ただ、嫌われたかっただけなんです。婚約破棄を望みます。

ちゅんりー

文字の大きさ
24 / 28

24

しおりを挟む
「……もう、何をやっても無駄な気がしてきたわ」

私は自室で、もふもふの猫のぬいぐるみを抱きしめ、虚空を見つめていた。

お皿を割れば「破壊と創造の女神」と崇められる世界。
もはや、私の悪意はこの国の「善意」というブラックホールに飲み込まれて、跡形もなく消え去ってしまう。

「お嬢様、元気を出してください。……あ、いえ、お元気になられては困るのですよね」

アンナが、同情に満ちた目で私に新しいお茶を淹れてくれた。

「そうなのよ、アンナ。私はただ、嫌われたいだけなのに……。どうして世界は、私をこんなに甘やかすのかしら」

私がため息を漏らしたその時、扉が勢いよく開け放たれた。

「ルト! 素晴らしいニュースだ!」

現れたのは、もはや私の天敵とも言える「超絶ポジティブ王子」アラリック様と、その信者筆頭のマリアさんだ。

「……何が素晴らしいんですの? これ以上の褒め言葉なら、お腹いっぱいですわよ」

「ふふ、そんな謙遜しないでください、ルト様! 私たち、考えたんです。ルト様がこれまで、ご自身を犠牲にして積み上げてきた『隠れた善行』の数々……」

マリアさんが、いつもの聖典(メモ帳)を胸に抱いて熱く語る。

「それらすべてを公に讃え、ルト様の幸せを国中で祝うための『世界一幸せな婚約継続パーティー』を開催することに決定いたしました!」

「……は?」

「婚約継続……パーティー?」

「そうだよ、ルト! 結婚式まで待てないという国民の声に応えて、君の素晴らしさを再確認する場を作るんだ。君が嫌がる『贅沢』も、今日ばかりは僕たちがすべて用意したよ!」

「(……嫌がる贅沢、じゃなくて、私がしたいって言った贅沢を『経済対策』にしたのはあなたたちでしょうが!)」

私は頭を抱えた。
そんなパーティー、公開処刑以外の何物でもないわ。
「聖女ルト様、万歳!」なんてコールを延々と聞かされるなんて、耐えられない!

「断りますわ! 私はそんな、浮かれた催しなんて大嫌いなの! 私は地味に、ひっそりと、悪いことをして生きていきたいのよ!」

「ああ……。ルトは、まだ自分を『悪』だと偽ることで、周囲が浮かれすぎるのを戒めているんだね。……なんて、なんて謙虚なんだ!」

アラリック様が、私の両手を握って感動に震えている。

「大丈夫だよ、ルト。君がどれだけ謙虚に振る舞おうとしても、僕たちの愛は止まらない。パーティーの準備は、すでにルルトン騎士団が総力を挙げて進めているからね!」

「……騎士団をそんなことに使わないで」

「ルト様! 会場では、ルト様の『悪役令嬢(という名の聖女)名場面集』を劇団ルルトン座が上演する予定です! 楽しみにしていてくださいね!」

「……脚本は私が燃やすわ。今すぐ、灰にしてやるわ!」

マリアさんは、私の「灰にしてやる」という言葉を、「情熱的な演出の提案」だと受け取ったのか、嬉しそうに書きなぐっている。

「(……もうダメだ。このパーティー、絶対に阻止しなきゃ。……そうだわ!)」

私は一つの名案を思いついた。
パーティー当日、私が「史上最低に無礼な服装」で出席すればいいのよ!
そう、お葬式のような真っ黒な服で、お祝いの席をぶち壊してやるんだから!

「……フフフ。見てなさい、アラリック様。パーティー当日、あなたの隣に立つのは、お祝いの空気を台無しにする『死神のような女』よ!」

「ルト……。君が何を企んでいるかはわからないけれど、その楽しそうな顔を見られただけで、僕は幸せだよ」

アラリック様の眩しすぎる笑顔に、私は一瞬視力を失いそうになった。

私の「パーティー阻止作戦」は、私自身の「喪服出席」という新たな不敬計画へとシフトした。
しかし、この時の私はまだ知らなかった。
私の「最悪の服装」が、またしても王国の流行を塗り替えることになるとは。

自由への道は、祝祭の太鼓の音にかき消され、さらに遠ざかっていくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

処理中です...