12 / 28
12
しおりを挟む
「……こうなったら、共犯者を作るしかないわ」
私は自室で、真剣な面持ちでマリアさんと向き合っていた。
ハニートラップさえも「愛の試練」として昇華してしまったアラリック様。
彼を正面から攻略するのは不可能だと悟った私は、ついに禁断の一手に打って出ることにした。
そう、ヒロインであるマリアさんに「悪女」を演じてもらうのよ!
「……ルト様。私に、大切なお話とは?」
マリアさんが、ゴクリと唾を呑んで私を見つめている。
彼女の瞳は、「またルト様が何か素晴らしい慈善事業を提案してくださるのでは」という期待でギラついている。
「いい、マリアさん。よく聞きなさい。……あなた、アラリック様を奪いたくない?」
「……はい?」
マリアさんの動きが止まった。
「今のままでは、私は王太子妃として不自由な生活を送ることになるわ。それは嫌なの。だから、あなたが『悪女』になって、私から殿下を奪い取ってほしいのよ!」
私は彼女の両手を握り、必死に訴えかけた。
「殿下の前で、私をいじめているふりをしなさい。私に冷たいお茶をかけたり、ドレスを破いたりして、『この女、本性は醜いわ! それに比べてマリアはなんて可憐なんだ!』って殿下に思わせるの。わかるわね?」
「……なるほど。ルト様の深いお考え、理解いたしました!」
マリアさんが、力強く頷いた。
お、意外と物分かりがいいわね。
「つまり、ルト様は私に『汚れ役』を演じさせることで、ご自身の王太子妃としての立場をより盤石なものにしようと……! 私が悪女になればなるほど、ルト様の聖女ぶりが際立つ。……素晴らしい、あまりにも高度な政治的策略ですわ!」
「……え、いや、そうじゃなくて。本当に奪ってほしいんだけど」
「お任せください、ルト様! 私、命をかけて『悪女』を演じきってみせますわ! ルト様のさらなる飛躍のために!」
マリアさんの瞳に、見たこともないような狂信的な炎が宿った。
……嫌な予感しかしないけれど、背に腹は代えられないわ。
数日後。
王宮の午餐会にて、ついに作戦が決行されることになった。
アラリック様が、多くの貴族たちと談笑している。
「(さあ、マリアさん。合図通りに、私のドレスにワインをぶちまけるのよ!)」
私はマリアさんに視線を送った。
彼女は、手に赤ワインのグラスを持ち、震える足取りで私に近づいてくる。
「……あ、あら! ルト様、こんなところに立っていらしたなんて……! 私としたことが、うっかり手が……!」
マリアさんが、わざとらしくグラスを傾けた。
よし! これで私のドレスは台無し、周囲はマリアさんを非難し、私は「なんてひどい女なの!」と叫ぶ——……。
バシャッ!
「……へ?」
私のドレスにかかったのは、ワインではなかった。
……なぜか、銀色の粉末のようなものが舞っている。
「……ああっ! ルト様、申し訳ありません! 私、あまりにもルト様が眩しすぎて、ワインの代わりに『最高級のラメ入り香水』を浴びせてしまいましたわ!」
「……はぁぁぁ!?」
私のドレスは汚れるどころか、キラキラと七色に輝き、周囲には高貴な薔薇の香りが漂い始めた。
「……おお! なんと素晴らしい! ルト様の輝きが増していく!」
「マリア嬢、君はルトのために、わざわざ貴重な香水をサプライズで用意していたのかい?」
アラリック様が、感動のあまり私の手を取った。
「見てごらん、ルト。君が歩くたびに光の粒が舞っている。まるで、天から降りてきた女神そのものだ。マリア嬢、君の演出力にはいつも驚かされるよ」
「恐縮です、殿下! ルト様の美しさを引き立てるためなら、私はどんな『悪事(ラメ散布)』も厭いませんわ!」
マリアさんが、ドヤ顔で私にウインクをしてきた。
……違う。全然違うわよ、マリアさん!
私は諦めず、小声で彼女に囁いた。
「……何やってるのよ! 次はもっと直接的に、私を突き飛ばしなさい!」
「……承知いたしました、ルト様!」
マリアさんは鼻息を荒くし、私に向かって猛然とダッシュしてきた。
これよ、これ! 衆人環視の中で私を突き飛ばせば、さすがに暴行罪で……。
「……お、重っ!!」
マリアさんは私を突き飛ばすのではなく、私の足元にダイブし、ドレスの裾をガッチリと掴んだ。
「ルト様ぁぁ! その靴の紐が解けかけております! 万が一にもルト様がお怪我をされないよう、このマリア、盾となってお守りいたしますわ!!」
「……」
周囲からは、「おお、なんという忠誠心」「ルト様は、下級貴族にここまで慕われているのか」と、さらなる賞賛の嵐。
アラリック様は、ついに涙ぐみながら私の肩を抱いた。
「ルト……。君は、マリア嬢に『悪女の役』を演じさせるという高度な訓練を施し、彼女の度胸を試していたんだね。……君の教育者としての才能、僕は一生信じてついていくよ」
「(……もう、この世界からログアウトしたい)」
マリアさんの「悪女芝居」は、私の「聖女伝説」を強化する最強のスパイスにしかならなかった。
私の断罪への道は、キラキラ輝くラメと、マリアさんの過剰な忠誠心によって、完全に封鎖されてしまったのである。
私は自室で、真剣な面持ちでマリアさんと向き合っていた。
ハニートラップさえも「愛の試練」として昇華してしまったアラリック様。
彼を正面から攻略するのは不可能だと悟った私は、ついに禁断の一手に打って出ることにした。
そう、ヒロインであるマリアさんに「悪女」を演じてもらうのよ!
