Voo Doo Child

夜桜一献

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The killer of paranoid Ⅴ

第三話

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この3人の脱獄を手伝っている人物の映像が見え、手伝っているのは紛れもなく京子が接触した呪術師に間違い無い。坊主頭の男と紅葉と戦闘を繰り広げた虫使いが看守を殺している映像が映し出されている。そしてもう一人、30代の男性看守。しかし彼の顔に誰も見覚えはなく、侵入する為に変装をしていたと窺える。男は堂々と正面から侵入しエレベーターで地下に降りて、帰りは脱獄囚と共にもう一つの出口に繋がる階段を登った。呪術師の牢獄は地下深くにあり、迎撃に訪れた呪術捜査官も一人残らず死人となって帰っては来なかった。次に脱獄の機会を蹴ってまで、令二への復讐を求めた3名の話に変わる。元組織の3人は警察が全力で捜査を続けているので、現状はこの拘置所の秩序を戻す事に専念する事で一致した。

一人目は2年前に令二が捕まえた呪術師。

藤倉成人   28歳

インターネットの呪術請け負い人として活躍していた呪術師。捕まえた当時何故逮捕されるのか理解出来なかったらしい。呪術は人から教えて貰った為、呪術捜査官の存在を知らなかったと供述している。嫌がらせ目的の案件を扱っており、普通にしていても後2年も勤めれば出所出来る所を今回の騒動で刑期が伸びる予定である。

ワン・スーチャン25歳

中国の闇組織に属する屍術師。2ヶ月前日本に仕事に来ていた。裏家業のオークションで神秘の霊薬と呼ばれる、古代の酒をめぐって中国の聖導師と抗争になり、共同捜査をしていた令二と対峙し負けている。

最後に、御酒知良。32歳。彼もネットワークを通じて呪殺を生業とする生粋の呪術師。
東京に住んでいたが、被害者が近畿圏であった為、令二が動く事に。激しい戦闘の末逮捕に至っている。

「何をすれば自由の身をかなぐり捨てさせてまで狙われる事になるのかね」

東京の呪術捜査官が呆れた口調で尋ねたが、
令二は全くわかりません、と素知らぬ顔で返答した。

拘置所内部のうち異常事態が起きているのは地下だけだという。陰陽庁からも、3人が出れないように結界を張り、防いでいる状況にある。内部には屍術師が遺体を操ってゾンビが徘徊しており、鎮圧しに赴いた看守達がなす術なく殺害された事を意味していた。気が重くなる京子に対して、これから戦地に乗り込む令二の顔は普段と変わらぬ表情で平然としている。相棒の千鶴も彼を心配している節はない。休憩が終わって、令二と千鶴は会議室にて、呪術を行おうとしていた。危険であるが故にこの場に残されたのは東京の呪術師と京子、そして令二と千鶴のみ。令二は机に名前の書いた紙と写真を置いて、その上に札で作った人形を置く。すると、むくむくと動き始めてやがて彼等に似た人形が出来上がる。次にもう一体自分の身代わりとなる人形を3体用意した。空間に歪みが起きて今彼等が何をしているのか探る。向こうには、影絵の様な瞳が壁を移動しているように見えている。建物の中の牢屋に3人は何やら話合っている。一番リスクの低い藤倉の人形に呪いの札を貼ると、瞳から黒い涙が零れ落ちる。それは藤倉に付きまとって彼を苦しめた。直ぐ様、ワンが呪いの居場所を逆探知し、御酒が印を組んで呪いを発動させる。それは空間を越えて、会議室へと現れた。揺らめくゴーストの様な存在が出現し、呪術の応酬が始まった。

ゴーストは周囲を確認しながら場所を確かめている。令二を見るなり、思い出したかのように声を発した。

「思い出したぞ。お前があの呪術捜査官だな」

「折角の脱獄のチャンスをふいにして何か用か。こっちも忙しいんだ。用件を話せ」

気に触ったのか、ゴーストが揺れて、呪力が高まる。周囲に炎の塊を出現させて四方に飛ばした。令二以外の3人は咄嗟に防御行動に出る。京子は机の下に身を屈め、千鶴は結界を張り、東京の呪術捜査官は全力で回避する。令二も結界を張って火球を弾く。炸裂音が響いて、机や壁に焦げ目がついている。

「惚けるな。各々に仕掛けた呪いを解呪しろ。さもなくば、残っている看守と囚人の命は無い」

その言葉で、緊張が周囲に伝わる。

「・・・霧島君、何の呪いを掛けたか知らんが、言う通りにしたまえ」

そう言われて、藤倉の札を外す。しかしそれ以外は何もしなかった。数分の後にゴーストが揺れて暫くした後、怒りの声を発した。

「どういうつもりだ。何故解呪しない」

全員の視線が令二に向かう。

「どうもこうも、直接触れないと呪いを解呪なんて出来ない。そっちに行くから大人しくそこで待っててくれたら助かるけどね」

「交渉決裂だな」

その一言で、東京の呪術師は慌てて仲裁に入った。

「ちょっ!!ちょっと待ちたまえ!!一旦、落ち着こう、こちらには君らの要求を聞く用意がーーーえ?」

ギョロリ、と壁に出来た目と視線が合う。いつの間にか四方の壁に、令二が相手に仕かけた物と同じ影の目がこちらをうかがっている。その数は8つ。それぞれが目から黒い涙を流して4人にそれを向かわせる。瞬時に令ニの影から3体の黒い狼が離れて動き回り、立体化する事なく影絵として動く。影の目を追いかけ回して噛み殺していく。

「早合点するなよ呪術師。今からそっちに乗り込んでやるから大人しくしてろ。解呪は約束してやる」

同時に千鶴が爆札をゴーストに貼り付け、吹き飛ばす。更に同時に身代わりの人形が一つ音を立てて壊れた。これは自分が相手に仕掛けた影の目がやられた事を意味する。呪術を飛ばす行為は強力であればあるほど、返り討ちにあった時の反動が大きい。よって通常は悪魔を召喚して相手にけしかけるのが普通である。呪いの規模を深めたければ自分も覚悟を持たねばならない。京子が机から顔を覗かせると、令二が口元を緩ませながら、面白くなってきたと呟き、東京の呪術捜査官は状況が悪化したと頭を抱えて絶叫した。


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