山村貞子と、終わってる男の愛のライフプラン ――

優心

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第二十一章:深夜のライフプランニング(FP・健一の問診)

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 深夜1時のデニーズ。オレンジ色の照明の下、メロンソーダを不思議そうに見つめる絶世の美女・貞子を前に、健一は仕事のスイッチを切り替えた。

 彼はこう見えて、日中は腕利きのファイナンシャル・プランナー(FP)である。顧客の混沌とした家計を整理し、未来を設計するのが彼の生業だ。
 たとえ相手が「受肉した怨霊」であっても、彼の職業倫理が黙っていなかった。

「……よし、落ち着いた。山村貞子さん、、、ね
 ここからは『問診』だ。現状を正確に把握しないと、君の、いや、俺たちのライフプランが立てられないからな。」

 健一はノートを開き、FP特有の整った字で項目を書き込んでいく。

【ヒアリング項目:山村貞子(19)】

「まず、居住形態について。君、帰る場所(井戸)はあるのか? あるいは、物理的に戻れるのか?」

「……戻れないわ。あの冷たい水の感覚も、暗闇も……今の私には、遠い記憶みたい。ここにいたいわけじゃないけど、行く場所もない……。」

「なるほど、『帰省先喪失および住居不定』か。
 次に、身体的リスクについて。さっきの……その、熱の件も含めて、生理現象はどうだ? 腹は減るか? 眠気は?」

「……お腹は、さっきから鳴ってるわ。眠気も……少し。呪っていた時は、こんなに自分の体が『重い』なんて思わなかった……。」

 健一はペンを走らせる。 
『身体状況:完全受肉?済み。
 維持費(食費・光熱費)が発生する見込み。』

「次は、資産状況だ。……いや、聞くだけ無駄か。通帳も印鑑も、マイナンバーカードもないよな。
 戸籍も……昭和で止まってるか。これは重いぞ、、。再発行どころの騒ぎじゃない、存在のリーガル・リスクだ」

 貞子は、健一が書いている難しい文字を覗き込み、不安そうに眉を寄せた。

「……私、そんなに大変なの? 呪い殺す方が、ずっと簡単だったわ……。」

「当たり前だろ。死ぬのは一瞬、生きるのはコストの連続なんだよ。でも安心しろ。俺はこれでもFPだ。リスクヘッジと資産形成のプロだ。」

 健一は、貸していたトレンチコートの袖から覗く貞子の白い手(手袋をはめているが)を、ペンで指した。

「貞子さん。今の君は『負債』じゃない。磨けば光る『超優良資産』だ。そのルックス、そのミステリアスなオーラ。そして何より、俺の『生気』で動いているという強みがある。」

 健一の目が、仕事モード特有の鋭さを帯びる。

「いいか。これから俺たちは、君の『人間としての更生プラン』を立てる。まずは身分証の確保(仮)、そして、君の特殊能力を活かした副業の検討だ。……例えば、その髪を活かしたシャンプーのモニターとか、あるいは……『絶対に当たる心霊予報士』とか。」

「……健一。貴方、さっきまで私のあそこに……その、入れてた人と同じ人なの?」

「あ、それは、それ、これはこれだ! 顧客満足度(CS)の向上もFPの大事な仕事だろ!」

 健一は赤面しながらノートを閉じ、店員を呼んだ。

「すいません! ミックスグリル二つ。一つは大盛りで。あと、この子にパンケーキも追加で。」

「……健一。」 
 
「なんだよ。」 

「……ありがとう。」

 トレンチコートの中で、貞子が小さく微笑んだ。 FP健一、史上最大の難案件。しかしその表情には、「この女の人生(死後生)、俺が設計してやる」という、プロとして決意が漲っていた。
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