The Cross Bond Side Story

夜桜一献

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The Cross Bond Side Story Ⅱ

第十三話

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「まずは俺から行く」

黒田が両腕を上げて、前腕の機構が変形する。それと同時に、バックパックから小型のミサイルランチャーが出現して4基共に照準を合わせる。黒田は3人と同じスーツを着る事は残念ながら出来なかった為、教会が開発しているパワードスーツの試作品を提供して貰う形となった。動きはハッキリ言って鈍重で、火力重視の仕様である。轟音と爆発が巻き起こり、熱と衝撃が響き渡る。前腕のガントリングガンは霊子銃であり、エネルギーが切れるまでは弾切れを起こす事もない。5分もの間は続けて連射可能となっている。

「やったか?」

爆発の煙が晴れて、4人は警戒するも化け物はすでに大きく形を変えている。両腕はすでに捥がれ、焼け焦げた匂いが鼻につく。肩から胸は抉れており、地面に伏した。

「何や、あっけないもんや。俺の出番のうなってもたやないか」

「・・・構えは解かないでよ」

「分かっとる。流石に痛い目は一回で十分やで」

前田、広間、秋山も銃を発射する。飛び散る黒い肉片に、痙攣した様な動きを見せる化け物。

一度銃撃を止めて、広間が霊子剣で足を斬りつけるとあっけなく尻餅を付く。

4人が近づいて銃口を構えると、化け物が怒り狂い、奇声を発する。

再生速度が尋常ではなく、一瞬のうちに欠けた体が元に戻っていく。広間が霊子剣で攻防を繰り返し、それに前田も加わった。一対二ではあったが体の調子が戻っていない状態なのだろう、二人が優勢なのは見て取れる。剣術は素人と言って過言ではないが、触れれば斬れる強みが二人にはある。相手も斬られたくはない意識があるせいか、強気で攻めては来ない上に、回避に注力している。防いだ箇所から削れていき、すぐに再生するのを生かして、カウンターを食らわせて広間を殴る。広間を吹き飛ばして、それを黒田が受け止めた。

「あ痛っ!!衝撃が入ってきよった」

「すまん、チャージに時間が掛かるようだ」

「俺達だけで後は何とかするさ」

「何とかって・・・・・・この再生能力。あの時の奴みたいな怪物よ?」

「いや、消耗はしてると見て良い。俺達で繋いで、もう一度火力を浴びせれば!!」

前田の考えは正しいと言えた。並みの妖怪や怪物であれば或いはその作戦で殲滅できたと言える。しかしながら目の前の怪物は、良く知恵が回る。銃声が聞こえるよりも早くに化け物は一度大きく跳躍してみせた。夜空に浮かび上がり、翻して、落下する。自重をかけて目いっぱい力任せに着地した。地震が発生したかのようにビル毎揺れると、遠藤達の足元にも亀裂が入る。化け物は厭らしい笑いを浮かべているように見えた。

「ーーーーーーーーーーーー一斉射撃だ!!」

被弾を気にせず、化け物は再度跳躍してまた着地する。

今度はビル全体の壁にも亀裂が迸った。衝撃で立つ事も出来ず黒田は倒れ

遠藤も膝を付き、秋山も身動きが取れずに硬直する。

「冗談やあらへん!!俺は、陰陽師が出来ひんかった化け物をこれで倒すんや!!」

広間の思いも空しく、3度目の跳躍と着地で遠藤達の足元は崩壊した。幾度かの銃声と爆発がビルの屋上で聞こえ、集まった野次馬が声を荒げて逃げ始める。ビルの崩壊を目の当たりにしてエクレア・アルバーンは不味いと感じたのか、その場の全員に命令を下した。

「負傷者の救出が最優先。結界を張って上から落ちる瓦礫に備えなさい!!」

まだ動く事が出来ない要救助者も居る中で、現場は混乱を極めた。周囲に展開しているシスター達が装置を起動させて結界を張り巡らせる。鉄骨、壁や石が上空から降ってくる。紅葉、春坂と白虎も周囲に結界を張り巡らせてカバーした。最上階から2階下までの層が潰れて破片が落下してくる。全ての人を助けられる訳ではない。絵美も覚悟を決めて少女を庇う。その時、緑の粒子が建物の360度四方に光輝き、瓦礫が消失していく。その光景を、神の奇跡と称える者。理解に苦しむ者、その現象に心辺りがある者と思う所は様々である。少年は赤い髪の毛の少女の面影を探したがどこにも見当たらない。その少女は崩れたビルの屋上の更に上の上空に浮遊している。綾乃は洵と一緒にカラオケで遊んでいた。ひとしきり歌い終わって、外に出ると騒ぎになっており、慌てて駆けつけて状況を眺めていた。陰陽師と呼ばれる退魔師の仕事をしている葵の姿も目撃した。際どい攻防の中で必死になって市民を守りながらエイリアンと呼ばれる怪物と彼は戦っていた。自分ならあのエイリアンを軽く手を捻る事が出来るだろう。しかし、これまで彼の戦いが全部無駄になる。負傷した人たちの事も含めてである。綾乃は初めて自分の好奇心と戦い揺れていた。腕を組んで目を閉じて、真剣に綾乃は考える。

「興味がないと言えば嘘になるよ」

エイリアンと直接会ってみたくはある。

「でも葵君にも嫌われたくないし・・・」

悶々と彼女が自分の思考の無限ループに嵌っていると、携帯が鳴って、二宮洵の名前が画面に映る。

携帯が鳴る。

携帯が鳴る。

ついでにLINEがくる。

メールがくる。

携帯が鳴り響く。

「~~~~~もう!!洵ちゃんのせっかち!!」

肌寒い事に気が付いて、瞬時に元居た場所へ瞬時に移動すると見知った顔が呆れた顔で待ち構えていた。

「お疲れ様。戻って来なかったら、どうしようかと思案してた所よ。咄嗟にあんたは良くやったわ。誰にも知られる事はないけど、私はあんたを誇りに思うわ」

「えへへへへへ。ありがと洵ちゃん」

「じゃあ、もう夜も遅いし帰るわよ」

「それなんだけど・・・・・・」

綾乃は今も倒壊しそうなビルの方角を眺めている。

道路を遠藤と白木が走りながらビルへと向かっていく。途中で赤い髪の毛の少女を見つけて、遠藤は胸内で感謝した。
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