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第一章︰会議室前の対峙、清廉と不浄
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女性怨霊協会・臨時総会 ――
場所は、霊界の一等地に位置する重厚な石造りの洋館。雀荘『奈落』の喧騒とは無縁の、静寂と緊張が支配する「女性怨霊協会・中央会議室」である。
ここでは今、協会の主導権を巡る「過激派(執行部)」と「良識派」の熾烈な政治抗争が幕を開けようとしていた。
廊下の向こうから、凛とした衣擦れと、微かな「シュルシュル」という鱗が床を擦る音が響く。
良識派の急先鋒、姦姦蛇螺(カンカンダラ)だ。黒髪ショートに銀縁眼鏡、巫女装束の下から覗く大蛇の尾が、彼女の底知れぬ霊力を物語っている。
その前を、過激派のメリーさんと、
彼女を慕う美少女怨霊の美々子が通り過ぎようとした。
メリーさんは今回の議題となる「健一の痴態」
を思い出し、あの滑稽でどこか愛らしい人間の姿に、無意識に頬を緩めていた。
すれ違いざま、氷のような声が廊下に響く。
「あら……無実の人間が嫐(なぶ)られているというのに。助けもせず、馬鹿面晒して、馬鹿そうな仲間達とケタケタ笑いながら見ていたゴミクズさん、
何かやけに楽しそうね……。」
メリーさんの足が止まる。
「なっ……。」
反論しようと振り返るが、姦姦蛇螺の眼鏡の奥にある瞳は、ゴミを見るような嫌悪に満ちていた。
伽椰子や貞子、メリーさんのような「無差別呪殺」を繰り返してきた過去を持つ者を、
元巫女である彼女は生理的に受け付けない。
美々子が真っ赤になって姦姦蛇螺を睨みつけが、姦姦蛇螺は美々子に対してだけは、ふっと悲しげに目を細めた。
「可哀想に……こんな不潔な連中に毒されて。
あなたはまだまだ若くやり直せるのに……。」
彼女の憐憫の眼差しに美々子は言葉を失い、
ただただ唇を噛み締めることしかできなかった。
その横では、親友同士であるカシマさん(過激派)とひきこさん(良識派)が、互いに視線を合わせられず、よそよそしく会釈だけを交わして通り過ぎていった。
姦姦蛇螺は、巫女服の袖で鼻先を軽く仰ぐと、これ見よがしに顔を背けた。
「……大体、あなたたちが通り過ぎるだけで、この神聖な廊下が血生臭くなって敵わないわ。少しは自制というものを覚えたらどうなの? 呪殺なんて野蛮なエネルギーの浪費、知性の欠片も感じられないわね。」
吐き捨てられた言葉は、針のように鋭くメリーさんの胸を刺した。
いつもなら「ふん、高潔な巫女様は随分と余裕がないのね。」と鼻で笑い飛ばすところだが、今のメリーさんにはそれができなかった。
脳裏に焼き付いているのは、あのモニター越しに見た健一の姿。
自分たちが娯楽として消費し、嘲笑っていたあの青年の、あまりにも無垢で、そして「受難」そのものだったあの夜の光景。
「…………。」
メリーさんは唇を震わせ、拳を強く握りしめたまま、一言も反論できなかった。
誇り高い彼女にとって、自らの非を認めざるを得ない沈黙は、どんな呪いよりも屈辱的だった。だが、姦姦蛇螺の指摘は正論だ。あの時、自分たちは確かに「ゴミクズ」のように、他人の尊厳が踏みにじられるのを指をくわえて見ていたのだ。
勝ち誇ったように大蛇の尾を揺らし、姦姦蛇螺は会議室の扉へと歩みを進める。
廊下に残されたメリーさんと美々子の背中に、さらに追い打ちをかけるような声が響く。
「おやおや……メリーに美々子か、廊下で立ち話とは 随分と余裕があるのね、過激派の皆さんは。」
現れたのは、白衣を翻したアクロバティックサラサラだった。彼女は手にしたカルテに目を落としながら、皮肉げな笑みを浮かべて通り過ぎる。
「カンダラの言うことも一理あるわよ。
まぁ、せいぜい今日の総会で、自分たちの
『品性』をどう弁明するか考えておくことね。」
アクサラの言葉に、メリーさんはガタガタと肩を震わせた。
良識派による、容赦のない「正論」の波。
