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妹を殺した奴がこの世界にいる
しおりを挟むリーチェがバスの事故の様子を話している途中で嫌な予感はした。
何となくバスの中の様子が頭に浮かんだ。
前の方に女子高生一人、真ん中へんにもう一人女子高生、反対側にOLが座っている。
俺の前の席にサラリーマンが一人、ケイトは通路を挟んで隣の座席に俯いて座っていた。
一つ下の妹は明るく活発な子だったのに、最近はほとんど話さなくなった。
俺はバリバリ反抗期で、家族となんか連んでられるかとばかりに妹の事なんか気にもしていなかった。
本当ならもっと後のバスでも充分間に合うが、その日は前日からどうしても一緒にバスに乗って欲しいと涙目で頼まれたから妹とバスに乗ったのだ。
俺はイヤホンをしてスマホのゲームをしていた。
どれくらい経ったのか忘れたが、前に座っていた男が急に立ち上がったが、次で降りるんだろうと気にしなかった。
でもその男は前には行かず、妹の横に立った。
あれ?と思った瞬間だった。
その男は手に持っている包丁を妹に向かって振り下ろしていた。
え⁉︎
周りは全員そう思ったんだろう。
皆、そんな顔をしていたから。
その後後ろにいた女子高生達が悲鳴をあげた。
男は真っ直ぐ運転席まで行き、躊躇なく包丁を何度も振り下ろした。
そしてバスは電車と衝突した。
どうして今思い出したんだろう…。
俺は妹が殺されるのを何も出来ずに見ていた。
あんなに前の日から怯えていたのに…。
“お兄ちゃんも一緒に登校して、お願い!”と泣きながらお願いしていたのに、俺は妹を守ってやることも出来なかった・・・。
あの男…妹のストーカーだったんだろうか。
あの男に何かされたんだろうか…。
許さない。
あの男だけは許さない。
ごめん、ごめんな、“圭”。
お兄ちゃん、お前を守ってあげられなかった…。
必ずお前を殺した奴を捕まえてやるからな。
ごめん…ごめん、圭・・・。
ポロポロ泣き出した俺に隣りにいたサミーユがギョッとしたのと同時に、ケイトが倒れた。
副会長のタイラー先輩が床に倒れる前に抱き止めてくれていた。
俺は先輩からケイトを奪うように抱えて泣いた。
「ごめん、ごめんな、圭…お兄ちゃん、お前を守れなかった・・・」
と抱きしめながら泣いた。
「とにかくソファにケイトを寝かせよう。」
とアクセル様が俺に声をかけた。
力のない俺にはケイトは重いが、なんとか抱きかかえてソファに寝かせた。
ケイトも思い出したのかもしれない。
可哀想に…怖かっただろうに…。
ケイトの頭を撫でながら俺はポロポロ泣いた。
「ザイル・・・もしかしてお前・・バスに乗ってたのか?」
とサミーユが聞いてきた。
「ああ、思い出した…。
俺はケイトの・・・“圭”の兄貴だった。
圭が殺された時、すぐ近くにいたんだ…。
でも圭が刺されるまで何も出来なかった。
刺された後も、何が起きたのか分からなくて動けなかった。
その後はさっきリーチェが言った通りだ…。
俺は…圭が何かに怯えてるのを知ってたのに・・・すぐ前に座ってた男が犯人だったのに・・・止めることも出来なかった・・・。」
「マジかよ・・ザイルもなのかよ・・・」
呆然とするサミーユ。
「ザイルは前世でもケイトの兄だったのか…。
でもこれで事故の原因も、何奴が危険なのかは分かった。
おそらく女子高生は自称ヒロインで間違いなさそうだ。
そして、大体の人数は分かったが、まだ自称ヒロインがいる可能性もある。
運転手はケイトと同じで記憶がないかもしれないが、そこは追々考えよう。
問題はケイトを殺した男が誰かって事だ。
もしケイトに気付いたら狙われる可能性が高い。」
アクセル様の最後の一言に女子達は息を飲んだ。
「見つけ出して殺す・・・必ず殺す。」
「ダメダメ、殺したら君、殺人犯だから。
そしてキャラ変わっちゃったんだね、ザイル。
前はアクセル様よりも王子様だったのに、今は黒いオーラが後ろから出ているようだよ、ザイル。」
とキーガン。
「ああ~そうか、前世はバリバリ反抗期の真っ只中だったから口調も違うか。
他所では今まで通りのキャラでいくけど、これからは犯人捕まえる為に身体も魔法も鍛えて、必ず犯人捕まえる。
だからここにいるみんなの前でだけ、前世の“大地”に戻ると思う。
ややこしいけど、変な気は使わず今まで通りの付き合いをしてもらえたら嬉しい。」
「前世は“タイチ”っていう名前だったのか…ちなみにケイトは?
さっきケイって言ってたけど。」
サミーユが聞きなれない名前に戸惑っているようだ。
「ケイトは“圭”。ケイトのケイと同じ読みだから、偶然同じような名前だったんだな。
ケイトは生まれた時からこっちに転生したのかもしれないけど、俺は多分一度死んだのかもしれない。
覚えてないほど小さい時に毒蛇に噛まれて死にそうになった時があったらしい。
その時に本当のザイルは死んで、俺がその身体に入ったのかも。
記憶がなかったのが何故なのかは分からないけど、今は思い出した。
だから乗り物の絵も、漫画もゲームも見た事があるように描けたって訳だな。」
「通りで見た事も無いものをこうも正確に描けると思った。
なるほどな、ザイルにも前世の記憶がある。
これでバスの乗客の三人が見つかった。
やっと本題に、と言いたいが今日はケイトがこの状態では話しにならないし、ザイルもまだ混乱しているだろう。
今日はこれにて解散。
ケイトはザイルは正門までは運べないから、サミーユかタイラーがケイトを抱いて運んで欲しい。」
俺に力があったら抱っこして運んだのに…。
これから身体を鍛えないと。
結局、サミーユがケイトを抱っこして馬車まで運んで、抱っこしたまま屋敷まで来てくれた。
ベッドまでケイトを運んだ後、
「ザイル、お前がタイチだろうがザイルだろうが、俺の親友だ。
いつでも俺に相談しろ!必ずな!」
と言って帰っていった。
今世では必ず妹を守ると誓った。
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