一番悪いのは誰

jun

文字の大きさ
30 / 36

騎士の応援

しおりを挟む


俺は近衛隊の騎士をやっている。
ついこの間までやりたくもない妃殿下の専属護衛だった。
ほんっとに、ほんっとに、あの人が嫌いだった。
目つきも、匂いも、触り方も吐き気がするほど嫌いだった。
なのにあの人専属になった時、騎士を辞めようと思った。
止めてくれたのが隊長と副隊長だった。

「俺も妃殿下は嫌いだ。
目も合わさない。けど仕事は仕事だ。
だから全て仕事のせいにして、妃殿下の要求を断れば良い。
俺の名前を出しても構わない。
極力近付かないよう、逃げ回れ。」
と隊長が言い、

「俺もあの人は大嫌いだ。
一度も目を合わせた事もないし、要求に応えた事もない。
“仕事中です”、“イヴァン様に呼ばれていますので”、“この後交代です”、しかあの人とは話した事ないぞ。
ロレンもそれで乗り切れ。」
と副隊長に教えてもらった。

そして隊長の婚約者のローラ様からの差し入れのハンカチをもらった。
ローラ様は俺の顔色の悪さが気になったのか、騎士隊に来た時、真っ直ぐに俺の所に来た。
「ロレン様、大丈夫ですか?顔色がとても悪いです。
もし宜しければ、このハンカチをお待ち下さい。お守り代わりに毎日持ち歩いて下さいね。少し体調も良くなると思います。」
と俺にハンカチを二枚もくれた。

そのハンカチを持つようになって、劇的に体調が良くなった。
気持ち悪さも楽になった。
それからは気持ち悪くなる度ローラ様から貰ったハンカチを顔に当てた。
ローラ様には本当に助けて頂いた。

そのローラ様が、あの人のせいで大怪我をしたと聞いた時、俺は怒りに震えた。
何もしていないローラ様を、ただ隊長を籠絡したいが為に殺そうとするなんて許せなかった。
そのせいでローラ様は足に麻痺が残ってしまった。
聖女様のお力で少しずつ麻痺を無くしていくようだが、かなりの年数がかかるだろう。
筋肉を落とさない為の運動も、歩く訓練も凄まじいものだろう、どれほどローラ様はお辛いだろうと思っていた。

ローラ様は俺達に怒っていた。
何をしていたんだと、こんなに人間がいてどうしてここまで放置したんだと怒っていた。

確かにそうだった。
ただあの人から逃げていた俺は、何か変だ、嫌だと分かっていたのに何もしなかった。
隊長も副隊長もだ。

謝罪はいらないから、王宮庭園への立ち入り許可を望んだローラ様は、そこで自分の姿を見ていてほしいと言った。
妃殿下を放置していたせいで私が歩けなくなった事を嘆くのなら、月に一度自分の姿を見て二度と起きないよう魅了への対策を練ってほしいと望んだ。
そして歩けるようになったら、みんなで褒めてほしいと言った。


それからローラ様は庭園に月に一度現れた。

俺はその日は必ずローラ様を見に行った。
立つ事すらできなかったローラ様が立てるようになった時は思わず拍手してしまった。
ふと見ると、離れた所で庭師の爺さんも応援しているようだ。

気に入らないのは、たまに現れる“影”だ。
ローラ様に付いている“影”はローラ様が転びそうになるとローラ様を助けて、すぐいなくなる。
俺だって助けたいのに!
こんな事なら近衛ではなく“影”になれば良かった!

そして三回目でローラ様の足は動いた。
ほんのちょっとだけど、確かに動いた。
普通だったら有り得ない。
でもローラ様の足は自らの力で動かせた。
汗だくで、辛そうで、見ていられないほどだったけど、ローラ様の足は動いた。

俺は「おーし!」とガッツポーズを取った。
ふと周りを見ると、同じように喜んでいる人がポツポツといた。
それぞれがローラ様を応援していたのだろう。
離れた場所にいた、いつも難しい顔をしている重鎮の大臣も笑顔で喜んでいたのを見て、泣きそうになった。
俺が見ていたのに気付いた大臣は、親指を立てて、俺に笑顔を向けた。
俺も親指を立てて笑った。


庭園で訓練を始めて一年経った時、ローラ様が三歩歩いた時は、大歓声が上がった。
最初はほとんどいなかったギャラリーは今では目立たないようにしていても、気付けば大勢の人間が見守っていた。


それからもローラ様は庭園での訓練を続けていたが、いつも隊長か侍女だった付き添いが、男の護衛になった。

「あ!あの男⁉︎」

“影”の男はローラ様の専属護衛になっていた。

クソ────────!
俺がなりたかった──────!


でも、俺はここでローラ様を城の皆んなで応援していきたい。
いつかローラ様が歩けるようになった時、この場所で、応援している皆んなと共に喜びたいと思っている。
その時、どれだけの人が応援していたのかローラ様は驚くだろうな。

早く歩けるように祈っているが、ローラ様の姿が見れなくなるのも寂しいと少し、ほんの少し思ってしまう俺ってダメだな…。

ちょっと切ない気持ちにもなるが、俺はローラ様の応援をいつまでも続けると誓った。















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

騎士の妻ではいられない

Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。 全23話。 2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。 イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。

買われた彼を解放しろと言うのなら返品します【完】

綾崎オトイ
恋愛
彼を解放してあげてください!お金で縛り付けるなんて最低です! そう、いきなり目の前の少女に叫ばれたルーナ。 婚約者がこの婚約に不満を感じているのは知っていた。 ルーナにはお金はあるが、婚約者への愛は無い。 その名前だけで黄金と同価値と言われるほどのルーナの家との繋がりを切ってでも愛を選びたいと言うのなら、別に構わなかった。 彼をお金で買ったというのは、まあ事実と言えるだろう。だからルーナは買ってあげた婚約者を返品することにした。 ※勢いだけでざまぁが書きたかっただけの話 ざまぁ要素薄め、恋愛要素も薄め

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

【完結】私が貴方の元を去ったわけ

なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」  国の英雄であるレイクス。  彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。  離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。  妻であった彼女が突然去っていった理由を……   レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。      ◇◇◇  プロローグ、エピローグを入れて全13話  完結まで執筆済みです。    久しぶりのショートショート。  懺悔をテーマに書いた作品です。  もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

6年前の私へ~その6年は無駄になる~

夏見颯一
恋愛
モルディス侯爵家に嫁いだウィニアは帰ってこない夫・フォレートを待っていた。6年も経ってからようやく帰ってきたフォレートは、妻と子供を連れていた。 テンプレものです。テンプレから脱却はしておりません。

女性治療師と距離が近いのは気のせいなんかじゃない

MOMO-tank
恋愛
薬師の腕を上げるために1年間留学していたアリソンは帰国後、次期辺境伯の婚約者ルークの元を訪ねた。 「アリソン!会いたかった!」 強く抱きしめ、とびっきりの笑顔で再会を喜ぶルーク。 でも、彼の側にはひとりの女性、治療師であるマリアが居た。  「毒矢でやられたのをマリアに救われたんだ」 回復魔法を受けると気分が悪くなるルークだが、マリアの魔法は平気だったらしい。 それに、普段は決して自分以外の女性と距離が近いことも笑いかけることも無かったのに、今の彼はどこかが違った。 気のせい? じゃないみたい。 ※設定はゆるいです。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...