The Cross Bond Side Story

夜桜一献

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The Cross Bond Side Story Ⅱ

第五話

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 京都市街の北側には、京都震災の跡地、爪痕が今でも深く残る地域がある。観光地域から離れて、元々古い家屋が多かった事もあるが、多くの住民が建て直しよりも他の県や別の居住地に移ってしまい、人が寂れてしまった事で逆に貧困層や外国人やアンダーグラウンドの人間が好んで集まる下地が出来てしまった。震災の爪痕深く残る地域ながら、夜の街として人が多く集まるのも特徴的と言える。今にも傾いて倒れそうな廃墟や、窓が割れている2階建ての建築物に明かりが灯っているのは珍しい事ではない。近年この地域を建て直す為に声高らかに政治家志望の者達が街宣運動等を行っているのも有名な話である。現実的に政府がこの地域の取り壊し等を行うには、持ち家の持ち主に許可を得ねばならないのだが、探しても連絡が取れない等トラブルで中々上手く集まっていないせいで遅れているという実情もある。そんな地域の中で、廃墟の地下施設をクラブに改造した建物があった。多くの若者や外国人が集まっておりDJの鳴らす音楽と壁には大きな液晶パネルが掛けられており、煌めく光に包まれながら、音楽と共にダンスに興じている。バーカウンターの中でカクテルを作る金髪の青年は、常連が来た事で挨拶を交わした。柄の悪いこの辺に住む青年達である。顔見知りという事もあって青年の顔は綻んだ。

「今日は早いですね、いつものでいいすか?」

「おう、ジンロックで宜しくゥ!!ったくお楽しみはこれからって時によォ」

「何かあったんです?」

「聞いてくれよ。ゲーセンで俺に完封しやがった野郎がどんな奴か見たら、モヤシみてーな奴でよ。でも連れてる女が超イケてんのよこれが」

「わーさん、黒髪美女が好みって言ってましたっけ」

「そう、ドストライクな訳。なもんでお姫様を守る騎士君をボッコしてカラオケに連れて行こうとしたワケ」

「そしたらいつの間にか消えてて超ウケるわ玉金蹴られるし最悪だったぜ」

「瞬間移動したよなあれ。目ェ瞑った瞬間消えたんだぜ?」

「何やってんスか」

青年は呆れながら、彼等の話題に入って会話を盛り上げる。それから10分ほどした頃合いに

一目で分かる異常な存在がこのクラブに侵入してきている。

金髪の青年は思わず、カクテルを作る手を止めてしまった。

「何、今日何かのイベントだっけ?」

「え、どうしたの?」

「ほら、コスプレしてる奴いんだけど」

「マジ!?うわ、カッケー!!」

人に注目を浴びつつも、4人の居るカウンター席に近づいた。

「何じゃこいつ。コスプレぱねェ~」

金髪の青年が、職場の先輩に尋ねる。

「先輩、今日何かのイベントっすかぁ?」

せっせとカクテルを造るバーテンダーが首を傾げた。

「いや、何も聞いてないんだけど」

ガラの悪い4人が、ベタベタとその存在に触って感触を確かめている。エイリアンの様な風貌をした存在。目はギョロギョロと大きいのが特徴的で爬虫類の様な滑らかな肌さわり。温かみがあって生きている感触が凄まじい。

「やべェ、モノホンにしか見えねェ。あんたすげーよ」

褒められて嬉しかったのか、怪物は目を細める。それから男の手に噛り付いて、引き千切った。暫しの思考停止。その後痛みが迸り男は我に返った。

「いってええええええええええええええええええええ!!痛てぇよ!!何だよ糞!!」

化け物が喉元に噛り付いて、首と胴体を分ける。転がった首がカウンターに乗り、彼の顔が乗る。悲鳴を上げて、腕から血が広がり周囲を血の海に変える。先程まで楽しかったダンスホールが、一転して阿鼻叫喚の地獄絵図に変わった。

「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」

女性が悲鳴を上げて逃げ出した。それからは雪崩の様に人が逃げていく。次々と逃げていく中で、カウンターに居る3人だけは逃さないように道を塞ぐ。逃げ遅れたバーカウンターに居た金髪の青年とその先輩がカウンターに身を潜めて息を殺している。

「何で俺達だけ・・・どけよ化け物!!」

「俺、まだ飲んでねえよな。何だよこれ・・・」

「わー太が、息してねえ。なんだよこれ!!何なんだよこれ!!」

「見りゃわかんだろ!!首を齧られたんだよ!!」

「分かるかよ!!悪い夢だろ!?」

「こうなりゃ弔い合戦だオラ!!やってやんぜ化け物!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

泣きながら突進して喚く男達を化け物が爪を伸ばして二人を突く。それから最後の一人を尻尾で捕まえて、縊り殺した。次いでに頭を齧ってすぐに吐く。楽しそうに、不味そうに、そんな顔をして化け物はゆっくりと元来た道を戻って行く。そっと、金髪のバーテンダーの青年が嵐が去った事を確かめた。目の前には、わー太と呼ばれていた青年の首から上が乗っており、床には大量の血と死体が4体転がっている。それらを目の当たりにして、青年は床に吐瀉物を撒き散らした。玄関に溜まる人だかりは、化け物の叫び声によって蜘蛛の子を散らす様に逃げ去っていく。それから化け物は、跳躍して建物の屋上へと飛び移った。気分が良いのか下を眺めている様にも伺える。

化け物が叫びを上げるとその場の全員が戦慄に身を震わせる。

次は自分達の番ではないかと恐怖に身を竦む。

化け物は、今宵はこれで終わりだとばかりに夜の闇に紛れて去っていく。

この場に居た何人かの者はその光景を携帯のカメラで撮影していた。

この夜、突如として現れた怪物は確かに存在するのだという証として

ネットの世界で拡散していく事となった。

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