婚約破棄を受け入れる!だってヒロイン様が、怖すぎる

ちゅんりー

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「……はぁ。まさか、本当にこの日を迎えることになるなんてね」


私は鏡の中に映る、純白の……そして異様に重厚なウェディングドレスを纏った自分を見つめた。


このドレスは、フローラ様が「お姉様をあらゆる物理攻撃から守るため」に、超高密度の魔導金属を糸状に練り上げて編んだ特注品だ。


防弾、防刃、そしておそらく対竜火炎(ドラゴンブレス)すら防げるであろうこの服は、花嫁衣装というよりは「人型最終決戦兵器の装甲」に近い。


「……ターリア様。お迎えに上がりました。……ああ、なんと、なんと神々しい……!」


ドアを開けて入ってきたアルベルト様は、私の姿を見た瞬間に、大胸筋を震わせながら涙を流した。


「……アルベルト様。泣くのはいいけど、その涙で私のドレスを錆びさせないでね。これ、金属製だから」


「……分かっております。ですが、貴女のその『鉄壁の美しさ』に、私の心臓はもはや蝶々結び寸前です!」


(……まだ言ってるわ、その蝶々結びネタ)


私は溜息をつきながら、彼が差し出した逞しい腕を取った。


「……行きましょう。世界で一番物騒な結婚式へ」


教会の扉が開くと、そこにはクローデル王国の国王陛下をはじめ、名だたる貴族たちが参列していた。


だが、異様なのはその光景だ。


バージンロードの両脇には、ピンク色のリボンでデコレーションされた「バリケード」が築かれ、参列者は全員、ヘルメットの着用を義務付けられていた。


「……ねえ、これ本当に結婚式? 暴動の鎮圧現場じゃないわよね?」


「……お姉様ぁあああ!! おめでとうございますわぁああああ!!」


天の窓を突き破って、ピンク色の花びら(という名の、細かく砕かれた宝石の破片)を撒き散らしながら、フローラ様が降臨した。


彼女は、私の背後数ミリという「不可侵条約ギリギリ」の距離にピタリと着地すると、満面の笑みで私のベールを整えた。


「……フローラ様。窓を壊さないでって言ったじゃない」


「あら、お祝いの気持ちが溢れて、つい気圧が変化してしまったんですの。……さあ、誓いの言葉をどうぞ? もし騎士様が噛んだら、その場で私が『愛の教育(物理)』を施して差し上げますわ♡」


(……脅迫よ。これ、公開脅迫よ!)


神父様は、ガタガタと震えながら聖書を読み上げた。


「……汝、アルベルト・グランツは、このターリアを妻とし……」


「誓います! 彼女の平穏のため、私の筋肉が塵に還るまで盾となることを!」


「……汝、ターリア・フォン・バルトシュは……」


私は、隣でアルベルト様が放つ熱気と、背後でフローラ様が放つ「一瞬でも愛を誓い忘れたら即座に監禁しますわよ」という冷徹なプレッシャーを同時に感じた。


「……誓います。……この二人の『愛(という名の不条理)』から、一生逃げずに、生き延びることを……!」


「「「おおぉぉぉおおお!!」」」


参列者から、割れんばかりの拍手が沸き起こる。……というか、フローラ様の拍手が凄まじすぎて、教会のステンドグラスが数枚割れた。


こうして、私は正式にアルベルト様の妻となり、同時にフローラ様の「終身監視対象」となった。


式の後、私たちは新居となる屋敷のバルコニーに立っていた。


目の前には、平和な王都の景色。


……そして、庭の茂みから、こちらを双眼鏡(ではなく、素の視力)で見つめるピンク色の影。


「……アルベルト様。私、幸せになれるかしら」


「……なれますとも。私が貴女の盾となり、あの方が貴女の『壁』となる。……これほど安全な人生が、他にありますか?」


アルベルト様が、私の肩を優しく抱き寄せた。


「……そうね。世界で一番怖くて、世界で一番守られている。……それが、私の手に入れた『幸せ』の形なのね」


私は、鋭い三白眼を少しだけ和らげ、隣国の空を見上げた。


あっちの国では、今頃ユリウス王子が「異常な女たちから解放された」と安堵していることだろう。


(……ふふ。いいわよ、王子様。あなたはあなたの『凡庸な平和』を楽しみなさい。私は私の、この『命懸けの日常』を愛してあげるわ)


私は、そっとアルベルト様の胸に頭を預けた。


すると、壁の向こう側から「お姉様、今、幸せ指数が五パーセント上昇しましたわね!?」という、フローラ様の嬉しそうな声が響いた。


「……ああ、もう! やっぱり壁の中にいたのね!」


「お姉様! 今夜のお祝いのディナーは、私が素手で絞った『純度百パーセントの牛一頭分の肉汁ジュース』ですわよぉおおお!!」


「いらないわよぉおおおおお!!」


私の叫びが、今日も平和(?)な王都に響き渡る。


悪役令嬢として婚約破棄され、国外追放された私、ターリア。


恐怖のヒロインから逃げ回った末に辿り着いたのは、筋肉と狂気に包まれた、誰よりも騒がしく、誰よりも「物理的」に温かい、最高の終着駅だった。
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