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The Cross Bond Side Story Ⅱ
第二話
しおりを挟むクリス・アルバートニーは、京都の市内を散策していた。というのも、観光が出来る時間等滅多に無い事で、今の今まで任務という仕事漬けにされていた為、こういった人並みの幸せを忘れがちになっていた。来る日も来る日もゴーストやモンスターの処理という殺伐とした毎日を送っていれば、如何にこの状況が素晴らしいものであるか理解出来るだろう。蕎麦屋に赴き、ズルズルと黒いヌードルを啜って気付く日本の文化の独特さと面白さ。他国に来ている実感が観光気分を高揚させる。ヨーロッパ、南米、北米とかなり色々回って来たが、アジア圏には足を踏み入れた事はない。
「蕎麦は美味しいわね。最後に出てきたスープが何なのかわからないけれど」
クリスは蕎麦湯に困惑していた。
そんな時、ドン!という轟音が周囲に響き渡った。何事かとクリスは会計を済ませて音のした方角へと足早に駆ける。そこには沢山の人だかりと、九条駐屯地の展示会が行われている風景が広がっていた。天候も快晴。絶好の展示会日和りである。本来、立ち入り禁止のエリアに、この日だけ無条件に市民の入場を許す。絵美は訪れた沢山の市民客を誘導しながら、ブルーシートを引いたエリアに案内する。残念ながら全員座らせる事は出来ないので席が埋まった後は立ち見客になるのだが、それでも展示会の様子を見たさに普段来ない市民が訪れる。プログラムは始まり、音楽隊の音楽と共に車両が動き始める。アナウンスで各車両の説明が流れデモンストレーションの空砲が鳴り響くと大いに盛り上がった。やがて、修道女の恰好をしたかなり目立つ女性が施設の中へと入って来るのが見えた。絵美は慌てて案内に向かう。
「丁度、席が空いてますのでどうぞこちらへ!!」
「?」
ブルーシートの席に座って貰って、絵美が元の立ち位置に戻る。何故か幹部の座るテントの中が酷い咳でむせ返っていた。
「おい、あれ十二使徒の・・・」
「クリス・アルバートニーですね」
「何故ここに居るんだ!?」
「分かりません・・・前の件を根に持っているのかも」
「何が起こるか分からん。限りなく注意を払え」
そんな幹部の緊張は他所にプログラムは消化されていく。子供たちと一緒に、レクリエーションを行ったり玄人同士の格闘戦闘の実演を行うと歓声が上がった。市民にしてみれば十分及第点以上の娯楽に思えたかもしれないが、クリスにすれば退屈極まりないものである。
「何方か挑戦する方はいらっしゃいますか?」
等と煽られたら、軽く捻って世界を教えてあげるのも一興だろうと思うのは仕方の無い。クリスが手を挙げると、マイクを持った司会の自衛官が顔を引きつらせている。
「聖職者の方はちょっと・・・」
どっと笑いが巻き起こる。
「怪我するから、お嬢ちゃん止めときな!!」
等と、ムキムキの自衛官がパフォーマンスしてくる。クリスは静かに立ち上がって移動する。
クリスは少し苛ついて、向い合った瞬間目にも止まらぬ速さで背後に回って膝を九の字に折り曲げさせ
地面と膝がくっついたら背後から首を絞める。
「----!?」
「余り、舐めない事ね」
「おおっと!!これはすごい!!自衛官が逆に取り押さえられてしまった!!これを覆せるでしょうか!?頑張れ自衛官!!」
「ムリギブ!!」
「早い!!あっさりギブアップしたな!!大丈夫かコレ!!」
幹部のテント内では、顔を曇らせる者と、戦々恐々として震えている者に別れている。
「それで、私に勝てる人いるのかしら?」
「おおっと!!大胆発言が出ました!!受けて立つ自衛官急募だァ~!!」
『やってやるぜ!!』と勢い良く立ち向かう自衛官達。
それから10分もの間、マッチョな自衛官達がクリスに挑み続けたが全て一瞬にて決着を付けられて敗北を喫した。今度は、眼鏡を掛けた落ち着いた男が現れる。
「さぁ、最後は前田一輝二等陸尉です!!勝ってくれ~!!」
前田も間合いを詰めてシスターに掴み掛かる。
それをいなして投げてやろうとクリスが思考していた時、前田が耳元で囁く。
「こんな勝手をしては困るな。司祭のエクレア・アルバーンに抗議を申し立てる事になるが構わないか?」
流石に、日本支部の司祭の名前が飛び出してクレアも狼狽する。
「どうしてその名前を?・・・ああ、そう。貴方が」
秘密裏に自衛官と教会で妖怪を討伐する機会を作っているとクレアは聞かされていた。恐らくそれにこの男が関与しているのだろうと察しはつく。
「この辺で負けておいてくれないか?流石に面目が潰れてもこちらも困るんでね」
「取引って訳?」
「そうだ」
クリスは貴重な時間を上司の小言に消えるのは避けたい所である。仕方なく、力を弱めて前田が押し倒してマウントを取る。司会を務める自衛官も冷や汗をかきながら実況を最後までやり遂げた。
「決着!!前田二等陸尉の勝利に拍手をお願いします!!」
歓声が上がって場は大いに盛り上がった。幹部達も安堵の表情を浮かべる。最後のプログラムである、人質救出のデモンストレーションの時間が近づき、白木が市民の中から人質役をやりたい人を選出して建物の2階へ連れて行く。2階の部屋に連れて行くと、それぞれに簡単なテープを巻くように説明した。縛られている振りでいいので本格的にする必要は無い。全員で8名は居るだろうか。
「で、私が本日立て籠もり犯の役を務めさせて頂く白木と申します。皆さん、本日は楽しんで下さいね!!」
「あの~質問いいですか?」
「なんでしょうか」
「あの、窓の外から見える黒いの何ですか?」
「・・・?」
白木が、ゆっくりと窓に近づいて市民に背を向ける。すると、後ろ首筋から思い切りスタンガンの電流を
流され、白木はショックで痙攣を起こして地面に倒れた。紛れ込んでいたもう一人もスタンガンを手に残りの6名をけん制する。そして白木に攻撃を加えた者が、白木の衣類を弄り、拳銃を手にしてにやりとする。
「ここから先はデモンストレーションじゃない。本物のテロだ!!手足を縛らせてもらう」
「いいか、声を上げるんじゃねえ。こいつから奪った銃でド頭をぶち抜くぞ」
6名の市民は頷いて大人しくしている。これがデモンストレーションの延長なのだろうと考える者が多かったかもしれない。
窓を開けて、上着のジッパーを下ろしてマイクと拡声器を掲げる。
『いいか!!俺たちは九条駐屯地に反対である!!政府は今すぐここの撤去を約束せよ!!さもなくば人質を30分に一人ずつ撃ち殺す!!』
始まったと市民が騒ぐ中、自衛官の誰もが一瞬で顔を青ざめた。予定に無い白木以外の市民からの犯人役等ありえない事である。ことさら重火器をアピールしている。
しかし、唯一良く分かっていなかった絵美が、アナウンスを開始した。
『さぁ、盛り上がって参りました!!本日最後のプログラム、人質救出のデモンストレーションが始まりますよぉ~!!』
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