The Cross Bond Side Story

夜桜一献

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The Cross Bond Side Story Ⅲ

第十四話

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  京都御苑にて、エイリアンと騒がれた化け物は討伐された。絵美は討伐の様子を金網の向こう側から見ていた。必死で戦う退魔師達の奮闘を。紛れもなく命を掛けて少年、少女達がこの国の国家安全保障を担う同志である事を認識させられた。あれから京都御苑に住む住人達の避難所にて説明が行われた。真実を話す訳にはいかない為、危険な動物が輸送中に逃げたので事前に説明して用意した区域に避難してもらい、案内をしていた。その危険な生物が射殺された為、脅威は去ったと伝えるも怒号の嵐であった。訳も良く説明もされずに連れて来られた方も中にはいたらしい事、説明の内容が信じられない為、自衛隊が勝手に遺伝子を操作して作った人造の獣がエイリアンで、責任は政府にあるのではないかと疑って掛かる者、様々ではあったが、長時間の時間の拘束に市民が苛立っていた事は紛れもない事実であった。協力の感謝を述べたものの、解散しても尚熱が冷めやらぬ者は嗅ぎ付けたメディアに情報を提供したりして一時期騒ぎになった。しかし圧力がかかったのか、すぐに鎮静化へと至っている。市長からもメッセージを発信され、市民の不安は取り除かれた形になったが不満も残った。絵美は避難所の片づけが終わってようやく
駐屯地へと戻る事になり、安堵して少し息をつく。

「お疲れ様、絵美ちゃんも良く頑張ったね」

「前田さん。いえ・・・・・・私なんて何も。最後に討伐したのは陰陽庁の子達でしたし」

結局、自分は何も出来なかった。昨日の夜に化け物と対峙しても子供を庇う以外に出来る事はなかった。

「惨めだと思わないか?僕ら国家防衛の要が歯がゆく動けないっていうのが。本来であればあれは僕等の役目だって、君も思わないかな?」

前田は、真剣にそう諭してくる。

「私も昨日まではそう思ってましたよ。どうして私の手で妖怪を討伐出来ないのかって」

「昨日まで?・・・何か心変わりが?教えて欲しいな」

「いえ、遠藤さんが言ってたんです。彼等も僕等と同じ国家の防衛を担う僕等の仲間だって。それと、私達に何も出来ない訳じゃないって。確かに、今日した事は彼等のサポートではあったと思います。でもそれが市民の安全に繋がっているなら無駄じゃないって、私はそう思いました」

餅屋は餅屋、専門部署に適応措置をさせるのは戦術の基本である。自衛隊の中にだってそれぞれスペシャリストが居るのだ。それと、絵美は金網の向こう側で結界の中に閉じ込められ、逃げ場が無い中で背水での戦いを見た。死んでもおかしくない文字通り命を懸けての死闘だった。

「君は、遠藤に染まり過ぎだな」

「そうですか?」

「ああ、ちょっと影響受けすぎ。残念だよ・・・本当に。じゃあね、今日は話せて良かったよ」

「?」

そう言って、前田は絵美から離れる。最後の表情が少しだけ、いつもの優しい彼の顔ではなかった事に怪訝な表情を浮かべつつも、それに気づく事なく絵美は帰還の準備を始めた。


 京子は京都御苑の施設のスタッフ、動員された者達の前で労を労った。京子の叔母である志津流も来ている。気が抜けたのか、皆一様に緊張した雰囲気は無くなっている。

「京子ちゃんもお疲れ様」

「ありがとう御座います」

「何とかなったわね、流石だわ」

「いえ、皆さんの頑張りのお陰です。力を貸して下さった令二さんにもお礼を言わないといけませんね。それに作戦がたまたま上手くいったに過ぎませんし・・・」

実の所、京子はあの瞬間ーーーもとい化け物が森を抜けたのを聞いた時はかなり焦っていた。何せ結界が完成していない。どれほどの被害が出るのか目眩がしていた程である。もう1つのプランを準備はしていたものの、それにも少し準備が必要だった。化け物が移動だけしていると聞いた時にどれだけ気分が救われた事か。

「もしもし、真義さん。討伐出来ましたので引き上げて下さい。無駄骨を折らせてしまい申し訳ないですが」

京子は事前に魔法省に頭を下げて、バックアッププランは準備していた。地下施設へ転移させてそこで討伐する保険。地下施設にも人員を派遣しており、そのうちの一人が真義である。

「気にしないで下さい。討伐おめでとう御座います。それではこちらも撤収しますね」

「そういえば、街の中で結界に閉じ込めた時に朱雀も起用しなかったのは?」

「すみません、時間制限があると聞いていたので、仕留め切れなかった際に被害が増えるかもしれないなと」

「成る程ね」

「咲さんにも、後で電話しないと・・・」

京都に突如出現した宇宙怪物の怪はこれにて幕が引いた。翌日以降は何も情報が流れずにまたいつもの日常となる。この事件での殉職者の葬儀に京子も参列した。守った物と失った物の重さを噛み締めながら、少女は黙祷を捧げた。


FIN
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