婚約破棄を受け入れる!だってヒロイン様が、怖すぎる

ちゅんりー

文字の大きさ
27 / 28

27

しおりを挟む
「……ターリア様。あの日、河原で貴女をお守りすると誓ってから、私の心は決まっていました」


夕暮れ時。アルベルト様が、新しく借りた屋敷の庭で、私の手を取って真剣な眼差しを向けてきた。


「私は、一人の男として、貴女を一生支えたい。……私と、結婚を前提にこの国で暮らしてはいただけませんか?」


(……プロポーズ! ついに来たわ、乙女ゲームならハッピーエンドのクライマックスシーン!)


本来なら、ここで頬を染めて頷くのが正解なのだろう。


だが、私の視界の隅では、庭の巨大な石像――アルベルト様が訓練用に置いたはずの、重さ数トンの彫刻――が、微かに「左右に揺れて」いた。


「……ねえ、アルベルト様。あの石像、前からあんなに躍動感あったかしら?」


「……? ああ、私の愛の情熱が、周囲の静物をも動かしているのかもしれませんね」


(……違うわよ! あの中に誰か入ってるでしょ! あるいは、あの中身そのものが、ピンク色の髪の怪物に置き換わってるのよ!)


私は石像の背後から感じる「じっとりとした視線」に、背筋を凍らせた。


「お、お受けしたいのは山々なんだけど……。でも、私たち、二人きりになれる時間なんて、一生来ない気がするの」


私が震える声で言うと、案の定、石像の中から「シュバッ!」と何かが飛び出してきた。


「おめでとうございますわ、お姉様ぁああああ!!」


石像を内側から粉砕して現れたのは、拍手喝采を贈るフローラ様だった。


「ひ、ひぃっ! やっぱりいた! 潜伏してたわ、この女!」


「あら失礼ね。私はただ、お姉様の幸せな瞬間を『最前列』で記録したかっただけですの。……ねえ、騎士様。結婚されるのは構いませんけれど、もちろん私も『同居』させていただきますわよね?」


フローラ様は、粉々になった石像の破片を、まるで花吹雪のように空へ放り投げながら言った。


「……同居? 聖女殿、新婚生活に他人が入り込む隙など……」


「隙なら作りますわ。……お姉様と貴方の寝室の『壁の中』に、私専用の観測スペースを掘りましたから」


「……壁の中に観測スペース!? 忍者かあんたは!!」


私は、自室の壁をドンドンと叩いた。……確かに、妙に空洞のような音がする。


「お姉様が夜中にうなされていないか、私が一晩中、壁の隙間から見守って差し上げますわ。……あ、騎士様。お姉様に少しでも指一本、不潔な触れ方をしたら……その腕、根元から『逆方向』に曲げて差し上げますから、安心してくださいね♡」


(……全然安心できない!! 監視どころか、全方位からの牽制じゃないのよ!)


「……なるほど。寝ている間も不逞の輩から守ってくれるというわけか。……なんと心強い護衛だ! ターリア様、これで私たちの愛の巣は鉄壁ですよ!」


アルベルト様が、ガシッと私の肩を抱いた。


「……鉄壁っていうか、監獄よ。ピンク色の看守が常駐する、逃げ場のないプリズンだわ……」


「お姉様、そんなに喜んでいただけて光栄ですわ! ……さあ、結婚式の準備を始めましょう? ウェディングドレスは、私が素手で紡いだ『超高密度防弾シルク』で作って差し上げますわね!」


「……防弾!? 結婚式で、誰が私を狙撃するって言うのよ!」


「お姉様の美しさに嫉妬した、世界の物理法則ですわ♡」


(……もう、突っ込む気力も残ってないわ……)


私は、アルベルト様の筋肉質な腕と、背後で「壁」になりきろうとしているフローラ様の殺気の間で、遠い目をしながら呟いた。


これが、私の望んだ「平穏」なのかしら。


いや、違う。これは、死ぬまで終わらない「全力の追いかけっこ」が、一つの屋根の下に収まっただけなのだ。


「……ふふ。お姉様。……一生、離しませんわよ?」


フローラ様が、私の首筋に鼻を近づけて、クスクスと笑った。


私の結婚(?)生活。それは、世界で最も物騒で、世界で最も「物理」に支配された、地獄のような楽園の始まりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない

柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。 バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。 カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。 そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。 愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。

裏切者には神罰を

夜桜
恋愛
 幸せな生活は途端に終わりを告げた。  辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。  けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。  あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。

恋詠花

舘野寧依
恋愛
アイシャは大国トゥルティエールの王妹で可憐な姫君。だが兄王にただならぬ憎しみを向けられて、王宮で非常に肩身の狭い思いをしていた。 そんな折、兄王から小国ハーメイの王に嫁げと命じられたアイシャはおとなしくそれに従う。しかし、そんな彼女を待っていたのは、手つかずのお飾りの王妃という屈辱的な仕打ちだった。それは彼女の出自にも関係していて……? ──これは後の世で吟遊詩人に詠われる二人の王と一人の姫君の恋物語。

恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯
恋愛
 侯爵令嬢シルヴィアは、ウィンデリア国で2番目に強い魔力の持ち主。  幼馴染の公爵家嫡男セドリックを幼いころから慕っている。成長につれ彼女の魔力が強くなった結果、困った副作用が生じ、魔法学園に入学することになる。  最短で学園を卒業し、再びセドリックと会えるようになったものの、二人の仲に進展は見られない。  そうこうしているうちに、幼い頃にシルヴィアが魔力で命を救った王太子リチャードから、 「あと半年でセドリックを落とせなかったら、自分の婚約者になってもらう」と告げられる。  その後、王太子の暗殺計画が予知されセドリックもシルヴィアも忙殺される中、シルヴィアは半年で想いを成就させられるのか…。  「小説家になろう」サイトで完結済みです。なろうサイトでは番外編・後日談をシリーズとして投稿しています。

4人の女

猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。 うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。 このご婦人方には共通点がある。 かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。 『氷の貴公子』の異名を持つ男。 ジルベール・タレーラン公爵令息。 絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。 しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。 この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。 こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

【完結】婚約者様。今、貴方が愛を囁いているのは、貴方が無下に扱っている貴方の婚約者ですわよ

兎卜 羊
恋愛
「お願いです、私の月光の君。美しい貴女のお名前を教えては頂けませんでしょうか?」 とある公爵家での夜会。一人テラスに出て綺麗な夜空を眺めていた所に一人の男性が現れ、大層仰々しく私の手を取り先程の様な事をツラツラと述べられたのですが…… 私、貴方の婚約者のマリサですけれども? 服装や髪型にまで口を出し、私を地味で面白味の無い女に仕立てるだけでは飽き足らず、夜会のエスコートも誕生日の贈り物すらしない婚約者。そんな婚約者が私に愛を囁き、私の為に婚約破棄をして来ると仰ってますけれど……。宜しい、その投げられた白い手袋。しかと受け取りましたわ。◆◆ 売られた喧嘩は買う令嬢。一見、大人しくしている人ほどキレたら怖い。 ◆◆ 緩いお話なので緩いお気持ちでお読み頂けましたら幸いです。 誤字脱字の報告ありがとうございます。随時、修正させて頂いております。

処理中です...