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並行的輪廻【後編】
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次に遼一が目を覚ますと、2人ほどが横になれそうな広いベッドに寝ていた。病院か?俺は生きていたのか。そう悟った瞬間、遼一を強烈な頭痛が襲う。それと同時に色々な風景が脳内に飛び込んでくる。卒業式で麻里に告白する風景、成功して半泣きの自分。麻里と同じ大学に進む風景、卒業後に大手企業に就職する自分。麻里と結婚し2年後子供が生まれる風景。そして、全ての情報が脳に刻まれると頭痛が止んだ。
「ぱぱ起きたー」
頭の整理が追いつかない遼一の耳に可愛らしい声が届く。遼一が咄嗟に身体を起こすと、そこには見覚えのある少女が映っている。さっき流れてきた風景に映っていた俺の娘だ。確か名前は____
「麗花、パパは疲れてるから上に乗らないの」
___麻里の声だ。遼一の目からは自然と涙が、頬を伝う。涙を腕で拭うとアナログの時計が目に入る。19時過ぎ。火事が起きた時間と同時刻。俺は別の世界の俺になり変わったのか。俺はこの幸せな生活を_____。
不意にチャイムが鳴る。こんな時間に誰だろうと麻里が呟きながら玄関に向かう。その時
「え…?きゃっ!」
麻里の悲鳴が鼓膜を刺激する。咄嗟に麻里の方を見る。玄関には見知らぬ男が。包丁のようなものを持っている。全身に寒気が走った。
「麻里!逃げろ!」
遼一がそう叫ぶのと同時だった。麻里は断末魔の叫びをあげ、膝から崩れ落ちた。床には赤黒い血が広がる。遼一は麻里の名前を何度も連呼し、男の方へ走る。瞬間、鋭い痛みと共に視界が暗転する。
「ああ、また死ぬのか」
________________________
「遼くん、ご飯だよ起きて」
聞き覚えのある声と共に、遼一の静寂が解かれた。
「麻里…」
遼一は無意識にそう呟く。
「どうしたの?遼くん」
目の前には変わらない美しさの女性が立っている。遼一の目からは自然と涙が溢れてくる。
「…あ、時間!」
遼一は時計を見る。19時過ぎ。
「ままーご飯まだー」
そう催促する麗花の声も遼一には聞こえていない。
「麻里、麗花、早くここから逃げないと!」
遼一は必死に家から2人を逃そうとする。さっきと同じなら、また殺人犯が。
「遼くんどうしたの?珍しく寝ぼけて」
麻里がいたずらに笑う。瞬間、激しい揺れが3人を襲った。テーブルに用意された食事が宙に舞い、床に落ちる。大きな音と共に棚やら何やらが倒れる。かなり大きい地震だ。
「麻里!とにかく何もない場所に____」
そのまま遼一の視界は暗転した。
_______________________________
「遼くん、ご飯だよ起きて」
録音された音声を何回も聞いている気分だ。遼一はこんな事を無限に繰り返している。麻里と麗花は遼一の記憶の中で1万回以上は死んだ。何年経ったかも分からない。広い部屋、落ち着く室温、麻里の声、その全てが憂鬱に感じる。時計の短針は"7"を指している。死のカウントダウンを自然に数えてしまう。
「ほら、ご飯できてるよ」
「ああ」
自分の方を見て微笑む最愛の人。遼一は正気のない返事を一つした。
今日も明日も、10分後も、俺は愛する人の死を見届けて___遼一の視界が暗転した。
並行的輪廻は終わらない。
〈あとがき〉
思いつきで書いたショートショートでしたが、中々いい内容に仕上がったんじゃないでしょうか。今度こも是非ご愛読を。
「ぱぱ起きたー」
頭の整理が追いつかない遼一の耳に可愛らしい声が届く。遼一が咄嗟に身体を起こすと、そこには見覚えのある少女が映っている。さっき流れてきた風景に映っていた俺の娘だ。確か名前は____
「麗花、パパは疲れてるから上に乗らないの」
___麻里の声だ。遼一の目からは自然と涙が、頬を伝う。涙を腕で拭うとアナログの時計が目に入る。19時過ぎ。火事が起きた時間と同時刻。俺は別の世界の俺になり変わったのか。俺はこの幸せな生活を_____。
不意にチャイムが鳴る。こんな時間に誰だろうと麻里が呟きながら玄関に向かう。その時
「え…?きゃっ!」
麻里の悲鳴が鼓膜を刺激する。咄嗟に麻里の方を見る。玄関には見知らぬ男が。包丁のようなものを持っている。全身に寒気が走った。
「麻里!逃げろ!」
遼一がそう叫ぶのと同時だった。麻里は断末魔の叫びをあげ、膝から崩れ落ちた。床には赤黒い血が広がる。遼一は麻里の名前を何度も連呼し、男の方へ走る。瞬間、鋭い痛みと共に視界が暗転する。
「ああ、また死ぬのか」
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「遼くん、ご飯だよ起きて」
聞き覚えのある声と共に、遼一の静寂が解かれた。
「麻里…」
遼一は無意識にそう呟く。
「どうしたの?遼くん」
目の前には変わらない美しさの女性が立っている。遼一の目からは自然と涙が溢れてくる。
「…あ、時間!」
遼一は時計を見る。19時過ぎ。
「ままーご飯まだー」
そう催促する麗花の声も遼一には聞こえていない。
「麻里、麗花、早くここから逃げないと!」
遼一は必死に家から2人を逃そうとする。さっきと同じなら、また殺人犯が。
「遼くんどうしたの?珍しく寝ぼけて」
麻里がいたずらに笑う。瞬間、激しい揺れが3人を襲った。テーブルに用意された食事が宙に舞い、床に落ちる。大きな音と共に棚やら何やらが倒れる。かなり大きい地震だ。
「麻里!とにかく何もない場所に____」
そのまま遼一の視界は暗転した。
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「遼くん、ご飯だよ起きて」
録音された音声を何回も聞いている気分だ。遼一はこんな事を無限に繰り返している。麻里と麗花は遼一の記憶の中で1万回以上は死んだ。何年経ったかも分からない。広い部屋、落ち着く室温、麻里の声、その全てが憂鬱に感じる。時計の短針は"7"を指している。死のカウントダウンを自然に数えてしまう。
「ほら、ご飯できてるよ」
「ああ」
自分の方を見て微笑む最愛の人。遼一は正気のない返事を一つした。
今日も明日も、10分後も、俺は愛する人の死を見届けて___遼一の視界が暗転した。
並行的輪廻は終わらない。
〈あとがき〉
思いつきで書いたショートショートでしたが、中々いい内容に仕上がったんじゃないでしょうか。今度こも是非ご愛読を。
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