42 / 78
名前
エリー視点
ノアが初めて部屋に来た。
この男は私を何より憎んでいるであろう男だ。
暴力は振るわないだろうが、何しに来たのか検討がつかない。
「お前は幸せなのか?」
と聞いてきた。
は?と思った。
嫌なら子供は認知するから出て行けば、と言われた。
出て行って帰るところなんてない。
だから、美味しい食事も出るし、好きな事が出来るのだ、出て行くわけがない。
それを言ったら、また楽しいのかと聞いてきた。
だから楽しいと言えば、何やってる時が楽しいんだと聞かれた。
楽しい事なんて何にもない。
でも、意地でもそんな事言わない。
「楽しいわよ。」と言ってやった。
すると、会いたい人はいないのか、アルバートとか好きな人に会いたくないのかと聞かれた。
アイツを思い出した。
でも、いないと言うと、好きな人はいなかったのかと聞いてきたので、答えたくないので、帰れって言った。
ズバリ私に会いたい人がいると見抜かれた。
ノアは、いるなら会いに行っても良いと行った。護衛はつくが、会いに行っても良いと。
ラミリアに何もしないのなら外出しても良いと言われたので、
あの人が何処にいるのかも知らないし、会いたくもないし、するわけないと言ったら、
侯爵に許可を取るから行けば?と言われ、気持ちが揺れた。
会いたい男と浮気してきても良いと言われた。興味もないし、ノアにも興味はないだろ、激しい行為は気をつけろと言われた。
この男、とことん私が嫌いらしい。
それが自分の子供を身籠ってる女に言う言葉?
ま、あの男の子かもしれないけど。
突然、そんな事を言ってきたのが不思議で聞いた、急にどうしたんだと。
「もうどうでも良くなった。疲れた。」
と言って出て行った。
本当は、こんな所なんかウンザリだった。
誰にも労われる事もなく、話しかけられる事もない。
使用人全員、彼女の味方なんだろう。
そりゃそうだ、昔から婚約者で、嫁に来るのを今か今かと待っていたのだ。
こっちだってやりたくてやったんじゃない。
でも、やらずにはいられなかっただけだ。
可哀想とも申し訳ないとも思わない。
ただザマアミロと思いたかっただけ。
今はそれも終わったからこれ以上何もする気はないし、どうでも良い。
ノアなんて返品したいくらいだ。
でも、子供を産むまではここにいる。
例えノアの子供じゃなくてもこの身体では身動き取れない。
あの男の子供だったら、少し嬉しい。
誰とも会話してなくて、ノアと話すのすら、少し楽しかったくらいだ。
出かけようかな・・・・
でも護衛が付くのは面倒だ。
いつもの店から裏に出るのは無理だな…
出かけてみてから考えよう。
突然行ったら驚くだろうか。
でも、言われてすぐ出かけると疑われそうだから、数日開けて出かけた。
馬車を降りてブラブラ街を歩いた。時折、目的もなく適当な店に入りながら、目的の場所に近付いてきた。いつも裏口を使う店は通り過ぎ、あの店の近くに女性物の下着屋があった。
“こんな店出来たんだ”と思い、その店に入った。この店なら護衛も入って来れない。
「すみません、変な人に後を付けられてるんです、助けて下さい!裏口から出してもらっても良いですか?お願いします!」
と言えば、すんなり出してくれた。
あの男といつも会っていた空き家の裏口の鍵を開けて入ると、人の気配がした。
そっと入ると、あの男は知らない女とヤってる最中だった。
「あれ、お前、もう、来ない、んじゃ、なかった、の?」
「あー終わったら教えて。2階に行ってるから。」
2階に行くと、下からはまだ喘ぎ声とベッドの軋む音が続いていた。
2階のベッドで横になる。
ショックではない。
恋人ではないから。
確かにもう来ないと言ったし、
前も他の女とヤってるのを見た事はある。
ただ久しぶりだったから、二人だけで会いたかっただけだ。
上手くいったと報告したかっただけだ。
「ハア…帰ろ。」
下に降りても、まだヤっていた。
「じゃあ帰るわ」
「待て、もうすぐ、終わる」
待つわけがない。
私は外に出た。
裏の細い路地を抜けて、大通りに出た。
一人になりたかったから、まだ護衛に見つかるわけにはいかないから、すぐ近くのパン屋に入った。
バターの香りが食欲をそそる。
たくさんの種類のパンを見ていたら、外をあの男が走って行った。
胸がズキっとした。
きっと私を探している。
まさかパン屋にいるとは思わなかったんだろう。もう見えなくなった。
私はすぐパン屋を出て、さっきの裏口の細い路地を戻って、下着屋を通り過ぎ、いつもの雑貨屋を通り過ぎ、端まで行ってから、建物間の細い隙間から通りに出た。
ドレスは汚れたが関係ない。
遠くに護衛が見えたので、そこまで行って、
「もう帰ります」と言った。
視界の端にあの男が見えた。
二度とあそこには行かない。
その時、初めて自分がした事の酷さを痛感した。
私なんかより純粋な彼女に似たようなものを、私は見せたんだ。
吐き気がした。
悪阻は終わった筈なのに、吐きたくて、馬車を止めてもらった。
吐き気が止まらず、しばらく蹲っていると、
「大丈夫ですか?」と肩で息をしながら、汚いハンカチを手渡す、汗だくのあの男がいた。
「ありがとうございます…もう大丈夫です。」
これ使って下さいと男がハンカチを渡した所で、やっと護衛が止めにきた。
そのハンカチを受け取って馬車に乗った。
ハンカチの中に、名刺が入っていた。
“トラント薬店 ダリオ・ロッシュ”
裏には、走り書きで、“待ってる”と書いてあった。
名前は聞いていなかったし、聞かなかった。
あそこだけの関係だったから。
“待ってる”
馬車の中では絶対泣かない。
護衛がいる。
部屋の風呂場に入るまでは泣かない。
一人になれるのはお風呂場だけだから。
あなたにおすすめの小説
もうお別れしましょう!これであなたとはもう二度と会うこともないでしょう!
睡蓮
恋愛
ガーフ男爵はエリアスに対して思いを告げ、二人は婚約関係となった。しかし、ガーフはその後幼馴染であるルミナの事ばかりを気にかけるようになり、エリアスの事を放っておいてしまう。その後ルミナにたぶらかされる形でガーフはエリアスに婚約破棄を告げ、そのまま追放してしまう。…しかしそれから間もなくして、ガーフはエリアスに対して一通の手紙を送る。そこには、頼むから自分と復縁してほしい旨の言葉が記載されており…。
偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜
紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。
しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。
私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。
近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。
泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。
私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。
好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】
須木 水夏
恋愛
大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。
メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。
(そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。)
※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。
※ヒーローは変わってます。
※主人公は無意識でざまぁする系です。
※誤字脱字すみません。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
もう何も信じられない
ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。
ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。
その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。
「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」
あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
「代わりはいくらでもいる」と言われたので、私は消えました。——お茶会ばかりしていた私が何をしていたのか、ご存じないようで
藤原遊
恋愛
下級貴族出身の私は、伯爵家に嫁いでから、ひたすらにお茶会を重ねてきた。
それはすべて、この家を支えるためのものだった。
けれど夫は、それを「無駄な遊び」と切り捨てる。
「代わりはいくらでもいる」と。
だから私は、何も言わずに去った。
——その日から、伯爵家は静かに崩れ始める。
お茶会で築いていたものが何だったのか、誰も知らないまま。