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王宮の控え室に飛び込んだ私を待っていたのは、涙で顔をぐしゃぐしゃにしたセシリア様でした。
「ルミエル! 貴女、クロード様の制止を振り切ってまで、私のために来てくれたのね!」
セシリア様は私の手を握りしめ、激しく上下に振りました。
「ええ、まあ、そうですわね。私の将来の『安定した配当金』が危機に瀕していると聞けば、地獄の果てからでも駆けつけますわ」
「ああ、なんて健気なの……! 貴女、自分の恋を二の次にして、親友のピンチを優先するなんて。これこそ真実の友情、いえ、自己犠牲の愛だわ!」
セシリア様の瞳が、キラキラを通り越して、もはや発光しています。
「(……いえ、恋も二の次ではありませんわ。クロード閣下の資産も私の報酬も、まとめて守るのが一番効率が良いだけなのですが)」
私は否定するのも面倒になり、とりあえず彼女の背中を叩きました。
「それで、セシリア様。隣国の使節団、どんな『商品』……いえ、令嬢を連れてきているのですか?」
「ガルド王国の第一王女、リリアーナ様よ。彼女、自国では『奇跡を呼ぶ聖女』と呼ばれているらしいわ。……先ほど少しお会いしたけれど、非の打ち所がないほど完璧な方だった」
セシリア様が、少しだけ自信なさげに肩を落としました。
「奇跡を呼ぶ、聖女? ……ふん、そんなの実体がない株価のようなものですわ。実績を精査すれば、ボロが出るに決まっていますわよ」
「ルミエル、貴女って本当に頼もしいわ! でも、無理はしないでね。貴女にはクロード様という素敵な方がいるのだから、もし私に何かあっても、貴女だけは幸せになって……!」
「セシリア様、何を仰いますか! 貴女が王妃にならなければ、私の『有力な紹介状』が完成しませんのよ! 貴女の幸せは、私の資産価値と直結しているんですから、絶対に諦めさせませんわ!」
「……ルミエル。貴女って、本当に照れ屋さんね。お金の話にすり替えて、私を励ましてくれるなんて」
セシリア様が、私の言葉をまたしても「愛の溢れる解釈」で受け取りました。
この人のポジティブ変換フィルター、そろそろメンテナンスが必要かもしれませんわね。
そこへ、廊下からラッパの音が響き渡りました。
「使節団の皆様のお出ましですわ! セシリア様、背筋を伸ばして。貴女が積み上げてきた『慈愛』の実績を、ここで披露するのです!」
「ええ、わかったわ! 私、頑張る!」
私たちが謁見の間へ向かうと、そこには金銀財宝を散りばめたような豪華な衣装に身を包んだ、一団が鎮座していました。
中心にいるのは、抜けるような白い肌と、澄んだ青い瞳を持つ令嬢。彼女がガルド王国のリリアーナ王女ですわね。
「(……ほう。確かに、顔面偏差値は極めて高いですわ。市場価値で言えば、時価数億リーブルといったところかしら)」
私は後ろから、冷徹な査定人の目で彼女を観察しました。
リリアーナ王女は、エドワード殿下に向かって、鈴を転がすような声で微笑みました。
「エドワード殿下。我がガルド王国は、貴国とのさらなる友好を望んでおります。……もし、殿下の隣に相応しい者がいないのであれば、この私がお力添えをしたいと考えておりますの」
ストレートな宣戦布告。会場にいた貴族たちが、ざわめき始めます。
「リリアーナ王女。お言葉ですが、私には既にセシリアという婚約者がおります」
エドワード殿下が毅然と答えましたが、王女は余裕の笑みを崩しません。
「あら。その『セシリア様』は、以前は随分と評判が悪かったと聞き及んでおります。……国民が求めているのは、過去にトゲを持っていた華ではなく、最初から人々を癒やす聖女ではないかしら?」
嫌な言い方ですわね。まるで、中古品よりも新品の方が価値があると言わんばかりですわ。
「(……セシリア様、ここで言い返さないと負けますわよ!)」
私はセシリア様の背中を、指先でチクリと突きました。
「……リリアーナ様。私は確かに、未熟な人間でした。……ですが、この国の皆様と共に歩む中で、失敗から学び、成長することの尊さを知りました。最初から完璧であることよりも、痛みを分かち合えることの方が、王妃として大切な資質ではないでしょうか?」
セシリア様が、私の教え通りの「慈愛のカウンター」を放ちました。
会場の貴族たちから、感嘆の声が漏れます。
「あら、口先だけなら誰でも言えますわ。……では、この場で『奇跡』をお見せしましょうか?」
リリアーナ王女が、怪しく光る魔石を取り出しました。
「(……まずいですわ。あの方、物理的な奇跡(演出)を用意していますわね!)」
私の金持ちセンサーが、激しい警報を鳴らしました。
ショービジネスの世界では、理屈よりも「目に見える派手な現象」が勝つことが多いのです。
どうにかして、あの王女の「インチキ奇跡」を暴かなければなりませんわ!
私は、物陰から様子を伺っているクロード閣下と視線を合わせ、小さく頷きました。
さあ、第二の戦場の幕開けですわ!
