19 / 81
なにも見えない振りをする
3
しおりを挟む次の週末がやってきた。
また今夜も彼から連絡が来るのだろうと思っていたけれど、それより先に有沢さんから呼び出しを受ける。
「なんのご用でしょう」
事務所の簡素な会議室に入ると、有沢さんはテーブルの上に紙を広げていた。
どうやら、なにかの企画書らしい。
「そこ、座ってくれる? アキによさそうな話が来てるのよ」
「アキくんに?」
聞きながら目の前の椅子に腰を下ろした。
差し出された一枚の紙を流し見て、目を丸くする。
「これ……今度、ゴールデンに移るあの番組ですよね」
「そうよ。うちにオファーが来たの。若手の子を一人、できれば男の子がいいって。だからアキにどうかと思ったんだけど」
「受けます」
「……早すぎるわ」
ふふふ、と上品に笑われて、なんだかとても懐かしい気持ちになる。
私がアキくんを担当するようになるまで、いつもこうして有沢さんと話をしていた。
もちろん仕事の話ばかりだけど、ときどきおいしいスイーツの話なんかも聞かせてくれたものだ。
「でも、相模さんってそういう人よね。決めるのが早いっていうか」
「そうでしょうか」
「フットワークも軽いし。マネージャー向きだと思うわ」
「ありがとうございます」
「……本当はもっと早く担当を持たせてあげたかったんだけど」
(あ……)
有沢さんがなにを匂わせているかはすぐにわかった。
以前、俳優に身体の関係を迫られて逃げ出したあのときのこと。問題をでっちあげられて潰されそうになった私を、有沢さんは庇ってくれた。
「アキの調子もいいし、相模さんのサポートもぴったりはまってる。きっとあの子、もっともっと売れるようになるわよ」
「……はい!」
育ててくれたこの人にそう言われるのは嬉しかった。
大きな企画を他の誰でもなく、アキくんに――私に持ってきてくれたのも嬉しい。
今日までの頑張りを認めてくれているのがはっきりわかるから。
「スケジュールもちょうどこの期間なら空いています」
「十日も離島でロケなんて初めての経験だと思うけど、アキの方は平気そう?」
「言って聞かせます」
「ふふ、私の教えがしっかり身についてるようで嬉しいわ」
(散々『言って聞かされ』ましたから……)
有沢さんは有能な分、とても厳しい人だった。
できるできないではなくやるのだ、と面と向かって言い、それを実行させる力を持った憧れの上司。
そこまで強気なのに『静香』なんて名前はおかしいじゃないか、と愚痴った同期を完膚なきまでに叩きのめしたという噂もある。
「これに出れば、アキくんの知名度はもっと上がります。先日始めたSNSでの評判も上々で」
「いい傾向ね。本人の言動にはちょっと引っかかる部分も多いけど」
「…………ああ、まあ」
「暴走させすぎないように気を付けて。悪い子じゃないんだけどね」
「私もそう思っています。……だから難しくて」
「なにかあったらいつでも相談に乗るわよ。またあそこのお店、一緒に行く?」
「ぜひ、ご一緒させてください」
よく二人で行っていた、カクテルのおいしいバー。
有沢さんのもとを離れることになってからは足も遠のいていたけれど、近況報告も兼ねてしばらく振りに行くのもいいだろう。
「とりあえず、向こうにはアキのことを伝えておくわ。もう少し決めるのに時間がかかると思っていたけど、あっさりしたものね」
「その分、早く準備に取り掛かれます。もうアキくんに伝えても大丈夫ですか? それとも、改めて話をまとめてからの方が?」
「いえ、伝えて構わないわ」
「わかりました。では、すぐに進めますね」
頭の中では既にロケに向けた多くのことが飛び交っていた。
まとめた企画書を受け取り、辞去しかけたそのときになって、ようやくもうひとつ思い出すべきだったことを思い出す。
(十日、離島でロケをしなきゃいけない。……神宮寺さんにも伝えなきゃ)
1
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
体育館倉庫での秘密の恋
狭山雪菜
恋愛
真城香苗は、23歳の新入の国語教諭。
赴任した高校で、生活指導もやっている体育教師の坂下夏樹先生と、恋仲になって…
こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる