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夜桜一献

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橘紅葉の回想目録

第十一話

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現代の安部晴明こと清治の耳にも呪術師の関与の報せが届き、これから起こりうる事態を想定して頭が重くなる。京子が呪術師と交戦とした場所には、京子の“いい加減紅葉と仲直りしたい“という強い思いの他にビルの建物と同じ人間が放った感情が残されていたという。前に京子を問い詰めた時、何故呪術師を捕まえなかったのか、という質問をしなかった。その前に京子自身に聞かされていたからでもある。友人関係修復の為、彼等を捕まえると真相が漏れる為捕まえなかった、と。そもそも誘拐でもなんでもないのに捕らえる道理もないのだと。そして問われた時はそう正直に話すつもりだったと。前もって京子から聞いていた。

「ちょっとは、俺の立場も考えて欲しかったかなぁ」

先の事件では無差別テロを引き起こされ、早急に次に備えなければならなくなった。気分転換に、部屋を出て廊下を歩いていると京子が本部を歩いているのが見えた。

十二神将と呼ばれる晴明の使役する式神のうち、4体を京都守護の為切り離し退魔師なら誰でも契約の義を行う事で使役が許されるようになっている。が、それは青龍、白虎、朱雀、玄武に戦い認められる資質があるか試されるという事。戦って勝ったとしても、契約が結べなかった者も中には居るらしい。気紛れで、気分屋な4体は自分の意思で主人となる者を見定めると言われる。早い話が、早苗と紅葉が守護聖獣に選ばれる事は皆無に等しい。

(正統後継者との婚姻回避の為の戦い・・・か)

早苗からある程度の事は聞いたが、何故その話をこっちに持って来なかったのかと。とはいえ、実際その話を持って来られていたとしても出来る事はたかが知れている。

「それで、京子よ。今日ははどうした?お年玉はもう上げたはずじゃが?」

本部に直接足へ出向いて、交渉するのみ。自分の目の前には、隠居したとは言え影響力は健在な祖父と和室で対面している。木で彫られた机で、祖父も仕事の書類に目を通している。

「・・・お年玉、返したら守護聖獣の札くれる?」

「今までの分全部返納しても無理な注文じゃな。どうした、いきなり守護聖獣とは」

経緯を話すと、水蓮は京子の話に耳を傾ける。お茶を飲んで、ゆっくりと和菓子を食べた。

「ふむ、許嫁は寛治君が決めた事なら仕方ないんじゃないかのう。それと守護聖獣への挑戦権は誰にでもあるではなし。由紀君の言い分も尤もであると思うが、お前は道理が通ってないと?」

「今、頑張って修練してるし、せめて挑戦だけでもさせてあげられないかなと」

「あいつら、割とふざけて遊んでおるがそれでも事故で大怪我を負う事もあるんじゃが。仕事について1年2年のひよっこには、ちと荷が重かろうよ」

怪我する前に諦めよ、と諭され京子も渋々その場を後にする。

「橘家の正統が戻るか・・・面白そうじゃのう。そういえば寛治君が何やら書類送って来ておったか」

封筒を開けて、書類の少年を見るなり水蓮は不思議と何か引っ掛かる。頭の隅にあったはずの情報が引き出せない。そういう場合は、以前晴明であった時の記憶の欠片に反応している場合が殆どである。継承と共に失われた記憶を辿るべく、水蓮は現在の晴明を受け継ぐ清治を呼び出した。清治は書類に目を通すと先程までの朗らかな顔は消え去る。

「橘継守(たちばなつぐもり)の魂が輪廻の輪が回ったらしいなぁ」

「橘継守・・・そうか思い出したわい。確か以前白虎を使役したとされる京都守護職の名前じゃったな。“あれ”を封じる為にその命を賭した者か」

「それで、京子と何の関係が?」

「うむ、それがな・・・・・」

水蓮は清治にかいつまんで説明すると、清治は暫く黙りこんだ後口を開く。

「・・・丁度、良かったかもしれんな。タイミングがええと言うか」

「何じゃ、悪い顔をしおってからに。何を企んでおる」

孫の顔に不気味さを覚え、水蓮は孫を問い詰める形となった。


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