The Cross Bond Side Story

夜桜一献

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The Cross Bond Side Story Ⅰ

第一話

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 近年、国家防衛に関する憲法改正に伴い大幅に自衛隊の運用が様変わりをした。国家転覆を狙う組織の核の密輸入や他国への情報取引を皮切りに米国が組織に目を付け国家に仇なす組織の解体に日本と共に力を注ぎ始めたのである。米国、ロシアが背後に居る中で、進展の無い某国はテロリストによる蹂躙が続いており、難民はこぞってドイツを目指し、またその周辺国へ難民に行こうと民族大移動を始めた。誰も、国に残ってテロリストと戦うという意思が無く、命からがら他国へ逃げるのが精一杯の行動になっている。それは、無理の無い事なのだ。対立する政権の裏に米国とロシア、そしてテロリストの背後には米国とロシアに辟易しているアラブ諸国連合が宗教上の上でも背後に居る。金と物資と銃と弾が尽きる事のない戦場に一般市民が入り込んだ所でどうする事も出来ない。誰もが英雄を望んだが、鋼鉄を纏ったヒーローは現れる事は無かった。日本も、米国の施設が破壊されて某国の状況が変わった所で米国からの要請が出た。あくまで銃弾や食料の支援ではあるが現地に向かって状況を調査する目的と、周辺に居る市民への介護を含めた後方支援任務である。近年空路に飛行中の飛行機をテロリストが破壊した事から、空路以外のルートから支援物資を調達せねばならず、年々補給物資の確保が難しくなっているのである。そして今、何十台も続く自衛隊の高機動車と輸送車の群れが、某国との国境を走っている。日本とは違って、道路しかない360度四方が唯の地面で後は山しか見えない。

「金森絵美(かなもりえみ)2等陸士。自衛隊に成り立てでこんな任務についてくるとはな。人生波乱万丈が好きなのか?」

 輸送車を護衛し、周囲に気を配って警戒しているのが高機動車に乗る者の役割である。金森絵美は望遠鏡で進行方向の右側を警戒していた。高機動車を運転している隣の上官が、隣に居る絵美にそう尋ねた。まだ幼さの残る容姿をしている。経験も殆どないが、今回の遠征任務に志願し、通った。米国との関係も重視された失敗の出来ない任務に選ばれたのは何も優秀だったからという訳ではない。辞退者が続出した為でもある。自衛隊は人を助けるのが主ではあっても、人を殺すつもりで自衛隊を志願した訳ではない、という思想の者が結構居るのも事実なのだ。無論、国の為に引き金を引けるという者も居るが、覚悟のある奴がどれだけいるかと言われれば、それは誰にも分らない。こればかりは、湯船に浸かる所作の如く足の指先から徐々に慣れていくしかない。日本の変容にすぐに気持ちが切り替えられる訳ではないのだから。

「今回の任務が終わったら、京都にある部署に転属願いを出そうかと思ってるんです」

「へぇ、京都はイイ所だぞォ~。まぁ何年も前の地震で大分景観も変わっちまったがなぁ」

そういうと、絵美は暗い影を落とした。

「私、あの地震の被災者なんです。あの時気が付いたら、周りが瓦礫の山でした」

「そう・・・・・・だったのか。俺もあの時後で避難民の支援に行ってたからなぁ。あの状況の悲惨さは良く分かってるつもりだ。良く生き延びたな。辛くはないのか?また京都に戻るのは」

「あの地震、本当にただの地震だったんでしょうか」

「どういう事だ。唯の地震じゃないって・・・あ、あれかぁ?ネットで出回ってる陰謀説。作られた人工で作られた地震で隣国の嫌がらせじゃないかっていうアレだろ?」

「私、見たんです」

「見たって、何を?」

「黒い変な化け物が、暴れまわっているのを」

絵美は、真面目な顔をしてそう告げた。

「だから私は京都にある、陰陽庁と深い関わりのあるといわれる九条駐屯地へ行きたいんです」

「あー近年出来た変なトコって有名なあそこかぁ。化け物を相手に銃弾で対処するっていう変な噂で一杯の。どこまで本当か知らないけど行ってガッカリはするんじゃないぞ。所詮噂なんだからな。何だ、案外オカルト好きだったりするのかぁ?ハハハ」

(あの九条駐屯地が出来たのは、調べた限りではあの地震以降。あの一件の事を知っている人は、きっと居るはず)

 目を閉じる。あの地震で巻き込まれて、気が付けば周辺は瓦礫の山と化していた。火が回って、京都はそこらじゅうに煙が立ち上っており、火事も見える。一体、どれだけの時間自分は寝ていたのだろうか。ゆっくりと立ち上がって、変わり果てた京都の街並みを眺めた。大声が響き渡って、何事かと後ろを振り向く。小さな女の子に見えなくもないが、全身黒く、目は白色。黒いオーラの様なモノを全身から出しており彼女が吠えた瞬間、また地響きが起こった。大きな揺れで、立って居られない。足が震えて、尻餅を着く。殺されるかと思った瞬間、自衛隊の男性が、自分を抱えてその場から走る。揺れは続いているが、先ほどよりも大きくは無い。

