Voo Doo Child

夜桜一献

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The killer of paranoid Ⅷ

第三話

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 電車に揺られて移り行く景色が窓から見えている。どこに行くのか分からないけれど、どこへ向かっているのだろう。いつの間にか向かいに少年が座っている。見覚えがあるような気がして、顔を確認する。誰だったか頭がぼんやりしていて思い出せない。

「あれ・・・私何でこんな所に・・・」

病院に居たような。そうだ、夢の中へ彼の妹を助ける為に行った夏樹達をあの病室待っていた。

「そろそろ、頭も巡って来たかな?いい加減起きなよ」

少年の目が急に赤く染まって、赤黒くなり、血の涙を流す。

「でないと死んじゃうよ?」

はっと気づいて目を覚ます。周囲を見渡して状況を確認するとどこかの廃ビルの中に居るらしい。ビルはすでに廃れて久しいのか埃やゴミや以前ここを使っていた会社の机や椅子が転がっている。部屋の真ん中で椅子に座らされていて、拘束されているせいで身動きが取れない。焦りと戦いながら状況を整理する。目の前の30代の男性には見覚えがある。幾度となく東京拘置所で彼の虐殺行為を繰り返し見て来た。

「・・・拉致されたみたいですね」

一先ず、事実を述べる。と同時に夢に出て来た海人の安否も気になった。

「お目覚めかな。現代の晴明の妹なんだっけ」

「海人さんは無事ですか?皆は?」

「拉致させて貰ったのは少年と君だけだ。君に関しては理由は分かるだろう」

「海人さんを解放して下さい。代わりに私は従います」

「ハハハハハ!!まだ頭が混乱してるな?君が命令するなよ非力な分際で。役職がおかしいから感性も狂ったんじゃないか」

中学生に支部局長という肩書を負わされたのは自分のせいではないが確かにおかしいとは常々京子も感じている。兄曰く、禁書を使用しないように前線からは離れさせる事が目的と聞いたが自身も納得は出来ていない。

「民間人の安全の確保は当然です」

「苛々させるなよ。交渉の余地はないんだ。残念ながら少年はここには居ない」

Dが手を掲げると、京子の周囲が変化する。まるで拷問の道具が現れ、呪具の数々が現れる。生贄として誰か分からぬ男性の遺体が首を吊った状態で姿を現した。幽霊がその男性から抜けて出ようとした際に、周囲を徘徊する邪悪な悪霊が纏わりついて、その魂を吸い込んだ。実に美味しそうに平らげて、満足そうにした後京子に向き直る。不気味に微笑む邪悪な存在。瞬時に京子は理解した。あの時ルダレス・カジナンのやった事と同じで、生贄を用意して召喚を成立させている事に。死神に匹敵する程の邪悪な存在が目の前に存在している。

「そいつの魂を抜きとれ。僕はこいつの体に用があるんでね」

「そういう事ですか」

「抵抗してみるかい?代わりに少年の命はないが?」

「分かってます」

「物分かりが良いな。何を企んでいる。一矢報いる策が君にあるのか?」

「ありません。けれど、私の仲間や兄を舐めない方が宜しいかと。きっと貴方の企みは阻止される」

「良いね、そういう負け惜しみが大好きなんだ。死ぬ準備は出来てるようだな?」

「ア゛・・・ア゛・・・ア゛・・・ア゛」

邪悪な悪霊が京子の目の前で口を広げる。目も鼻も無い。その悍ましさに背筋が凍り、涙が溢れて恐怖に顔が歪む。自分が殺される寸前でも正気を保てるには京子はまだ幼すぎる。死ぬ準備等出来ている訳じゃない。あれもしたかった、これもしたかったという願望すら急過ぎて自分がこの世から消えるなんて実感が無さ過ぎて湧かないだけ。それでもようやく親友や家族の顔が思い浮かんで、感情が揺さぶられる。死ぬ事への恐怖が生まれる。と同時に目の前の殺人者へ最後の抵抗として叫んだり、命乞い等は死んでも嫌だ。

「ようやく心のメッキが剥がれたな?」

京都支部局長という肩書を除けば唯の13歳の子供に過ぎない。役職等今は何の役にも立たない。大きく口を開けた悪霊は京子の魂を吸い取る様に息を吸い上げる。一瞬、空間が歪んだ様に見えて京子の魂が体から抜き取られ、悪霊の目の前に現れる。美味しそうな餌に思わず、口元が笑みになる。

「止せ、確実に殺すんだ。腐っても晴明の妹、何があっても不思議じゃない」

Dが静止させると魂を手で掴み、握りつぶす。光は霧散し、魂の消滅を意味する。魂が消え去る瞬間を見て、ようやくDは勝利の美酒を味わう様に余韻に浸った。





東京新宿明治通り

多くの車が行き来する道路の真ん中を車が走っている。皆一様に急に雲が陰り始めた事に違和感を抱いた。雷が鳴り始めて空から異界の魔法陣が描かれ、落雷と共に突如として現れた存在に言葉を失う。

「何だあれ・・・え、夢じゃないよな?」

見たこともないような巨人の悪魔が足元の車に気づき中の人諸共一台踏みつぶして大破させた。慌てて、巨人の近くに乗車していたドライバー達は車を捨てて声を荒げてその場を離れていく。それを見ていた周辺のビルに居る人間も悲鳴を上げながら逃げ始めた。その上空にて、現場を確認しに来た清治が危険を感じ取る。

「死焔が動きよったか。しかし京都に来ずにこっちで動くとは」

携帯が鳴り響いて、清治が出る。

「清治君、東京支部局長の瀧田だ。規約に従って東京に脅威が現れた際のマニュアルに沿って対処という形になるが構わないか。君が動けば化け物は退治出来るかもしれないが東京は火の海になる。あれだけの怪物を素早く安全な場所まで転移可能ならそれに越した事はないが・・・・・・」

「それしか手はないやろな。構いません、奴を呪術広域結界に閉じ込める。東京支部局の対応面子には予め用意してある札で呪術結界内に転移にて討伐。それまでは封じ込めますわ」

札を懐から3枚手にして名を叫ぶ。

「おいでませ勾陳(こうちん)広域結界の為の呪術を付与せよ」

黄金の巨大な蛇が空中から悪魔に纏わり付く。悪魔は身動きが一瞬取れなくなったが、黒く変色してやがてドロドロに溶けて液体が体に纏わり付いた。呪術を付与して更に

「おいでませ大裳(たいも)、六合(りくごう)」

晴明の傍に現れたのは英国人紳士風の白髪の老人と日本古来のシャーマンの衣装をした少女。体には褐色の肌に赤い文様を描いている。

「さて、これはこれは・・・・・・中々大変な時に呼ばれましたな」

「あの悪魔、邪神の使いですね」

「見たままなんやが、これからーーーー」

「勾陳で呪術付与した領域を作り上げて悪魔を転移し封印。後は事前に付与した札で戦闘員を派遣し討伐までそれを維持といった所ですか」

「面倒・・・・・・」

「話早くて助かるわ。玄武やったら一人で済ませるんやろうが今貸し出し中で堪忍やで」
 
青龍以外は契約者の元へ貸し出し中で使用不可能。

「何、事前の準備無しには玄武とて難しいでしょう」

「3人居れば、結界は作れる。流石に隊員達に強化付与まで玄武でなきゃ出来なさそうだけど」

「そこは規約には含まれとらんし、まぁ何とかなるやろ。現状あいつが動き鈍いのと建築物を破壊して突っ切る考えに至ってないんが幸いや。早いとこ済ませんと被害は恐ろしくなる」

悪魔が歩き始めて車が十数台大破炎上。付近の看板や歩道橋も通過されて崩落。ビルにも手が触れて窓ガラスが破損している場所も見られる。3人で東京の空を駆け、3方向から結界を展開し、巨大な悪魔を封じ込める。巨大な悪魔が瞬時にして消え失せ、残ったのは無残な炎に包まれた車体と遺体が幾つも残った。


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