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夜桜一献

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The killer of paranoid Ⅶ

第十一話

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霞と合流し、連れの少女を紹介された後で京子の居る京都支部まで3人で足を運んだ。会った時に南瓜の少女と聞かされた時は驚きはしたものの面影はある。夏樹は自己紹介を済ませたが、優理と戦った事を思い出すと心境は複雑だ。沢山の大人達と京子がそこに居て再度少女から自己紹介をしてもらい、各々が驚く事となった。一通りの事情を聞いて京子も夏樹も頭を悩ませた。

死神の決めた死刑宣告を回避する為に人々の心の一部を集めてキューブ化した事

キューブを利用して妹さんの生きる思いを増幅する事で死神を死刑宣告の時間に近づけなくし、延命を果たす作戦である事

死刑宣告を回避しても病気を治す訳ではなく

いつ死んでもおかしくない状況に変わりはない事

ハクが種を人々の心にまいた事により、肥大して 頭に浮かんでいる精神エネルギーの塊を怪盗の少年と南瓜の少女でキューブ状態にして回収を行った。しかし夏樹達の邪魔が入り出してからは種を撒いてもバクの仲間達に肥大化する前に種を除去されキューブを得る機会が減ってしまった。退魔師達の様に出現する妖怪の狩りを行いキューブを集めもしたが陰陽庁の退魔師達と交戦したり、邪魔されたり接触する事が多くリスクが高いと判明した。また、クリスマスに大型の妖怪のキューブ化を狙ったが金髪のハンマーを持った女に邪魔された挙句妖怪をキューブ化する前に消されてしまった。2月14日の大型の妖怪を狩る前に最後に種を撒いてそれを回収。その際に殺人願望の少年と遭遇して返り討ちにされたがハクが一命を賭して助けてくれた事。そこで怪盗の少年と南瓜の少女は考えが分かれて現在に至り

バクの妹が死んで優理も自分が何をしているのか冷静に考えた結果ここに居る

そして怪盗の少年は最後の希望に2月14日を迎えようとしている事を告げた。

死神は死に属する反対のエネルギーに弱い。光や破邪の力や、単純な生命のエネルギーや思い等。盗んだ思いの結晶を用いて怪盗の少年の妹の「生きる」という淡い願いや希望を増幅させる事で死神を一時的に触れなくする事。一時的にもそういった活力あるエネルギーを死神は嫌う。紅葉でさえ冗談とも言える方法で一瞬怯ませる事も出来た。例え他の者に理解出来なくとも、同じ方法で死神を退けた京子には理解出来ていた。あの時禁呪の書の力が働き、自身の生きる決意が増幅された。溢れ出た光が死神に触れると手を焼くかの如き凄まじい光の本流にあの時死神は触れる事が叶わず諦めたのである。死神へ生贄を捧げる契約で自分が不利を被らず召喚を可能にし、攻撃対象と生贄を絡める事で自身は何も失わずにいられたが結果的に【契約不履行】になり、生贄が召喚者自身へと変わりルダレス・カジナンは自身が召喚した死神に首を跳ねられる事となった。

そして『死刑宣告の日時に死神が宣告した者に死の履行が出来なければその宣告は無効』とされる。

神との定められた契約や規則の中で死神も動いている。それを逆手に取って計画された怪盗と南瓜の少女、それらの知恵と神の力の一端を貸したハクと呼ばれる神の御使いの行動の数々を

それらを各々真摯に聞き入れた。

「成程、事情は分かりました。妹さんの寿命を延命する為に怪盗の少年は他人の心の一部を盗んでいたと。唆したのはバクさんの妹さんという事ですが」

全員の細い目がバクに向けられる。

「申し訳ないっす。妹の思いを回収した今それが事実であると確信も持てるっすな。しかし死神の【契約不履行】を狙うとは目の付け所がいいっすね」

貴方の命をこの日付この時間に奪いますね

という一方的且つ理不尽な契約を結ばされた状態。

ルダレスカジナンの様に召喚者と死神の契約の下ではなく、死神だけが決めた物。

それを出来ない状態にさせて、創生の神との約定により定められた規則として

契約不履行状態に持っていって契約なんて無かった事にする。

それがハクが怪盗の少年に与えた知恵。

「あんたと大違いだよね」

「おいらも今まで結構役に立ってたでしょ!!」

「可能性があると言われれば、手を出さない理由もないか」

陰陽庁の大人組が彼の身の上に一定の理解を示す。

「身内を助ける為に懸命に頑張って来た事を思うと・・・今更人々の思いの結晶であるキューブを返せと言っても聞く耳は持たないだろうね」

「だけど、それで彼の行いを肯定するのも違うんじゃない?」
病気の回復は別って話だろう。今回避しても3日後に死んでいるかもしれんのだろう?」

(とは言え、バクの妹さんも重要な事を見落としているような)

