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危ういララ
しおりを挟むノア視点
眠るララの手を握り、ずっと寝顔を見ている。パトリックは、
「後は任せた…。」と言って、部屋を出て行っていた。
この間会った時より頬はこけ、髪も艶がなくなっている。
この短期間でこんなに窶れさせてしまった一端が自分だと思うと、悲しくなる。
頭を撫で、
「ララ、ララは悪くないんだ。謝らなくていいんだよ。だからもう悩まないで。
一人で考え込まないで。
俺がいるから。ずっといるから。」
と頬撫で、手を撫でた。
「ノア・・」
目が覚めたララは、声が掠れている。
水差しの水をグラスに注ぎ、身体を起こしてあげて、水を飲ませた。
「ララ、大丈夫?もっと飲む?」
首を振るララ。
「具合はどう?何か食べる?」
「何もいらないわ…大丈夫。」
「ずっと付いてるから眠かったら寝ても良いよ。疲れたでしょ?」
「ううん、私、たくさん考えたの・・・。
全部私のせいだった…。」
「ううん、違うよ、ララのせいではないんだよ。ララを一人にした俺が悪いんだ。
ずっとずっと一緒にいれば良かったんだ…。ララがもう離れてって言うほどくっ付いていれば良かったんだ。」
「そんな事出来ないでしょ、仕事もあるんだから。もっと私がしっかりしていれば良かったの…ごめんなさい…」
「ララは謝ったら楽になるの?」
「楽になんかなってはいけないと思う。
だって私が一番悪いんだもの。」
「このままじゃ、ララはおかしくなってしまう。俺はどうすれば良い?どうしたらララの苦しみがなくなる?」
「ノアやおじ様おば様、エリカ、アルバート様、エリー様に謝った後の事がどうなっても私は受け止めるつもりなんだけど、私のせいでまた迷惑かけるかもしれないから、誰かに相談しないといけないと思ってるの…。
私は子供と同じだから。」
「俺達家族に謝る必要はないよ。だってララは俺達に何もしてないでしょ?
アルバート殿にもエリー嬢にも謝る必要はないよ。それはあの二人の問題だからね。
どうしても謝りたいなら、俺が代わりに謝っていたと伝えるよ。それならどう?」
「ノアはまだ体力が戻っていないもの、無理はさせられないわ。」
「じゃあもっと体力が戻ったら伝えるようにする。」
「私が直接謝らなくても大丈夫なのかな。
私のせいなのに。」
「元々誰もララに謝って欲しい人なんていないんだ。あの人…エリー嬢も逆恨みだって分かってはいるようだ。だから、ララが謝る事は何もないよ。」
「私のせいでアルバート様とエリー様が別れてしまったのに?」
「それもララのせいではなく、ララが可愛いからであって、二人きりになったから好きになったんじゃないよ。
それに、アルバート殿だけじゃなく、男はみんなララを一度は好きになるんだよ、だからララのせいじゃないよ。」
「私はそんなにモテないわ…声をかけられた事なんてないもの。」
「それは俺とパトリックで声をかけないようにしていたからだよ。」
「そう…なの?」
「そうだよ。後は何が心配?」
「エリー様は私のせいだと思っているわ。
それは間違っていないもの…。」
「ララのせいっていうか、ララの可愛らしさ?のせいかな。」
「ふざけないで、ノア!」
「ふざけてなんかないよ、大真面目だ。
あの女・・・・エリー嬢は、ララのせいにしなければ立ち直れなかったんだよ、きっと。自分でも、ララのせいじゃないって分かっていても、そう思わないと長年の婚約者が呆気なく他の人を好きになって婚約解消になるなんて我慢ならなかったんだよ。」
「私が謝ったら…きっと怒るわね…」
「うん、想像つくよ、“私を馬鹿にしないで!”って言いそうだよね。」
「フフ、なんとなく想像出来るわ。」
「ララ・・・」
「どうしたの、ノア?泣きそうだわ、手も冷たい。ここに一緒に入りましょう。
暖かいから。」
「ララ…うん、入らせてもらおうかな。
あ、本当だ、ララの温もりだね。暖かい…」
二人でベッドヘッドに寄りかかっていたが、ララを抱きしめた。
壊れかけていたララの笑顔が切なくて、泣きそうになったのを必死に堪えた。
「ララ、今度、散歩に行こう。二人でのんびり歩こう。ここの庭でも良いし、どこか公園でも良い。天気の良い日に行こう。」
「お散歩…お父様が出してくれるかしら…」
「俺がお願いするよ。ララは心配しないで。それにとってもアルフおじさん、ララの事心配していたよ、だから大丈夫だよ。」
「きっと嫌われてしまったわ、お父様に…。ノアに酷い事を言ってしまったから…。酷い事をしてしまったから…。」
「ララは酷い事なんてしてないよ、俺を叱ったんだ。だから俺は気にしてないからこうしてここにいるんだよ。」
「私、手紙を書こうと思ったのだけれど、また勝手に手紙を書いて、迷惑をかけるかと思ってかけなかった…ごめんなさい…遅くなってしまって。」
「俺も忙しかったから返事書けなかったから丁度良かったよ。だから気にしないで。」
「ごめんね…」
「今度、楽しい手紙を書いて。嬉しかった事、楽しかった事、怒った事、何でも良いよ、ララが書いて送ってくれたら嬉しいな。」
「うん、書くね。」
「ララ、少し待っててくれる?たくさん話したから喉が乾いたよね、お茶を出してもらうから待ってて。」
「うん」
ベッドから降り、部屋を出ると、心配気にパトリックが廊下に立っていた。
「リアは?リアはどうだった?」
「さっき起きて、今は落ち着いて話してる。一つ一つ、ちゃんと理由をつけて謝らなくて良いんだと言ったら、納得してくれたと思う。でも、いつ戻るかも分からないから、毎日誰かが言い続けた方がいいと思う。
悪い、お茶をもらえるか?
ララにお茶を頼んでくると言ったから。
じゃあ戻るから。」
「ノア・・・ありがとう…」
「何言ってんだよ、俺もお前に助けてもらったし、ララはお前の妹だ。」
そう言ってからララの元に戻ると、
「ノア!」と言って駆け寄って俺に抱きついてきた。
「戻ってこないかと思ったの…」
「戻るよ、大丈夫。さあ、この格好だと身体が冷えてしまうよ、ベッドに入って。」
ついこの間まで、しっかりしていたララは、今は子供のようで危ういのが分かる。
なんでこんな事にと、見えないように唇を噛んだ。
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