隣りの部屋に行くと、リジーはシャルルを抱きしめながら二人で泣いていた。
マクスは別の部屋にいるのかいなかった。
「リジー…シャルル…」
なんて声をかければいいのか分からない。
二人を抱きしめる事しかできなかった。
「シャルルは私が育てます…私の息子です…誰にも渡さない…我が家の長男です…」とリジーが言うとシャルルは声を出して泣いた。
ずっと静かに泣いていたのに大声で泣いていた。
「シャルルは俺とリジーの大事な息子だ。シャルルの父様で、リジーが母様だ、そしてマクスのお兄ちゃんだ、シャルル…よく耐えた、お前は立派だ…」
ドア越しに全て聞いていたのだろう…。
全部が分かった訳ではないだろうが、母親が自分の父親ではない男を想い、自分の父親とその妻を傷つける為の存在が自分だと聡いこの子は気付いたのだろう。
あんなに母親を心配していたのに…。
「こっちに来なさい、三人とも。」
と父に声をかけられた。
振り返ると母がいて、リジーがシャルルを抱っこし、リジーの背を押しソファに座らせた。俺はリジーの横に座る。
「ブリジットもシャルルも大丈夫?
シャルルはつらくない?大丈夫?少し温かいものを飲みなさい、落ち着きますからね。」
リジーには温かいお茶、シャルルにはホットミルクを飲ませると、
「済まなかった。私の判断が間違っていた…。
元貴族の出ならお前達の事も理解して、下手な事はしないだろうとリストに入れてしまった。妊娠が分かった時も、出産後、シャルルだけでもこちらで育てていればこんな事にはならなかった…。
監視も殆ど役には立っていなかった。
その者達には既に処罰が下っているが、もっと…」と兄上が涙を堪えている。
「ブリジット、シャルル、済まなかった。
もっと上手くやれただろうと今なら分かるのに…。
シャルル…お前の母親を奪う事になり、本当に済まない・・・。」
「ぼくは・・・母様が怖かったんです…。
言ってる事はよく分からなくても…嫌な言葉を毎日、毎日、聞いていました…。
さっきの話しも…よく分かりません…でも…母様が、ぼくを…好きじゃないって・・・・・分かり、ました…。
父様が…言ってくれたから…リジーさんが言ってくれたから…ぼくは・・・今日からリジーさんが、母様で、マクスはぼくのおとうととよびます…、良いですか?」
俺とリジーが両方からシャルルを抱きしめた。
「そうよ、シャルルは私の大事な大事な息子よ…よろしくね、お兄ちゃん。」
「そうだ、お前は俺の立派な息子だ」
「はい、父様、母様。」
今日、家族が一人増えた。
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