ただ、嫌われたかっただけなんです。婚約破棄を望みます。

ちゅんりー

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「……もう、何をやっても無駄な気がしてきたわ」

私は自室で、もふもふの猫のぬいぐるみを抱きしめ、虚空を見つめていた。

お皿を割れば「破壊と創造の女神」と崇められる世界。
もはや、私の悪意はこの国の「善意」というブラックホールに飲み込まれて、跡形もなく消え去ってしまう。

「お嬢様、元気を出してください。……あ、いえ、お元気になられては困るのですよね」

アンナが、同情に満ちた目で私に新しいお茶を淹れてくれた。

「そうなのよ、アンナ。私はただ、嫌われたいだけなのに……。どうして世界は、私をこんなに甘やかすのかしら」

私がため息を漏らしたその時、扉が勢いよく開け放たれた。

「ルト! 素晴らしいニュースだ!」

現れたのは、もはや私の天敵とも言える「超絶ポジティブ王子」アラリック様と、その信者筆頭のマリアさんだ。

「……何が素晴らしいんですの? これ以上の褒め言葉なら、お腹いっぱいですわよ」

「ふふ、そんな謙遜しないでください、ルト様! 私たち、考えたんです。ルト様がこれまで、ご自身を犠牲にして積み上げてきた『隠れた善行』の数々……」

マリアさんが、いつもの聖典(メモ帳)を胸に抱いて熱く語る。

「それらすべてを公に讃え、ルト様の幸せを国中で祝うための『世界一幸せな婚約継続パーティー』を開催することに決定いたしました!」

「……は?」

「婚約継続……パーティー?」

「そうだよ、ルト! 結婚式まで待てないという国民の声に応えて、君の素晴らしさを再確認する場を作るんだ。君が嫌がる『贅沢』も、今日ばかりは僕たちがすべて用意したよ!」

「(……嫌がる贅沢、じゃなくて、私がしたいって言った贅沢を『経済対策』にしたのはあなたたちでしょうが!)」

私は頭を抱えた。
そんなパーティー、公開処刑以外の何物でもないわ。
「聖女ルト様、万歳!」なんてコールを延々と聞かされるなんて、耐えられない!

「断りますわ! 私はそんな、浮かれた催しなんて大嫌いなの! 私は地味に、ひっそりと、悪いことをして生きていきたいのよ!」

「ああ……。ルトは、まだ自分を『悪』だと偽ることで、周囲が浮かれすぎるのを戒めているんだね。……なんて、なんて謙虚なんだ!」

アラリック様が、私の両手を握って感動に震えている。

「大丈夫だよ、ルト。君がどれだけ謙虚に振る舞おうとしても、僕たちの愛は止まらない。パーティーの準備は、すでにルルトン騎士団が総力を挙げて進めているからね!」

「……騎士団をそんなことに使わないで」

「ルト様! 会場では、ルト様の『悪役令嬢(という名の聖女)名場面集』を劇団ルルトン座が上演する予定です! 楽しみにしていてくださいね!」

「……脚本は私が燃やすわ。今すぐ、灰にしてやるわ!」

マリアさんは、私の「灰にしてやる」という言葉を、「情熱的な演出の提案」だと受け取ったのか、嬉しそうに書きなぐっている。

「(……もうダメだ。このパーティー、絶対に阻止しなきゃ。……そうだわ!)」

私は一つの名案を思いついた。
パーティー当日、私が「史上最低に無礼な服装」で出席すればいいのよ!
そう、お葬式のような真っ黒な服で、お祝いの席をぶち壊してやるんだから!

「……フフフ。見てなさい、アラリック様。パーティー当日、あなたの隣に立つのは、お祝いの空気を台無しにする『死神のような女』よ!」

「ルト……。君が何を企んでいるかはわからないけれど、その楽しそうな顔を見られただけで、僕は幸せだよ」

アラリック様の眩しすぎる笑顔に、私は一瞬視力を失いそうになった。

私の「パーティー阻止作戦」は、私自身の「喪服出席」という新たな不敬計画へとシフトした。
しかし、この時の私はまだ知らなかった。
私の「最悪の服装」が、またしても王国の流行を塗り替えることになるとは。

自由への道は、祝祭の太鼓の音にかき消され、さらに遠ざかっていくのだった。
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