「ルミエル! 貴女、クロード様の制止を振り切ってまで、私のために来てくれたのね!」
セシリア様は私の手を握りしめ、激しく上下に振りました。
「ええ、まあ、そうですわね。私の将来の『安定した配当金』が危機に瀕していると聞けば、地獄の果てからでも駆けつけますわ」
「ああ、なんて健気なの……! 貴女、自分の恋を二の次にして、親友のピンチを優先するなんて。これこそ真実の友情、いえ、自己犠牲の愛だわ!」
セシリア様の瞳が、キラキラを通り越して、もはや発光しています。
「(……いえ、恋も二の次ではありませんわ。クロード閣下の資産も私の報酬も、まとめて守るのが一番効率が良いだけなのですが)」
私は否定するのも面倒になり、とりあえず彼女の背中を叩きました。
「それで、セシリア様。隣国の使節団、どんな『商品』……いえ、令嬢を連れてきているのですか?」
「ガルド王国の第一王女、リリアーナ様よ。彼女、自国では『奇跡を呼ぶ聖女』と呼ばれているらしいわ。……先ほど少しお会いしたけれど、非の打ち所がないほど完璧な方だった」
セシリア様が、少しだけ自信なさげに肩を落としました。
「奇跡を呼ぶ、聖女? ……ふん、そんなの実体がない株価のようなものですわ。実績を精査すれば、ボロが出るに決まっていますわよ」
「ルミエル、貴女って本当に頼もしいわ! でも、無理はしないでね。貴女にはクロード様という素敵な方がいるのだから、もし私に何かあっても、貴女だけは幸せになって……!」
「セシリア様、何を仰いますか! 貴女が王妃にならなければ、私の『有力な紹介状』が完成しませんのよ! 貴女の幸せは、私の資産価値と直結しているんですから、絶対に諦めさせませんわ!」
「……ルミエル。貴女って、本当に照れ屋さんね。お金の話にすり替えて、私を励ましてくれるなんて」
セシリア様が、私の言葉をまたしても「愛の溢れる解釈」で受け取りました。
この人のポジティブ変換フィルター、そろそろメンテナンスが必要かもしれませんわね。
そこへ、廊下からラッパの音が響き渡りました。
「使節団の皆様のお出ましですわ! セシリア様、背筋を伸ばして。貴女が積み上げてきた『慈愛』の実績を、ここで披露するのです!」
「ええ、わかったわ! 私、頑張る!」
私たちが謁見の間へ向かうと、そこには金銀財宝を散りばめたような豪華な衣装に身を包んだ、一団が鎮座していました。
中心にいるのは、抜けるような白い肌と、澄んだ青い瞳を持つ令嬢。彼女がガルド王国のリリアーナ王女ですわね。
「(……ほう。確かに、顔面偏差値は極めて高いですわ。市場価値で言えば、時価数億リーブルといったところかしら)」
私は後ろから、冷徹な査定人の目で彼女を観察しました。
リリアーナ王女は、エドワード殿下に向かって、鈴を転がすような声で微笑みました。
「エドワード殿下。我がガルド王国は、貴国とのさらなる友好を望んでおります。……もし、殿下の隣に相応しい者がいないのであれば、この私がお力添えをしたいと考えておりますの」
ストレートな宣戦布告。会場にいた貴族たちが、ざわめき始めます。
「リリアーナ王女。お言葉ですが、私には既にセシリアという婚約者がおります」
エドワード殿下が毅然と答えましたが、王女は余裕の笑みを崩しません。
「あら。その『セシリア様』は、以前は随分と評判が悪かったと聞き及んでおります。……国民が求めているのは、過去にトゲを持っていた華ではなく、最初から人々を癒やす聖女ではないかしら?」
嫌な言い方ですわね。まるで、中古品よりも新品の方が価値があると言わんばかりですわ。
「(……セシリア様、ここで言い返さないと負けますわよ!)」
私はセシリア様の背中を、指先でチクリと突きました。
「……リリアーナ様。私は確かに、未熟な人間でした。……ですが、この国の皆様と共に歩む中で、失敗から学び、成長することの尊さを知りました。最初から完璧であることよりも、痛みを分かち合えることの方が、王妃として大切な資質ではないでしょうか?」
セシリア様が、私の教え通りの「慈愛のカウンター」を放ちました。
会場の貴族たちから、感嘆の声が漏れます。
「あら、口先だけなら誰でも言えますわ。……では、この場で『奇跡』をお見せしましょうか?」
リリアーナ王女が、怪しく光る魔石を取り出しました。
「(……まずいですわ。あの方、物理的な奇跡(演出)を用意していますわね!)」
私の金持ちセンサーが、激しい警報を鳴らしました。
ショービジネスの世界では、理屈よりも「目に見える派手な現象」が勝つことが多いのです。
どうにかして、あの王女の「インチキ奇跡」を暴かなければなりませんわ!
私は、物陰から様子を伺っているクロード閣下と視線を合わせ、小さく頷きました。
さあ、第二の戦場の幕開けですわ!
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