「……ルト様。私に、大切なお話とは?」
マリアさんが、ゴクリと唾を呑んで私を見つめている。
彼女の瞳は、「またルト様が何か素晴らしい慈善事業を提案してくださるのでは」という期待でギラついている。
「いい、マリアさん。よく聞きなさい。……あなた、アラリック様を奪いたくない?」
「……はい?」
マリアさんの動きが止まった。
「今のままでは、私は王太子妃として不自由な生活を送ることになるわ。それは嫌なの。だから、あなたが『悪女』になって、私から殿下を奪い取ってほしいのよ!」
私は彼女の両手を握り、必死に訴えかけた。
「殿下の前で、私をいじめているふりをしなさい。私に冷たいお茶をかけたり、ドレスを破いたりして、『この女、本性は醜いわ! それに比べてマリアはなんて可憐なんだ!』って殿下に思わせるの。わかるわね?」
「……なるほど。ルト様の深いお考え、理解いたしました!」
マリアさんが、力強く頷いた。
お、意外と物分かりがいいわね。
「つまり、ルト様は私に『汚れ役』を演じさせることで、ご自身の王太子妃としての立場をより盤石なものにしようと……! 私が悪女になればなるほど、ルト様の聖女ぶりが際立つ。……素晴らしい、あまりにも高度な政治的策略ですわ!」
「……え、いや、そうじゃなくて。本当に奪ってほしいんだけど」
「お任せください、ルト様! 私、命をかけて『悪女』を演じきってみせますわ! ルト様のさらなる飛躍のために!」
マリアさんの瞳に、見たこともないような狂信的な炎が宿った。
……嫌な予感しかしないけれど、背に腹は代えられないわ。
数日後。
王宮の午餐会にて、ついに作戦が決行されることになった。
アラリック様が、多くの貴族たちと談笑している。
「(さあ、マリアさん。合図通りに、私のドレスにワインをぶちまけるのよ!)」
私はマリアさんに視線を送った。
彼女は、手に赤ワインのグラスを持ち、震える足取りで私に近づいてくる。
「……あ、あら! ルト様、こんなところに立っていらしたなんて……! 私としたことが、うっかり手が……!」
マリアさんが、わざとらしくグラスを傾けた。
よし! これで私のドレスは台無し、周囲はマリアさんを非難し、私は「なんてひどい女なの!」と叫ぶ——……。
バシャッ!
「……へ?」
私のドレスにかかったのは、ワインではなかった。
……なぜか、銀色の粉末のようなものが舞っている。
「……ああっ! ルト様、申し訳ありません! 私、あまりにもルト様が眩しすぎて、ワインの代わりに『最高級のラメ入り香水』を浴びせてしまいましたわ!」
「……はぁぁぁ!?」
私のドレスは汚れるどころか、キラキラと七色に輝き、周囲には高貴な薔薇の香りが漂い始めた。
「……おお! なんと素晴らしい! ルト様の輝きが増していく!」
「マリア嬢、君はルトのために、わざわざ貴重な香水をサプライズで用意していたのかい?」
アラリック様が、感動のあまり私の手を取った。
「見てごらん、ルト。君が歩くたびに光の粒が舞っている。まるで、天から降りてきた女神そのものだ。マリア嬢、君の演出力にはいつも驚かされるよ」
「恐縮です、殿下! ルト様の美しさを引き立てるためなら、私はどんな『悪事(ラメ散布)』も厭いませんわ!」
マリアさんが、ドヤ顔で私にウインクをしてきた。
……違う。全然違うわよ、マリアさん!
私は諦めず、小声で彼女に囁いた。
「……何やってるのよ! 次はもっと直接的に、私を突き飛ばしなさい!」
「……承知いたしました、ルト様!」
マリアさんは鼻息を荒くし、私に向かって猛然とダッシュしてきた。
これよ、これ! 衆人環視の中で私を突き飛ばせば、さすがに暴行罪で……。
「……お、重っ!!」
マリアさんは私を突き飛ばすのではなく、私の足元にダイブし、ドレスの裾をガッチリと掴んだ。
「ルト様ぁぁ! その靴の紐が解けかけております! 万が一にもルト様がお怪我をされないよう、このマリア、盾となってお守りいたしますわ!!」
「……」
周囲からは、「おお、なんという忠誠心」「ルト様は、下級貴族にここまで慕われているのか」と、さらなる賞賛の嵐。
アラリック様は、ついに涙ぐみながら私の肩を抱いた。
「ルト……。君は、マリア嬢に『悪女の役』を演じさせるという高度な訓練を施し、彼女の度胸を試していたんだね。……君の教育者としての才能、僕は一生信じてついていくよ」
「(……もう、この世界からログアウトしたい)」
マリアさんの「悪女芝居」は、私の「聖女伝説」を強化する最強のスパイスにしかならなかった。
私の断罪への道は、キラキラ輝くラメと、マリアさんの過剰な忠誠心によって、完全に封鎖されてしまったのである。
0
あなたにおすすめの小説
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました
ほーみ
恋愛
その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。
「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」
そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。
「……は?」
まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる