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なんのための独占欲?
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しおりを挟む「……っ、神宮寺さん!」
会うなり、神宮寺さんは私の腕を掴んでホテルに向かった。
言葉数がいつもより少なくて、表情も険しい。
あの記事のせいだというのは火を見るより明らかだった。
「待っ――」
部屋のドアを開いて引きずり込まれる。
その瞬間、どん、と壁に背中を押し付けられた。
「んん、ん――っ」
むさぼるように唇を奪われ、早々に舌を絡められる。
じっくり快感を刻み付けるような普段のやり方とはずいぶん違っていた。
ひどく余裕がなくて、少し怖い。
こうまでされるほどの理由を見つけられないまま、神宮寺さんの肩口を掴んだ。
落ち着いて、と距離を取ろうとして失敗する。
呼吸しようと必死になっている間、カチャリと鍵を閉める音がした。
もう、この部屋から私を逃がすつもりはないということだろう。
キスだけでは足りなかったのか、スカートをまくり上げられた。
久々に触れられたせいで、既に身体が熱く潤んでいる。
「っ……ぅ」
下着をずらされ、やや乱暴に指を入れられた。
いつもは一本ずつ増やしていっていたのに、いきなり二本から。
不自由な体勢と快感に喘ぎながらすがり、ぐちゃぐちゃと繰り返される水音を聞く。
「……っは、あ……っん、んっ……あっ……」
神宮寺さんの首に腕を回して啼くうちに、自然と腰が動いていた。
いつだってこの人の与える快楽には逆らえない。なにも知らなかった最初の夜からずっとそう。
ただ――なにも言ってくれないのが怖かった。
ここまでの道中、険しい顔をしていたから余計に。
「じん、ぐ……じ……さん……」
「どこまで許したんだ」
「え……」
「……っ、クソ」
荒く指を引き抜かれ、がくんと崩れ落ちそうになる。
そんな私を支えると、神宮寺さんはまっすぐ部屋の奥へ向かった。
その先に待っていたのは浴室。
二人で入るにはやや狭いそこに私を放り込むと、容赦なくシャワーの水を浴びせてきた。
「冷たっ……」
神宮寺さんは自分自身も冷たい水を浴びながら、私を鏡に向かって押し付ける。
「君がそんな顔を見せるのは俺だけだろ」
(そんな顔って、どんな)
つい最近、似たようなことを聞いた覚えがある。
今は聞けなかった。
鏡に手を突かされ、その状態で――貫かれたから。
「んん、ぅ……っ」
くぐもった声が浴室に反響した。
ずん、と規則正しく突き上げられる。
「っふ、あっ……あっ、ああっ……」
目の前に広がる鏡が、私に『どんな顔』かを見せつけてくる。
自分でも知らない女の顔が視界を埋めていた。
だらしなく緩んだ口に、涙で潤んだ瞳。頬は紅潮して、上昇した体温の高さをこれでもかと示している。
つ、と自分の唇から唾液が伝っていった。
頭上から降り注ぐシャワーの水が排水溝へと流していく。
最初は冷たいと思ったのに、もう冷たさを感じない。
それどころか、火照った身体に気持ちいいぐらいで。
「あう、あっ、あっ……んんっ……い、ぅ……っ」
腰を掴まれ、何度も最奥を突かれる。
じゅぷ、と聞こえてくる音が淫靡だった。
耳を塞ぎたいけれど、鏡に手を突いていないとその場に崩れ落ちてしまう。
膝にまったく力が入っていなかった。
神宮寺さんが腰を掴んで支えてくれるから、なんとか立てている。
ただ、本人にそんなつもりは一切ない。
腰を掴んでいるのは私を支えるためじゃなく、より深く、一番甘く濡れた声をあげてしまう場所をえぐるため。
現に私の弱い場所ばかり責め立てて、頭の中までどろどろに溶かそうとしてくる。
もう許して、と細く声が漏れた。
かすれた喘ぎがこぼれただけで、言葉にならない。
助けを求めようと鏡越しに神宮寺さんを見て、ぞくぞくと一気に身体の熱が増した。
(そんな顔、で……)
快感に溺れる一歩手前の、あと少しを押し殺した苦しげな表情。
私と同じく神宮寺さんの頬も紅潮していた。
噛み締めた唇の間から漏れる吐息は私の耳にも届いている。
こうまで切羽詰まった顔は見たことがなかった。
「じん……ぐうじ、さん……」
荒い息を吐きながら呼ぶと、濡れた髪を乱して首を振られる。
「豊、だ」
「っ……」
好きだと気付いてしまったからなのだろうか。
その名前の響きだけで泣きたくなる。
「ゆた、か」
いつからそう呼んでみたかったのか自分でもわからない。
でも、呼べたことが嬉しくて、つぅ、と涙が頬を濡らしていく。
「豊……豊さん……っ……」
「――っ、く」
息ができなくなるほど、私を責める豊さんの大きさが増す。
より激しく中を圧迫して、隙間なく私を満たしていった。
「う……あっ……ああっ……!」
鏡についた手に豊さんが手を重ねてくる。
指が甘えるように絡んできた。
愛おしさで壊れそうになる。
「君が、全部許していい、のは……俺、だけだ」
感情を極限まで押し殺した声が鼓膜から私の中へ浸み込んでいく。
「――誰にも渡さない」
びくん、とお腹の中が一気に収縮する。
名前を許されて――特別を許されて、本当に泣きたかった。
初めての快感を教えられたあの夜より、好きな人に抱かれていると理解してしまった今の方がずっと気持ちいい。
「豊さ……わた、し……も、う……っ……」
「……っ」
「っ、うあ」
後ろから顎を掴まれ、前を向かされる。
鏡に映った私は先ほどと変わらず、だらしない顔をしていた。
目を背けようとすると豊さんの声が響く。
「誰に抱かれて、誰にイかされるのか、ちゃんと見ていろ」
ぞく、と震えるような快感が痺れとなって走っていく。
私を抱いているのは豊さん。
限界まで追い詰めているのも――。
「あっ……あっ……い、あっ……い、く……あ、ああっ……!」
繋がった手をきつく握りしめてしまった。
びくびく、と激しく身体が痙攣し、膝どころか全身の力が抜けていく。
「は……っ、く……」
遅れて豊さんが息を呑んだ。
散々、私をいたぶって責めたものが勢いよく引き抜かれる。
ぱたた、と足元にこぼれた体液はシャワーの水に流されてすぐ消えていった。
豊さんは背後から私を抱き締めて、鏡から見えないよう顔を隠してしまう。
しばらく、お互いの荒い息とシャワーの音だけが静寂を乱していた。
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