Voo Doo Child

夜桜一献

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The black cat rage about

第八話

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 和香が無事であった事と、一件の進展が見られた事で旦那の顔が明るくなった。亜子も、母が戻って来ると聞いて無邪気にはしゃいでいる。酒に逃げる父を見て怯える事も部屋に籠ってしんしんと泣く声も聞こえなくなった。旦那は仕事を早く覚えたいとかで、早速仕事に向かっている。娘の食事や溜まった洗濯をこなすようになった辺りすっかり正気に戻ったと言えよう。あのまま行けば無理心中も有り得たであろう親子を救ってくれた陰陽庁京都支部の少女には感謝せねばなるまい。

「お母さん、帰ってくるんだって!!」

「にゃあ」

「早く帰ってこないかな」

余りに嬉しいのか話題はそれ一色。話せぬ猫に向かって何度同じ事を言うのかと少し呆れてしまう。亜子の手から離れて、周辺を監視する。実はすでに分身を何体か作って近所で散策させておりたまに現れる、ひらひらと空からやってくる陰陽師が使う術札を見張る。力を使われる前に斬れれば良いが、発見が遅ければ、式神が現れる。この前は、登下校中に式神が現れた。変なカマキリに似た式神であったが一刀両断に切り伏せ事なきを得たが、平然と街中でも式神を使う連中に少し憤りを感じている所である。屋根に上って丁度、上を見上げると風に乗ってひらひらとやってきた。向こうも学習したのか、空中で式神を顕現させた。しかも、10匹以上は確認出来る。蜂によく似た、化け物。空中を自在に飛んでこちらの機動性を完全に封じられた。攻撃を何度か回避したが攻撃に転じる前に空へと逃げられる。数が多く、攻撃を回避するのに精一杯でこのままでは打つ手がない。仕方がない。近所迷惑になるので避けたかったが、奥の手を使おう。

「にゃあ」

と鳴いて分身を作る。

「にゃあ」

「フシャー!!」

「にゃ」

「にゃあお」

分身が分身を作り、家の周りを黒い猫だらけにすると蜂も少し慌てていると見える。

『にゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!』

と100匹の私が一斉に鳴いた。相手も突進して来て、何匹かはやられてしまったが、一斉に尻尾で取り押さえて爪で斬り、尻尾を刀に変化させて切り落とし、何匹かは合体して熊程の大きさになって縦横無尽に空を飛んだ。口から火を噴くと良く燃えるので追いかけ回す。全て殲滅した事を確認すると、分身を一斉に消して静寂が戻った。再度術札が飛んできて、相手も巨大なクワガタのような昆虫を召喚した。爪で引っかけど、口で噛めどその硬い甲羅の前には傷一つ負わせられない。一匹、また一匹と潰され、消滅し気づけば今度は私本体のみとなった。猫の姿から、人間の姿へと変わって刀を抜く。風が靡いて髪が揺れる。昆虫が大きな羽を羽ばたかせて、突進してくるとタイミングを計って跳躍し甲羅に乗って、丁度昆虫の脳天に刀を突き刺した。元気よく飛び回っていたクワガタが4軒隣の屋根に墜落して勢いよく瓦を吹き飛ばした。動きが止まり、再度奥深くに刺すと昆虫は消滅していく。遠巻きに見える黒い車の中に居る主は、この惨事に驚愕している。むふーと私は得意げに見下ろした。

「なんちゅう化け猫を飼っとるんだ!!ええい、不愉快だ、車を出せ!!」

「はっ・・・・・・・・・」

後は、少女の策がどんなものかお手並み頂戴といこうと私は車が移動してくのを見届けて、欠伸をして再度警戒する事にした。
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