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夜桜一献

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橘紅葉の回想目録

第十話

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京都市街にあるビルの一室。その場所はクリスマスの日まである会社のデスクワークの場であった場所であった。今は階を移して新しく新設した場所へ移動しており、ブルーのビニールシートで外部を覆い工事が着工して間もないように感じられる。机などの残骸は粗方片付けられてはいるが、天井を貫いた穴の壁の破片が散らばっている。そんな場所に、白いコートを羽織った一人の女性と、黒いスーツの少年が周囲を見回している。最後に、この部屋の会社の人間が一人居たが、2人に会釈してその場を去っていった。警察関係者が何度か訪れている為、二人が入るのは容易であったが、二人の素性を知らせる事は出来なかった。呪術の痕跡を調査する、という目的よりかは再度現場の検分を行うとでも理由をつけた方が遥かに良いに決まっている。二人は呪術捜査官、一人は念を関知し追跡する念視を主とする。もう一人は呪術の専門家。二人ともかつて陰陽庁に所属し、現在出向という形で警察に属する者。

「それじゃあ、始めてくれ」

少女は頷いて、目を閉じると周囲の念を感じとる。まず、妖怪の大本である嫉妬の感情。少年の、頑な決意、そして絶望。少女の迷いの無い揺るぎ無い意思、その時のそれぞれの感情が彼女の中に伝わる。その中に、黒い悪意を秘めた愉悦の感情があった。少女は指を指して、隣のビルを指差した。

「あそこから、術を行使したみたい」

「虫がわいたっていうあれか。感情を関知した人間の所在を掴めるか?」

「呪術の行使中ならともかく、無理だって」

念は、強い思いがあればそれを関知し、追跡する事も出来る。が、臭いと同じで微かな情報の断片しか見れない上、持続的に現場に残っているものではない。念は、強い思いがあればそれを関知し、追跡する事も出来る。が、臭いと同じで微かな情報の断片しか見れない上、持続的に現場に残っているものではない。

「ともあれ、呪術師が絡んでいる事は明白か。正月明け早々、気が重いなぁ」

少女は、言葉とは裏腹に喜ぶ顔を見せる少年に一言返した。



「嘘ばっかり」
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