Voo Doo Child

夜桜一献

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The killer of paranoid Ⅴ

第四話

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 東京にある、高級レストランのテーブルで青葉達3人と30代後半の男性はお互い正装姿で面と向かい合っている。青葉も今はマスクを外して、髭も剃り、髪も整え清潔感を持たせている。自己紹介を簡単に済ませて、食事を行っている。メインの皿を食べ終えてデザートに差し掛かった所で本題に入る前に、青葉がワインの余韻に酔いながら質問した。

「それで、何故我々を助けたのか理由を聞いても?」

「人手が必要だと思ったもので。去年の春頃陰陽庁に喧嘩を吹っ掛けたんだけど、返り討ちに合ってしまってね。折角、良い血縁の小僧に乗り移っていたのに、体が持たない程晴明に攻撃を受けて参ったよ。力も殆どない一般人の体で生き長らえている有り様だ。一緒に出て来てくれたと言う事は話を聞いてくれるつもりはあるんだろうと期待しているんだけどね。それとも、あのままあそこで死んでいた方が良かったかい?」

「あの、晴明と渡り合うなんて・・・あんた一体何者ですか」

と、明野が呆れる。現代の最強の陰陽師を前に生きているだけで奇跡に思える。普通は陰陽庁に相対する等考えはしないものだ。元陰陽庁関係者だからこそ、あの集団が人外魔境の坩堝である事も理解している。こちらも手札を幾つか用意していたが、当時疑似神も呪術捜査官と共同で動いていた多数の退魔師にやられてしまった。12年前の事件はメディアにも大きく取り上げられた。

「勿論、吝かではない。人質を取られていては一人で脱獄も出来なかったからね。誰かが暴走をしてもおかしくは無かったし、その辺りは感謝しているよ。再度陰陽庁に攻撃を仕掛けるつもりなら、こちらも手を貸そう。幸い僕の伝てが細々ではあるけど存命しているも運が良かったかな」

かつての信望者達。神に願いを叶えられ、悲願成就を成し遂げた者が今でも青葉と神に傾倒している。

「また組織の復活を?」

「流石に僕が前に出ては、早々に潰されてしまうだろうね。僕が主役じゃなくてもいいんだよ。“テラメア”という神の力が本物であれば人はすがりつくものだからね」

「良い返事が聞けて何よりだよ。こちらも面白い話を用意している。健気な少年の話をしよう。もうすぐ死神に命を刈られる妹の運命を変えようと必死に生きる少年の話さ」

そう言って、食事は談笑と共に最後まで進んでいく。萌が最後のデザートに舌鼓をして、久しぶりの甘露を味わっていた。


1995年にパソコンが普及し始めてネットの世界は瞬く間に浸透した。神を崇め、奉る場所としてネットワークの世界に構築したものの信者に共存は求めなかった。閉じた世界で共に暮らさなくても良い。掲示板、メール、チャットを駆使して相手と語り合い、情報を得るだけでテラメアを崇める者は増えていった。些細な願いや殺人に至るまで親身になって聞き入れ、実際テラメアという疑似神の成長を促す為に時折動いて組織の拡大を計った。やがて寄付の金額が増え、会員専用のサイトを設け、億単位の金が転がり込むようになってさえ、事務所1つ、人員7人程度で回していた。新しく増えた萌以外には人員を増やしはしなかった。会員も5000人を超え、信者も4万人に増えた頃、ある日突然警察が押し入って来た。全員が呪術師であった訳ではないが応戦もした。お互いに被害を被ったものの、疑似神テラメアを前に出して包囲網の強行突破を行おうとしたものの、京子、清治の父である当時の晴明に返り討ちにされた。今でも3人の脳裏に残る晴明と呼ばれる存在の異質さは鮮明に残っている。それ故に彼の口からどう対抗するのか、それが3人の興味を引いた。



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