京子の予想が正しければ、彼等の作戦が成功しても誰かが死ぬ事になる。それぞれ、会話がヒートアップしていく中、京子が優理に少年の画像を貰う。

「それより少年の画像の確認をしま・・・?」

京子は優理から提出された海人の写真画像を見て見覚えがある少年だった事に気づく。

(あの時、呪術師と一緒に私を浚いに来た少年が?一体どういう・・・)

車から逃げる3人の中に居た少年。

「京子ちゃん、どうしたんだい?」

坂巻が唖然とする京子に気づく。

「いえ、何でもありません。ですが彼に接触をしなければならないようですね。幾つか彼に確認をしなければいけなくなりました」

場合によっては拘束する必要も出てくる。優理の前では言えないが

「それで、どうする?夏樹」

霞が夏樹に尋ねる。

「どうって・・・何が」

「彼をとっちめて、事件解決とするかどうかなんだけど」

霞の言う通り彼を止めれば一件落着となる。だが妹さんは恐らく自然死を迎えるだろう。死神に選ばれた死刑宣告が自然な事とするならば、だが。

「あたしは鬼か悪魔か何か?流石にあんな事情を聞いたら出来ないってば」

無理無理と手を横に振る。

「でも、彼の行いが正しい訳じゃない。彼に目を覚ましてあげなきゃって思うけどね」

「結果的に妹さん死んだら、後味悪過ぎだって。霞の時ですら頭抱えたってのに、あたしの心のキャパシティはそこまで広くないんだけど」

知ってる、と霞は苦笑する。

「じゃあ、協力して妹さんの命を延命する?彼の持ってる皆の心の一部を使用して」

霞に言われて、夏樹は整理がつかなくなる。完全に想定外。彼が悪かと言われればグレーに近い。悪い事をしてはいるが人を殺した訳じゃない。しかし確かに広い範囲で迷惑行為を行ったのも事実。ただ彼なりの筋の通った理由もあった。後は巻き込まれた自分達がどうするかどうかだけだ。協力する? 有り得ない。今まで散々巻き込まれてここに居る。少なくとも話を聞くまでは夏樹はノリノリで少年の顔をぶん殴っていただろう。反省の色が見えるまで。後は自分や霞が迷惑を被った罰として。彼がやろうとしている事を止める?それももう有り得ない。妹さんの命を延命するにせよ、しないにせよ少女一人の生殺与奪を決める事に関与したくない。唯でさえ霞の一件で自分が首を突っ込み色々後悔した事が脳裏に蘇る。陰陽省庁に任せて身を引くか。でもこれだけ振り回されて大人しく引き下がれる程人間が出来ていない。夏樹は自分がどうすればいいか、ぐるぐると思考を巡らせて答えの出ぬまま袋小路へと入ってしまった。

「わかんないよ!!こんな事想定してない!!ちょっとバク、あんたその死神どうにか出来ないの?延命出来るようにするとかさ」

「無茶言わんでもらえないっすか。力関係で言えば今のおいらじゃ逆立ちしても勝てないっす」

「だったらその死神と話し合ってみたらどうかしら?神の輪廻の輪に属する死神だから、死の象徴とされる邪悪な存在とは違って神聖なる存在のはずなんだけど」

全員が一人の少女に視線を向ける。そこには、黒い和服の麗しい少女が立っている。

「浦美さん!!・・・ってどうしてここに?」

「晴明に呼ばれたのよ。ちょっと忙しくなりそうだから暫く手を貸して欲しいって言われちゃってね。こっちも忙しいのに困ったわ」

浦美は頬に手を当てて困惑した表情を周囲に見せた。
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