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番外編:疑われてもきみを抱く理由
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「なっ、なんですか」
「疑われたのがどうも納得いかなくてな。俺はそんなに信用できないのか?」
怒っている、と言うほど怒っているわけではなさそうだった。
不機嫌というのとも違う。
これはたぶん――。
「私が疑ったから、拗ねてるんです……?」
「あれだけ好きだと伝えているのに、わかってもらえていなかったのが解せない」
「だって状況証拠が整いすぎてるじゃないですか。女性とホテルなんて。しかも楽しそうにしていたなんて」
「それを聞いたとき、君はすぐ浮気を疑ったわけだ」
「そんなわけないじゃないですか。ありえないってすぐに言いましたよ」
咄嗟に反論してからはっとする。
豊さんもやっぱり驚いた顔をしていた。
「へえ」
「わっ……私は……豊さんが浮気なんてできる人じゃないって……思ってるだけで……」
嬉しそうにしているのを見ていられなくてうつむく。
こんなにあっさり機嫌を直さなくてもいいだろう、と心の中で訴えておいた。
「だったらいいんだ。もしそういう男だと思われているなら、こっちにも考えがあるからな」
「……なにかするつもりだったんですか?」
「わかってもらえるまで、君を抱く」
ぎょっとして反射的に身を引こうとした。
――が、いつの間にか腰をしっかり抱かれている。
「あ、の」
「好きでもない相手を朝までかわいがるのは難しいだろ」
「朝までって」
「してみるか」
「しませんよ!?」
冗談抜きでやりかねない豊さんから逃げようともがいたけれど、無駄だった。
この人は一度捕らえたら、もう離してくれない。
「君が相手なら何回でもできる」
「さらっとそういうことを言わないでください!」
「じゃあ、遠回しならいいのか」
「そういう意味じゃ――」
言いかけた私は、肩を押されてひっくり返った。
ああ、嫌な予感がする。
「よかったな、明日が休みで」
「っ……!」
この人が私を欲しいと思ったとき、なぜかいつも週末なのが困りものだった。
「だっ……だめです、明日はデートって言ってました」
「同行者は少し遅れるらしい。気にせず寝坊してくれ」
「遅れたら映画に間に合わないです……!」
「夜にも同じものがある。チケットを事前に買っておかなくて正解だった」
「私、また歩けなくなっちゃう……」
「抱いていこうか」
「なにを言ってるんですか……!」
私を押し倒した豊さんは、もうしっかり上に覆いかぶさっていた。
絶対に逃がさないという強い意志を感じる。
「どうしてこういうときになると、やたら抵抗したがるのかわからない。浮気したかもしれないと聞いて、泣く程度には俺を好きなくせに」
「それとこれとは別です」
「逃げられると追いかけたくなるんだが」
なおも反論を続けようとした私の唇が塞がれてしまう。
手を押さえ付けられ、舌を入れられた。
唇と唇の境目で濡れた音が聞こえた瞬間、私の中でかちりとスイッチが動く。
「ん……っ……」
まだ自由だった片手を豊さんの背中に回し、受け入れる。
更に深くなったキスを受け入れ、自分からも応えた。
「朝までは……やめてくださいね……」
「途中で眠くなるだろうしな」
豊さんが私の身体に手を這わせ、少しずつ熱を煽っていく。
こんな風に触れてくる人が浮気などありえるわけがない。
有沢さんに言い切った自分が少し誇らしかった。
「疑われたのがどうも納得いかなくてな。俺はそんなに信用できないのか?」
怒っている、と言うほど怒っているわけではなさそうだった。
不機嫌というのとも違う。
これはたぶん――。
「私が疑ったから、拗ねてるんです……?」
「あれだけ好きだと伝えているのに、わかってもらえていなかったのが解せない」
「だって状況証拠が整いすぎてるじゃないですか。女性とホテルなんて。しかも楽しそうにしていたなんて」
「それを聞いたとき、君はすぐ浮気を疑ったわけだ」
「そんなわけないじゃないですか。ありえないってすぐに言いましたよ」
咄嗟に反論してからはっとする。
豊さんもやっぱり驚いた顔をしていた。
「へえ」
「わっ……私は……豊さんが浮気なんてできる人じゃないって……思ってるだけで……」
嬉しそうにしているのを見ていられなくてうつむく。
こんなにあっさり機嫌を直さなくてもいいだろう、と心の中で訴えておいた。
「だったらいいんだ。もしそういう男だと思われているなら、こっちにも考えがあるからな」
「……なにかするつもりだったんですか?」
「わかってもらえるまで、君を抱く」
ぎょっとして反射的に身を引こうとした。
――が、いつの間にか腰をしっかり抱かれている。
「あ、の」
「好きでもない相手を朝までかわいがるのは難しいだろ」
「朝までって」
「してみるか」
「しませんよ!?」
冗談抜きでやりかねない豊さんから逃げようともがいたけれど、無駄だった。
この人は一度捕らえたら、もう離してくれない。
「君が相手なら何回でもできる」
「さらっとそういうことを言わないでください!」
「じゃあ、遠回しならいいのか」
「そういう意味じゃ――」
言いかけた私は、肩を押されてひっくり返った。
ああ、嫌な予感がする。
「よかったな、明日が休みで」
「っ……!」
この人が私を欲しいと思ったとき、なぜかいつも週末なのが困りものだった。
「だっ……だめです、明日はデートって言ってました」
「同行者は少し遅れるらしい。気にせず寝坊してくれ」
「遅れたら映画に間に合わないです……!」
「夜にも同じものがある。チケットを事前に買っておかなくて正解だった」
「私、また歩けなくなっちゃう……」
「抱いていこうか」
「なにを言ってるんですか……!」
私を押し倒した豊さんは、もうしっかり上に覆いかぶさっていた。
絶対に逃がさないという強い意志を感じる。
「どうしてこういうときになると、やたら抵抗したがるのかわからない。浮気したかもしれないと聞いて、泣く程度には俺を好きなくせに」
「それとこれとは別です」
「逃げられると追いかけたくなるんだが」
なおも反論を続けようとした私の唇が塞がれてしまう。
手を押さえ付けられ、舌を入れられた。
唇と唇の境目で濡れた音が聞こえた瞬間、私の中でかちりとスイッチが動く。
「ん……っ……」
まだ自由だった片手を豊さんの背中に回し、受け入れる。
更に深くなったキスを受け入れ、自分からも応えた。
「朝までは……やめてくださいね……」
「途中で眠くなるだろうしな」
豊さんが私の身体に手を這わせ、少しずつ熱を煽っていく。
こんな風に触れてくる人が浮気などありえるわけがない。
有沢さんに言い切った自分が少し誇らしかった。
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