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愛の大きさと重さ
しおりを挟む久しぶりに来た俺達のマンションは、しばらく慎吾だけが暮らしていた割に、俺が出て行ったままのような感じだ。
「あんま、変わってないな…。」
「変わらないようにしてたから…。」
「えーと、少し掃除しようぜ、慎吾窓開けろ。俺はとりあえず掃除機かけるから、お前は布団軽くそこの窓で埃払え。」
そこからは黙々と掃除をした。
布団の埃を払ってから、慎吾は布団乾燥機をかけて、風呂掃除を始めた。
俺は掃除機をかけた後、台所を片付けた。
冷蔵庫の中は空っぽ。冷凍室には俺が買ったアイスが一つ入っていた。
「なんでアイスだけ残ってんの?」
慎吾が風呂掃除を終わらせて、台所に来ていたから聞いてみた。
「お前が買ったやつだから…」
「アイスっていつまでもつの?食べれんの?」
「知らん。食いもんも飲みもんもないから、コンビニ行こう、蓮。」
「えー面倒だな…慎吾買ってきてよ、適当で良いから。」と言うと、
「やだ!」
「何でだよ!何もねえから買いにいくって言っただろ!」
「蓮1人にしたらまたいなくなるかもしれないから一緒に行かないなら俺も行かない!」
「子供か!」
結局、手を繋ぐとかではなく、腕を掴まれ、コンビニまで連行された。
ビールやら酎ハイやらつまみ、お菓子、おにぎり、水、お茶、結構な量の買い物をしてマンションに帰ると、汗だくで気持ち悪い。
買ってきた物を冷蔵庫にしまい、
「ちょっとシャワー浴びていい?汗だくで気持ち悪い。」
「俺も入る!」
「入んねえよ!てめえ一人で入れ!」
口喧嘩をしながら結局1人で入ったが、風呂場のドアの前にへばりついてる慎吾に、
「すぐ出るから、少し待ってろよ…落ちつかねぇな!」
「俺も入ってダメか…」ガラス戸の向こうから小さな声で聞いてくる慎吾に思わず、良いよと言いそうになったのをなんとか堪え、
「今日はダメ。」と言ったら、
「じゃあ明日。」
「明日は帰えんだよ!離婚してから言え!俺もだけど!」
ちゃっちゃっと頭と身体を洗い、風呂から出ると、バスタオルを持って待っていた慎吾に包まれ、甲斐甲斐しく身体を拭かれた。
「パンツ穿かせろ、風邪ひくだろ。お前もシャワー浴びな、ちゃんと待ってるから。」
ようやく俺から離れた慎吾は、パパッと服を脱ぎ捨て、風呂場に入るともの凄い勢いで洗っているのが分かる。
俺がパジャマを着終わったと同時に、ビシャビシャの慎吾が出てきた。
「お前は…ちゃんと洗ったの?もうービシャビシャだし…」
新しいバスタオルを渡し、違うタオルで髪を拭いてやった。
モソモソと身体を拭いている慎吾に、
「何?身体も拭けってか?」
「やっぱいい…俺の息子に触られたら、蓮の事、襲っちゃうから…」
「じゃあちゃんと拭け。」
風呂に入るだけで疲れてきた。
2人でビールを開けて飲んだ。
つまみの缶詰とサキイカやらを摘みながら、俺達はお互いの事を話した。
「俺は…お前が諦めてるのが辛かった…。
俺が悪かったんだけど、最初の浮気の後から蓮は俺がいくら好きだ、愛してるって言っても信じなくなった…。
いつか蓮は…俺から離れると思った…蓮の代わりになる誰かを見つけておきたかった…ずるいよな、俺は…。
探せば探すほど、蓮は離れていくのが、その時は分からなかった…。怖くて堪らなかった…。
ごめん…たくさん傷付けた…。
でも、側に蓮がいないのは嫌だ…。」
「お前は俺と違って、元々異性愛者だったから、やっぱり女が良いんだなってずっと思ってた。
俺達はお前の想いだけで、続けていけるものだと思ってた。
俺がいくらお前を想っても、お前は女を抱く。
だから別れる時は、お前に捨てられるか、俺が耐えられなくなるかのどっちかだと思ってたから、出て行った。
子供の事を言われたら俺に勝ち目はないだろ…。
お前も俺がいなくなった方が楽になると思った。
まさかあんな漫画みたいな事になってるなんて考えてもいなかった。
雄大のことすら疑ってた。
知ってて俺に言わなかったのかってな…。」
「今考えると、なんで他所の女抱いてたんだろう…もうよく分かんねぇ…ただ蓮がいなくなった時の事考えると、怖くたまんなかったから、とりあえず人肌で紛らわせてたのかもな…。
お前より美人なんかいねぇし。
高校ん時、蓮の親が離婚した時に初めて蓮の恋愛対象が男だって分かって、そん時気付いた。
“あれ?俺、蓮と付き合えるんじゃね?”ってな。そっからだ、お前をずっと見てた。
長くて細い指で髪の毛を耳にかけるけど、何回も落ちてくるから結局髪ゴムで括るのも、
新品のハードカバーの本読んでる時、栞挟むの忘れて閉じて、“クソが!”っていう癖とか、
何か遠くにいるものを見て、パアーと急に笑うとことか、
教科書忘れて声も掛けずに隣りの奴の机に机くっ付けて勝手に見てたりとか、「止めろ!もう、止めろ、やめて下さい、恥ずいから!
お前もっと見るとこあるだろ!なんでそんな細っかいとこばっか見てんの?頭おかしいんじゃないの?」」
「好きになったから全部見てただけだ。
お前はすぐ他を見る。近くに俺がいるのに、面白い物をすぐ見つけては、俺に教えてくれた。
良い奴を見つけるのも上手かった。
話さなきゃ良さなんて分からん奴の良い所を見つけるのも上手かった。
困ってる奴の所にはすぐ行く。
だからお前の周りには人が沢山集まった。
お前は自分だけが好きみたいに思ってるけど、俺の愛はお前より重い。だから有りもしないお前との別れに怯えて浮気した俺の愛を舐めんな!」
「言っとくが、俺の方がお前への愛は大きい!一度も裏切った事はないし、全部お前が初めてだ!
デートも、プレゼントも、旅行も、身体も、全部お前にあげた!
俺の愛こそ舐めんな!ボケが!」
「今は?今は違うのかよ…」
「・・・・・・・・愛してるけど…分からん…これからどうしたら良いのか、分からないんだ…慎吾、俺はどうすれば良いんだよ…」
「待ってて欲しい。ここで俺を待ってて欲しい。必ず戻ってくるから。」
「ここに1人で住むのは俺も辛い…またお前は女の匂いをつけて帰ってくるかもしれない…」
「じゃあ、ここは引き払おう!また2人で探そう。それまでは今のまま別々だけど、迎えに行くから。待ってて欲しい、ダメか?」
「また他の女を抱くなら待たない。」
「もう抱かない。もう蓮の代わりなんか探さない!蓮だけでいいし、蓮は誰にも渡さない!だから友利と離婚してくれ、頼む!」
「友利とはもうそろそろ離婚しようとは思ってたから、それはいいよ。」
「あ、遠藤は?遠藤はどうなった?」
「遠藤は中学卒業してから会ってないってば!」
「もう…俺から離れないで欲しい…もう…二度と離れるな、蓮。」
「離れたくないとは思ってる。とりあえずお前が離婚した時考える。」
「そうだな…そこだな…」
温くなったビールを飲みきり、ベッドに2人で寝た。
絶対何もすんなよ!と約束させたけど、慎吾は俺を抱きしめるというか、しがみついて眠った。
俺も久しぶりの人肌に気付けば眠っていた。
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