臨時総会の幕が開く前から、過激派(執行部)はかつてない窮地に立たされていた。
すべては、あの「終わってる男」――川里健一という、あまりにも無垢な劇薬のせいだった。
場所は、霊界の一等地に位置する重厚な石造りの洋館。雀荘『奈落』の喧騒とは無縁の、静寂と緊張が支配する「女性怨霊協会・中央会議室」である。
ここでは今、協会の主導権を巡る「過激派(執行部)」と「良識派」の熾烈な政治抗争が幕を開けようとしていた。
廊下の向こうから、凛とした衣擦れと、微かな「シュルシュル」という鱗が床を擦る音が響く。
良識派の急先鋒、姦姦蛇螺(カンカンダラ)だ。黒髪ショートに銀縁眼鏡、巫女装束の下から覗く大蛇の尾が、彼女の底知れぬ霊力を物語っている。
その前を、過激派のメリーさんと、
彼女を慕う美少女怨霊の美々子が通り過ぎようとした。
メリーさんは今回の議題となる「健一の痴態」
を思い出し、あの滑稽でどこか愛らしい人間の姿に、無意識に頬を緩めていた。
すれ違いざま、氷のような声が廊下に響く。
「あら……無実の人間が嫐(なぶ)られているというのに。助けもせず、馬鹿面晒して、馬鹿そうな仲間達とケタケタ笑いながら見ていたゴミクズさん、
何かやけに楽しそうね……。」
メリーさんの足が止まる。
「なっ……。」
反論しようと振り返るが、姦姦蛇螺の眼鏡の奥にある瞳は、ゴミを見るような嫌悪に満ちていた。
伽椰子や貞子、メリーさんのような「無差別呪殺」を繰り返してきた過去を持つ者を、
元巫女である彼女は生理的に受け付けない。
美々子が真っ赤になって姦姦蛇螺を睨みつけが、姦姦蛇螺は美々子に対してだけは、ふっと悲しげに目を細めた。
「可哀想に……こんな不潔な連中に毒されて。
あなたはまだまだ若くやり直せるのに……。」
彼女の憐憫の眼差しに美々子は言葉を失い、
ただただ唇を噛み締めることしかできなかった。
その横では、親友同士であるカシマさん(過激派)とひきこさん(良識派)が、互いに視線を合わせられず、よそよそしく会釈だけを交わして通り過ぎていった。
姦姦蛇螺は、巫女服の袖で鼻先を軽く仰ぐと、これ見よがしに顔を背けた。
「……大体、あなたたちが通り過ぎるだけで、この神聖な廊下が血生臭くなって敵わないわ。少しは自制というものを覚えたらどうなの? 呪殺なんて野蛮なエネルギーの浪費、知性の欠片も感じられないわね。」
吐き捨てられた言葉は、針のように鋭くメリーさんの胸を刺した。
いつもなら「ふん、高潔な巫女様は随分と余裕がないのね。」と鼻で笑い飛ばすところだが、今のメリーさんにはそれができなかった。
脳裏に焼き付いているのは、あのモニター越しに見た健一の姿。
自分たちが娯楽として消費し、嘲笑っていたあの青年の、あまりにも無垢で、そして「受難」そのものだったあの夜の光景。
「…………。」
メリーさんは唇を震わせ、拳を強く握りしめたまま、一言も反論できなかった。
誇り高い彼女にとって、自らの非を認めざるを得ない沈黙は、どんな呪いよりも屈辱的だった。だが、姦姦蛇螺の指摘は正論だ。あの時、自分たちは確かに「ゴミクズ」のように、他人の尊厳が踏みにじられるのを指をくわえて見ていたのだ。
勝ち誇ったように大蛇の尾を揺らし、姦姦蛇螺は会議室の扉へと歩みを進める。
廊下に残されたメリーさんと美々子の背中に、さらに追い打ちをかけるような声が響く。
「おやおや……メリーに美々子か、廊下で立ち話とは 随分と余裕があるのね、過激派の皆さんは。」
現れたのは、白衣を翻したアクロバティックサラサラだった。彼女は手にしたカルテに目を落としながら、皮肉げな笑みを浮かべて通り過ぎる。
「カンダラの言うことも一理あるわよ。
まぁ、せいぜい今日の総会で、自分たちの
『品性』をどう弁明するか考えておくことね。」
アクサラの言葉に、メリーさんはガタガタと肩を震わせた。
良識派による、容赦のない「正論」の波。
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