Voo Doo Child

夜桜一献

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The killer of paranoid Ⅲ

十ニ話

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 車の中で、京子の体を拘束して口にガムテープを施す。恐怖で怯えているのか、抵抗する様子は見せない。運転をしているスキンヘッドの大男は、少年の迷いの無さに感嘆した。海人は覆面を被っていて誰かは判別出来ないような、これから銀行を強襲するかのような格好をしている。監視カメラの多い街の中での犯行に備えたつもりだったが、ことのほか上手く行ったと安堵する。Dが言うには、この子の中にある力を奪えば死神も追い払えると聞いた。彼から、助っ人を何人か用意するので指定の場所まで来て欲しいと言われた。震災後の残る建物の中で現れたのは、大柄なスキンヘッドの男と、露出の多い格好をした、痩せ型の女性。パンクな格好をしているが、色白で、目に隈が出来ていて不健康そうな印象を受ける。口紅が赤く塗られており、妖艶さを漂わせている。一方で大柄な男も顔に幾つかの傷を負っており、黒いコートを羽織っている。二人ともまともな人間でないのは感じていた。

「Dから素人の手伝いをしろって言われたから、手伝ってやっているが、正直驚いているよ」

「やるからには、最後まで見届ける。もしあんた達がこの子を傷付けるつもりなら・・・」

海人の声が緊張で、その先は続かなかった。

「命は取らないさ。この子の持つ禁書の力があれば呪術を無限に増幅出来る。死神を追い払うどころか、消す事だって可能だよ」

スキンヘッドの男がバックミラーを確認すると、後方から大きな鳥にぶら下がって猛追する少女の姿を確認する。

「可愛い小鳥ちゃんだこと」

最後列に座っていた女性もそれに気づいて笑みを浮かべた。

「程々にな」

スキンヘッドの男がそういうと、女性は嬉しそうに少女を見つめた。街の交差点の信号が赤になり、車が止まる。好機と見て紅葉は降下し、鷹を手離して地面に着地した。何事かと一瞬衆目を浴びたが、気にせず歩道を駆け抜ける。連れ去ったワゴンのドアが開いて、大量の蜂が飛び出して来る。紅葉は慌てて札を散布して爆発させて数を散らすと、その間に信号が変わって動き始める。

「待ちなさいっての!!」

すぐ後ろの大型車のコンテナに飛び移って追いかける。蜂が旋回して紅葉に再接近してきた為、札で小太刀を作り出し、襲いかかる蜂に対処する。蜂は通常のサイズよりも遥かに大きく一体一体が拳程の大きさがある。毒針が鋭く尖っており、紅葉は近づけないように鷹に風を操作する様に命じた。鷹が羽ばたき、風が巻き起こる。

「今のうちに!!」

風に泳がされ上手く前進出来ない蜂に札を貼り付けて爆発させていく。いつの間にか距離を離され、白いワゴンが右折するのを見て紅葉は再度大きな鷹にぶら下がって車を追いかけた。紅葉の情報の信憑性を疑わしく思っていたが、幾度も連絡を受ければ状況がおかしいと嫌でも気付く。京子は早苗に尋ねる。

「それで、今も追いかけてるんですか?」

「そうみたい。呪術師も絡んでるって言ってるんだけど」

「何か最初のあたしの事件みたいだね。瓜二つの自分が居るとか」

夏樹が先日の事のように思い出す。

「・・・え?」

「まあ、あれはあたしじゃなくって、近所の男性の片思いで生まれた存在だったけどさ」

ドッペルゲンガー。死の象徴とされる存在であるが、何も不吉な存在としてだけ出現する訳でもない。何かしら強い思いで生み出した自分の化身である可能性は否定出来ない。京子が顔を真っ赤にして状況を理解した。ここ最近、紅葉と仲直りがしたいと確かにそればかり考えていた。自分か、紅葉の思いの化身を紅葉が今、全力で救出に向かっているのだとしたら・・・恥ずかしくて口が裂けても言葉には出せない。クス、と笑っている早苗には見透かされている気がしたが。

「・・・とりあえず、援護に向かいましょう!!!!夏樹さん、一足先に援護に行って貰っていいですか!!!!」

顔を真っ赤にした京子のその迫力に圧されて、夏樹は頷くしかなかった。

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