Voo Doo Child

夜桜一献

文字の大きさ
上 下
235 / 246
The killer of paranoid Ⅷ

第三十一話

しおりを挟む
 死焔の者達が、東京陰陽庁を襲撃してかなりの時間が経過し続々と外や地下へ避難する者で溢れる。負傷した者も数知れず、死者も廊下に転がっている戦場になった。火災も発生して現場は混乱を極めている。声を掛けて退魔師が負傷した人を救出しながら、一方では死焔と戦いを強いられている。外では救急車のサイレンの音が鳴りやまない。警察も来ているが陰陽庁の中に一般人を入れない。外にテロリストが逃げださないように包囲という措置を取った。入れば死人が増えるだけという事を理解している上層部の判断である。死焔達は傷が付かない一方で、東京陰陽庁の面々は苦戦を強いられていた。退魔師達に出来る事は対象を非戦闘員からターゲットを自分に向けさせる事。それから距離を取って結界を張り、“結界の中へ閉じ込める”事であった。倒そうとは思わない事が功を奏した。四角い結界の中で暴れる者を強固な結界で押し込めている。また、他が現れた場合そちらに対処する。閉じ込めた後は一定時間封じ込めが可能。そしてそれを繰り返す。一人でも多くの人を生きて逃がす為の苦肉の策。問題が解決していない事もさる事ながら、武器も霊力も消耗する。いつまでも続く戦法ではい事も理解しての事でもあった。事実何人もの同僚が血塗れで床に息絶えているのを見れば、いつ自分がそうなってもおかしくはない恐怖との闘いでもある。

「これで何とか・・・・・・・・!!」

背後から、死焔の装束を身に纏う者が襲い掛かる。

退魔師は目を瞑って人生の最後を覚悟した。

一筋の閃光が走って、それが斬撃であるとは思わなかった。

血渋木を撒き散らしながら、死焔の者が真っ二つに切り裂かれる。

だが当然、時間が巻き戻るかのように元へと戻る

いや否、邪神との契約が強制的に破棄された。

「お前らさ、やっちゃいけない事したよ。俺のかみさんブチ切れなんだよ。これ何だか分かる?さっきまで飲んでたビールだよ馬鹿。待ちに待った一日でさ。非番の日の為に録っといた野球のプレー観戦見ながらのんびり過ごす予定だったんだよ。分かる?いきなり電話掛かってきてさ。お前ら排除しろっつって強制的に転送されてんだよ!!」

ビールの空缶を投げつけられ、怒気を孕んだ一声に死焔の者は何も理解出来ないまま消滅した。彼の手には刀が手に握られており、微弱に破邪の光が放たれていて、魔法が付与されている。

結界の中に居る者達全員が身を構える。

男の名前は 橘龍二。かつて異世界を冒険し、数々の邪神を討ち滅ぼしある世界で伝説となった。神より数々の権能を取得した異世界帰りのチート野郎。嫁と共にこの世界へ戻り、異世界とこの現世を繋ぐ架け橋となるべく奔走し、現在は腕を買われて政界の重鎮の護衛を任されている。嫁の名前は橘 咲

と言い魔法省という部署に務める才女。別の世界ではお姫様をしていたが旦那に惚れてこの世界へやってきた。尚息子である葵は一切そのことは知らない。

更に襲い来る死焔の者を返り討ちに斬り伏せる。

「バカ野郎が!!やんちゃも程々にしろ!!ふざけ過ぎて後で考えて反省するケースがどれだけあると思ってんだ!!」

「流石、あの咲さんの旦那さんですね。規格外過ぎて」

真義が鬼の姿を解放して死焔の者を相手取り鯖折にして、ゴリ押しで消滅させる。

「私もここへ来た経緯は似たような物で」

「うちの嫁がゴメンね!!」

「いえ、私はここから下へ移動します。旦那さんは上へ移動お願い出来ますか」

「了解、非番だけど片づけとかないと、おっかいからねえうちの嫁さん」

「よく存じております」



 京都市役所前。呪術師達と退魔師の攻防は一転して陰陽庁に軍配が傾く。覆われた呪力が霧散して、呪術師達が一人、また一人と地面に転がる。怪我を負った者達は呪術師以外別の空間へ逃がした。退魔師もそう多く残っている訳ではないものの心折れる気配は無い。結衣がトンファーを携え、近接戦闘を行う。相手は幾何も残って無い呪力を消費して低級な悪魔を召喚した。3匹+一人対一人。小柄で子供の様な体躯ではあるが狂暴そうに威嚇してくる。3匹同時に掛かってきたので真ん中の顔を小突く。怯んだ隙に左右の悪魔へ軽いフットワークを見せながら旋回する様に移動して右側の悪魔へ一撃。悪魔の頭蓋が吹き飛んだ。小悪魔も旋回してこちらに向き直す。驚く呪術者と小柄な悪魔だったが気にせず結衣は術者へ詰め寄る。結界を張って見せたが、結衣は口元を緩ませて突進した。トンファーが青白く輝きを放ち、結界を突き破って術者の顔に一撃を入れる。術者が倒れた事で小悪魔も姿を消した。息を整えて汗を拭う。

「結構な数倒したんだけどなぁ」

目の前の光景を結衣はどこか遠い目をして眺める。令二が召喚した3体の式神がいつの間にか12体に増えていて、無双状態。召喚者本人はすでに戦況を読み切っているのかつまらなさそうにしている。

「あれには敵わないな」

屋上では水蓮と呪朽が肉弾戦を行っている。同じ呪術を己にかけた者同士の決着は付きにくい。お互いの一撃がクロスして顔面に入る。お互い口から血を吐き、頬や体には痣が出来ている。二人がよろけて、足がふらつく。

「完璧な作戦のはずだった・・・・・なのに何故だ!!」

「お粗末という他ないのう。革命を起こすにはちと他力本願過ぎんか?邪神の力を頼るのは良い線いっとったが。そもそもーーーお主らぶっちゃけ暴れたかっただけじゃろう?革命だなんだ言った所で政府がお主らの耳を貸すとでも?よしんばそうなれたとして、呪術師の生業を一般化する事は無い。この国を捨て他国へ移り根を下ろす以外にお主らが生業を続ける道は無いんじゃよ」

日本以外の国では呪術師の需要が一定数存在する。米国然り、ロシア然り、中国然り。日本という国では禁止されているだけの事。世界に目を向ければ需要が無い訳ではない。

「その腐った概念を根本から覆す為に集まったんだ!!今更後には引けん!!お前を殺せば少なくともこの変わらぬ世界に一つ風穴を開けられる!!」

「ならばその信念に生き、信念に死すべし」

水蓮が後退し呪術を解いて、刀を手にする。居合の構えを取って静寂が流れる。

呪朽には理解出来ぬ程の速さで動き、呪術で強化された肌を切り裂く。

血渋木が散って男は倒れた。

「時代に取り残されし者共の宴もこれにて終いじゃな。状況がまだ読めんが事態が好転したと言う事は晴明も動いたと言う事。天晴なり我が孫よ」

後は・・・と水蓮はもう一人の孫の顔を思い浮かべて無事を祈った。

しおりを挟む

処理中です...