Voo Doo Child

夜桜一献

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The black cat rage about

第六話

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 旦那は彼女の実家に伺っては追い返され亜子は母が居ない寂しさから次第に笑顔も消えていく。10日が過ぎた頃には旦那も情けなさから酒浸りになった。今頃他の男と一緒になっているかもしれない。そんな怒りと悔しさと葛藤で彼は一杯になっている。会社からの電話にも出ない始末。亜子もそんな父を見て彼の背中に寄りそうも父親は涙ながらに酒を飲む。 私は呆れて、酒瓶を全て斬り刻んだ。パリンパリンと割れていく酒を見てマジックショーだと言っては笑っていた。守るべき娘に守られているようでは何も気づけないのも道理。更には、時折あの式神がひらひらと周辺を舞っており気付き次第変化される前に紙を私が斬らねばならぬ為常に警戒している。私が引っ越して来て、貴方に出会ったのも何かのご縁これからも、亜子とあの人をどうか、見守って下さいますか

彼女の懇願に頷いた以上は、約束は守ろうと心に決めた。しかし、余りに情報が少なすぎるのも事実。20日が過ぎて、電話で会社から旦那の解雇通知を聞かされようやく呆然とし始めた。子供には親が必要である。それは猫でも人でも変わらない。目を覚ましてくれればいいがインターホンが鳴り響き、私は誰が来たのかと外に出て確認した。

「にゃあ」

と一言御挨拶。それを聞いて、一人の少女が尋ねて来た。

「貴方がこの家を守ってる黒猫さんですか?」

頷くと、笑顔でこう返して来た。

「私陰陽庁支部局長の朝倉京子と申します。
和香さんから事情は聞きました。私も和香さん救出のお手伝いさせて下さい」

凛とした表情で、彼女ははっきりとそう伝えてきた。私が家の中へと入り、恐る恐る京子と名乗る少女が後をついてくる。リビングの惨状を彼女に見せると、引きつった顔でそれを見た。ジャスト首吊り5秒前、そんなタイミングである。輪を作って首に宛がい、いざと言う所で私が縄を斬ってやり直しになった。

「フフフ。おかしいなぁ、この縄何度やっても解けちゃうぞ」

まるで麻薬常習者の様に顔面蒼白で、目も隈が出来ている。私は、人型を取って、彼を指さした。助けてやって欲しいという真剣な眼差しは彼女に伝わったようだ。少し困った顔をして、それから彼に向き直した。

「えーっと・・・とりあえず何があったか話を聞きましょうか」

京子は和香の旦那に寄り添い、声を掛けた。

「和香さんの旦那さんですよね?」

「そうですが、君は一体・・・・・・」

「陰陽庁京都支部局長、朝倉京子と申します。和香さんから実家で監禁状態になったとメールを頂いてます。そちらの詳しい話を聞かせて頂けますか」

旦那は、京子に机と向かい合って話をし始める。和香が浚われた事、見合い相手が陰陽庁幹部である事そして気落ちして酒浸りになった挙句職を失いたった今自暴自棄になって自殺をしようとした事を告白した。

「非常にお恥ずかしい限りです」

「ご職業は何を?」

「営業です。ずっと外回りしてますよ」

「へえ、じゃあ接客は問題なさそうですね。
丁度事務員を探していた所です。もし貴方さえやる気があるのであれば一度うちの店へいらして下さい。簡単な面接さえ通れば採用しますよ。基本的に陰陽庁関係者優遇ですから」

「君、さっき支部局長とか言ってたけど、見た所まだ中学生くらいだろう?」

「ええ、ですからあんまり表向き私が接客とかすると不味いんです。店は元々誰かに任せるつもりでしたし。手伝いもしますが基本私は奥の事務所でデスクワークが主になります。和香さんから陰陽庁の事は聞いてませんか?」

「小学生卒業した後からずっと陰陽師やってたくらいしか聞いてませんね。冗談だと思ってました」

「冗談じゃないんですよそれ。残念ながら」

「聞いていいかな?何のお店?」

「御呪いグッズの店頭販売ですね。品の棚卸から仕入れまで全てやって貰います。後、一部商品は加工して出します」

「陰陽庁の京都支部なのに?そんな変なお店も出すのかい?」

確かに、聞いていて謎である。

「ええ、利便性も踏まえて駅前に設立する訳ですから当然人の出入りも多くなるのですが、訪れる人をある程度限定したいんです。陰陽庁関係者と心霊に悩む人そのくらいに。大勢人が来ないように、ですね。後は私のちょっとした力も関係してるんですけど。本当は喫茶店とかにしたかったんですが、私の年齢もあって普通に止められまして」

「成程、やってみるのも面白いかもしれない。後重要な事は?」

「守秘義務が付きます。基本陰陽庁の事はまだ世間に公表されていませんしただその分口止め料は上乗せしますのでご心配なく」

旦那に少しずつ生きる意思が見える。私はそれを確認した後畳に伏せて少し一眠りしようと目を閉じた。

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