Voo Doo Child

夜桜一献

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The killer of paranoid Ⅷ

第三十話

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義継、銀次、氷柱は氷と炎と体術を駆使して、それぞれ目の前の戦場を生き抜いている。王禅と死焔の装束を身に纏う者達はいつの間にか見物を決め込んでおり、尽きる事の無い呪力による物量で押して来ている。氷柱からすでに息も絶え絶えになっており、次に義継、そして銀次の順に疲労が見える。飛頭番と地獄の蛙が倒しても倒しても出現するのを見て、義継は2人を逃がす事を考えた。

「君達は良くやってくれた。後は私に任せて逃げなさい」

「あ?何か言ったかおっさん。俺はこの瞬間を何年も待ち侘びてたんだぜ?」

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・冗談でしょ?このお兄さん本当にイカれてる。状況を見なさいよ。全員で撤退も視野に入れてしかるべきとこじゃないの?途中からあいつらこっちを舐めきって介入すらしなくなってんのに」

汗も滝の様に流れている彼女に、飄々としている銀次に氷柱は毒を吐く。

「じゃあお前だけ逃げろよ。面倒くさいな」

「はぁ~!?あったま来た!!絶対ここを乗り切ってあんたに蹴りを入れるわ!!」

3人が飛頭番と地獄の蛙を相手に奮闘を再開した。短い戦闘ではあったが効率を考えた結果ある種の連携が生まれている。氷柱が対象を凍らせ身動きを封じて、残る二人で蹴散らし始める。飛頭番には空中で動き回る為冷気をぶつけて動きを鈍らせ、地獄の蛙には地面に氷を走らせて凍らせて対処する。彼女の冷静で綿密な妨害が無ければ、銀次も義継も空と地面、そして死焔の攻撃に対処等出来てはいない。氷柱に攻撃が集中している際には、銀次が炎を繰り出して殲滅、または回避させて距離を取らせるといった行動を取っている。

「そろそろ死ぬ準備が整って来たようですねぇ・・・・・・ん?」

王禅が違和感を覚え始めた。やられた端から召喚していた飛頭番と蛙の数がみるみる減っていく。王禅が横を向くと、召喚を試みているが、何も出来ない死焔の者の焦りが伺える。

「我らが神との契約に何かがあった・・・・・・そんな事が起こえりえるのか?不味い。このままでは神罰が下る!!」

部屋の中に黒い靄が発生して、それらが強大な落雷を発生させた。銀次たちは何が起こったか理解出来ずに衝撃に備える。雷光が止むと死焔の装束達は先程の雷によって焼かれている。王禅もその一撃を敢えて受け止めたようで、自身の衣装と肌が焼けている。

「何が起こったか知らねえが、千載一遇!!」

銀次が自身の力を解放して、淡く光る炎を身に纏う。残る二人はその突発的な熱気に飛ばされ、強制的に後退させられた。身動きの取れない王禅に距離を詰めて、これまでの鬱憤を晴らすかのように、大きく振りかぶって右の拳に力を込める。食らえば唯では済まない一撃を、避けられない屈辱に王禅は顔が歪む。顔がめり込み、吹き飛んで壁を突き抜け、外へと弾き出された。外で待機していた死焔の者が慌てて王禅の傍に寄る。

「口惜しいが・・・・・・て・・・・・・撤・・・・・・退だ・・・・・・・・・」

それを聞いた一人が、慌てて笛を鳴り響かせて、王禅を抱えて逃げ出し始める。銀次はそれを追って一人外へ向かった。

「いつつつつ!!・・・・・・・・・何、あたし達は邪魔だった?」

それぞれ奮闘したと思っていたが、二人は彼にしてみれば全力を解放出来ない枷となっていた。氷柱は最後にそれに気づいて悔しさを滲ませる。

「君は良くやってくれた。奮戦に感謝する」

「いえいえ。こっちの方は期待させて頂きますのでお気にせずに」

氷柱は指で輪っかを作り、各地で銃声の音が聞こえて、天井を向いた。
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