ただ、嫌われたかっただけなんです。婚約破棄を望みます。

ちゅんりー

文字の大きさ
23 / 28

23

「……もう、言葉なんて無力よ。物理的な『暴力』を見せてやるわ」

私は自室で、ギらついた瞳を輝かせながら、棚に並んだ高級な磁器を睨みつけていた。

博愛の象徴? 全人類の恋人?
笑わせないで。私は、自分の怒りさえコントロールできない、ヒステリックで野蛮な女なのよ!
その証拠を、今ここでアラリック様の前で突きつけてやるわ!

「お嬢様、また物騒なものを手に取って……。それは、先代の公爵が愛用していた、国宝級のティーカップですよ」

アンナが、ハラハラしながら私の手元を指差した。

「いいのよ! 壊すことに意味があるんだから! さあ、アラリック様をここに呼びなさい。私の『狂気』を特等席で見せてあげるわ!」

しばらくして、アラリック様が心配そうな顔で部屋にやってきた。
その後ろには、当然のようにマリアさんも付いてきている。

「ルト、急にどうしたんだい? 気分でも悪いのか——」

「うるさいわ! 近寄らないで!」

私は叫ぶなり、手近にあった最高級の皿を床に叩きつけた。

パリンッ!

鋭い破裂音が部屋に響き、美しい破片が四散した。
よし! 絶好のスタートだわ!

「見てなさい、アラリック様! 私はこうやって、気に入らないことがあれば何でも壊す女なのよ! 私は凶暴で、わがままで、王妃の品格なんて欠片もないんだから!」

私は次々と、棚の上の高価な食器を床に叩きつけていった。
ガシャン! パリン! 派手な音が鳴り響く。

「さあ、どう!? 怖いでしょう? 呆れたでしょう!? こんな女とは結婚できないって、今すぐ言いなさいな!」

私は息を切らしながら、挑戦的にアラリック様を睨みつけた。
彼は——呆然と立ち尽くし、目を見開いていた。
ついに、ついにドン引きしたわね!?

ところが。

「……っ!! ああ、なんて痛ましい……! ルト、君は……!」

アラリック様が、震える手で顔を覆った。

「君は、我が国に巣食う『古い価値観』や『形だけの美徳』を、こうして一つずつ打ち砕いているんだね……!」

「……は?」

「見てごらん、マリア嬢。ルトが壊しているのは、ただの皿じゃない。僕たちの家系を縛ってきた、重苦しい伝統そのものだ! 彼女は、自らの手を汚して、新しい時代の幕開けを告げる『破壊と創造の女神』として舞っているんだ!」

マリアさんが、いつものように激しくメモを取りながら叫んだ。

「その通りです、殿下! ルト様は、ご自身のストレスをあえて『音』に変えることで、王宮内の淀んだ空気を浄化していらっしゃるのですわ! この音、まるで運命を切り拓くファンファーレのようです!!」

「……え、ちょっと待って。私、ただ暴れてるだけなんだけど」

「ルト! 危ないから止めるんだ!」

アラリック様がいきなり私に駆け寄り、私の体を背後から抱きしめた。
その腕は、驚くほど力強く、そして温かかった。

「君がどれほど激しい情熱を秘めているか、よくわかった。君は一人で、この国の歪みと戦っていたんだね。……もういい、これからは僕も一緒に壊そう。君が壊したいものは、僕がすべて壊してあげるから」

「……はぁぁぁぁ!?」

アラリック様は、私の手から磁器を優しく取り上げると、自らそれを床に投げ捨てた。

ガシャン!

「ふぅ……。なるほど、これは確かに心が洗われる。ルト、君が教えてくれなければ、僕は一生、皿の一枚も割れない臆病な王子のままだった。君は僕に、『本能の解放』という最高の教育を施してくれたんだね!」

「素晴らしいです、殿下! 私も後に続きますわ!!」

マリアさんまでもが、花瓶を手に取って床に叩きつけた。

「(……なんで!? どうして王宮の重要人物たちが、揃いも揃って器物破損の共犯者になってるのよ!?)」

「ルト。君がどれだけ暴れても、僕は君の手を離さない。君のその『破壊的な愛』を、僕が一生かけて受け止めよう」

アラリック様が、私の耳元で甘く囁き、私をさらに強く抱きしめた。

私は、彼の腕の中で完全に戦意を喪失した。

暴れれば「古い価値観の打破」と言われ。
物を壊せば「心の浄化」と讃えられ。
挙句の果てには、王子の「ワイルドな一面」を目覚めさせてしまった。

「(……ねえ、誰か。本当に誰か一人くらい、私を『ヒステリック女』って罵ってよ……!!)」

私の「お皿割り大暴れ作戦」は、王宮内のストレス解消法の新境地を切り拓き、私の「聖女伝説」に「新しい時代を切り拓くジャンヌ・ダルク」という新たな称号を加えてしまったのだった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。