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夜桜一献

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Revenge tragedy of agent Ⅰ

第十話

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 連続殺人事件の発生、生皮を剥ぐ、四肢切断等の猟奇的な犯行に人は件の殺人鬼を思い浮かべ、日本が恐怖に包まれる事となった。バラエティーが切っ掛けとなって犯人がまた動き始めたのではないかと揶揄されてしまう始末。情報の取り扱いにマスメディアも慎重になっていた。1980年代に起こった殺人犯の逮捕劇で、犯人の血縁は不幸に見舞われた。過激な報道によって、毎日のように押し掛けるマスコミの圧力。周囲の人間の容赦ない罵声と罵倒に彼等は心が圧し折れた。その1年も経過しないうちに、一家心中を計り自殺した。大きな事件は時と共に伝説となったが、彼の家族の仔細について思い出せる者はいなかった。ニュースキャスターの大河内正志(おおこうちまさし)は今日もその事件のニュースを報道をしていた。清潔感があり、お茶の間にも大好評で女性にも人気がある。バラエティにも引っ張りだこなタレント系アナウンサー。番組が終わって、プロデューサーが彼に近づきお願いがあるんだけどと前置きしてきた。嫌な予感がするも、一度耳を傾けねばなるまいと正志はその話に付き合う。着替えを終えて局内の食堂で、二人が向かいあって座った。コーヒーを注文してお互い少し飲んでから話を始める。

「それで、僕にお願いって何です?」

「いや~・・・・・・前にポロっと言ってたじゃない正志君のお友達ってあの事件の被害者なんでしょ?顔とかモザイク掛けるからさ出演交渉とかしてくんないかな?ウチ独占で体験談をお茶の間に届けられて、視聴率も独占出来るときたらこんな美味しい話ないでしょ」

正志は呆れてプロデューサーを見る。

「トラウマになってるって確か言いましたよね?あいつの姉貴そん時に目の前で殺されてるんですよ。流石に、それを語れとは言えないですよ」

至極真っ当、正論である。しかし、彼は難色を示した。

「そっかー・・・・・・でも、交渉するだけしてくんないかな。僕は他を当たってみるし、これはウチだけじゃなく多分他局も動き始めてるよ。先にその友達を確保するだけだって。仮に君が断られて他に出演してたらちょっと気が悪いよね」

確かに、こういった事は鮮度が命。そしてどこよりも早く届けられるかが肝である。すでに他の局に出演交渉を依頼されている可能性もなくはない。もし出演するのであれば、是非正志の番組に出て欲しいとは思う。難しい顔をして腕を組む。友人と視聴率、天秤に掛けて後者が沈む。正志も慣れた業界人、視聴率は喉が手から出る程に欲しい物。

「分かりました。一応言うだけ言ってみます。ただ無理強いはしませんから期待はしないで貰えますか」

「良いよ、もし出てくれたら儲けもんだしね。僕は他にも居ないか探して貰うよ」

電話するとなると久しぶりに連絡する友人の声を聴く。最期に会ったのはいつだったか、と正志は一馬の顔を思い浮かべた。

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