「いいか、あいつを見るな。興味を惹かれたらそこで人生終わっちまうぞ!!」

 全く別の方角から銃を構えていた彼の部下が、援護射撃で化け物を撃ってそちらに興味を惹いた様で、反転してそちらへと向かった。

「糞ッ・・・糞ッ・・・生きて帰って来いよ前田ァ!!」

 彼も、私を抱えて涙を零しながら走っていた。これは夢なんじゃないかと思ったが、避難所に着いて一日が経過して、寝て覚めてようやく私はこれが夢じゃないと実感したのだ。見慣れた京都の景観は戦後の日本の写真の様に、焼野原と化している。大勢の死者も出て、悲壮感漂う京都という古都はそんな災害に見舞われながら数年が経過して新しく復興させていったのである。

(でも、あれは・・・・・・)

 災害なんかじゃなかった。それを確かめる為、絵美は自衛隊になった。


 米国のキャンプの中継地点が近くなると、警戒を一層強める。すでに米国の施設は破壊されて【中継地点】まで撤退している状況下にある。どこにテロリストが潜んでいるか分からない状況に緊張が走る中絵美は東後方にテロリストが車で走ってくるのを見つけた。

「後方に敵を複数台発見。輸送車に突っ込んで来ます」

「やれやれ、仕事だな。姿勢を低くしろ」

 上官がそういうと、呆れた口調でアクセルを踏んで高機動車を動かした。5分程前進すると目視で確認出来る距離になる。敵が突っ込んで来るのも構わず前進した為、敵からのサブマシンガンの発砲によってフロントガラスに皹が入った。相手も外国産のジープを乗り回しており目視で確認出来るだけで3人程乗っている。絵美も負けじとハンドガンを発砲をしたが武器と人数の差に勝てそうもない。お互いの車で銃弾が跳ねて火花が散る。

「後ろに回って、スナイパーライフルを使え。抜いてターンしたら横から狙うぞ」

「了解」

 スナイパーライフルを構えて、車の窓口から撃つ姿勢を取る。車は上官が思い切りハンドルを右に回して輸送車の方角に向き直る。そのまま少し距離を置いて並走する形で敵を捉えた。テロリストの乗る運転手がこちらに発砲を仕掛けてきたが銃の射線がぶれている為、絵美は当たらないと判断した。テロリストがグレネードランチャーを構えた所で撃たせる前に引き金を引くとタイヤをパンクして回転しながら、車は動きを止める。と同時に明後日の方向にグレネードランチャーが飛んでいき、爆発した。周囲を確認したがテロリストはその1台だけだ。襲撃するには数が少なすぎる為、自衛隊相手にはそれで充分と侮られたか、はたまた警告しに来たのかのかのどちらかになるだろう。

『こちらVC9、テロリストを発見。パンクさせて動きを封じてる。応援を要請すると共に各自警戒を。そちらの状況は?』

『こちらVC7。こちらも撃退に成功した』

『やっこさん車を捨てて逃げてる』

『こちらVC7、目視で確認した。これより確保に向かう』

「ったく、どうせ捕まえても米国に引き渡しになるだけだろうに。面倒臭い何にせよ、お手柄だったな絵美二等兵」

「いえ、運が良かっただけです。地面が荒れてなくて揺れが少なかったお陰ですし。それより、人数が少なすぎるのが気になりますね」

 沢山石があったり、凸凹道ならこう上手くはいかない。

「そうか?ここは腐っても米国の中継地点だぞ。そんな場所に遠足宜しく大勢でパーティに来れるワケねぇ。レーダーや衛星に見つかって即終了だろ。ならほぼ単独で来た方が確立はぐんと上がるってもんさ。そもそも、こんな無駄に広くて道路以外何も無い場所なら尚更よ。後は自決覚悟の玉の座ったイカレた宗教者にやらせりゃ勝手に死んでくれるしな」

 自決するかと予想を立てたが、驚くほどアッサリと手を挙げて捕まった。

「言っとくが、こんな任務はモノのついでだ。中継地に行ってからが自衛隊員の腕の見せ所になるだろうよ」

 上官の言った事は本当で、中継地に着くなり、怪我を負った一般市民の介護お風呂の施設の設置、炊き出しに簡易テントの設置等、地震大国日本で培われた自衛隊の技術を見せる事となった。米軍への物資の受け渡しも滞り無く行われ、約2週間の滞在を持って自衛隊は後方支援任務を無事終えて帰路へと着いた。 死人が出なかったのは幸いだったが、後方支援任務と言えど他国では数十名の殉職者も出ている危険な任務である。今回の襲撃が車両数台による特攻であったからこそ良かったものの人海戦術による特攻であったならば、損害は免れなかったはずである。政権野党に足を取られかねない状況になるのは、避けたい狙いもあり今回の任務は無事に帰還するまでが任務ともいえる。いずれにせよ日本もテロリストによって多大な犠牲を被った時、各国と組んで某国を攻め込む図式が想像に難くない。日本に戻った後、転属希望が叶って、絵美は京都にある九条駐屯地へと足を踏み入れた。ゲートの前で、誰かが自分を待ってくれている。一人は呆れた表情で自分を見ている男性と、もう一人は眼鏡の美青年。自分を救ってくれた二人が自分を出迎えてくれている。

「本当に来ちゃうんだもんなァ。絵美ちゃん、前田は結構久しぶりだろ?」

「こら、ちゃんと絵美二等兵と呼べ」

「型ッ苦しいねェお前は相変わらず」

「お前が緩すぎるんだ」

二人の前で、時刻を確認して、それから敬礼して報告した。

「本日、正午(ヒトフタマルマル)を持って本日こちらの九条駐屯地へ着任した金森絵美二等陸士です。宜しくお願いします!」

それから、絵美は二人に微笑んで、挨拶を交わしたのだった。
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