婚約破棄を申し込むも、殿下の説得がガチすぎて詰む?

ちゅんりー

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「殿下。今日という今日は、逃がしませんわよ。このお茶会が、私たちの婚約の終着駅となりますわ!」

リペは、バラが咲き誇る東屋で、カイル殿下と対峙していた。

目の前には、彼女が昨晩寝ずに書き上げた『リペ・ブランシュがいかに悪女であるか、及び婚約破棄すべき百の理由』という分厚い書類が置かれている。

これだけ証拠を揃えれば、理知的な殿下のこと、認めざるを得ないはずだ。

「リペ、そんなに怖い顔をしないで。せっかくの最高級のダージリンが、君の熱気で沸騰してしまいそうだ」

「お黙りなさい! さあ、これを見るのです! 第一の理由! 私は極めて傲慢であり、常に他人を見下しております!」

リペは書類の1ページ目を、バン! と机に叩きつけた。

カイルはそれを手に取り、ふむ、と優雅に顎をさすった。

「……なるほど。確かに君は、常に高い視点を持っているね」

「そうでしょう! 傲慢でしょう!」

「いや、これは『王妃としての高潔なプライド』だ。リペ、君は自分が特別であることを自覚している。それは身分の低い者たちに、正しく規範を示すために必要な資質だよ。君の凛とした立ち居振る舞いは、民衆に安心感を与える。合格だ」

「……っ。では、第二の理由! 私は極めてわがままです! 殿下の予定も聞かず、こうして無理やりお茶会を開かせましたわ!」

「何を言うんだい。君が僕に会いたいと言ってくれた。それ以上の喜びがこの世にあるかな? 君が僕の時間を支配したいと望むのは、僕を独占したいという愛の裏返しだろう。束縛は大歓迎だよ、リペ」

カイルは微笑みながら、リペの書いた「わがまま」という文字を、愛おしそうになぞった。

リペの背中に冷たい汗が流れる。

おかしい。論理が通用しない。

「第三の理由! 私は……私は、浪費家ですわ! この前も、使い道のない金の置物を三つも買いましたのよ!」

「ああ、あの可愛らしい猫の置物かい? あれは国営の工房で作られたものだね。君が買うことで、職人たちの生活が潤い、国の経済が回る。君は慈悲深いパトロンだ。実に素晴らしいよ」

「では、第四の理由! 私は殿下のことが、これっぽっちも好きではありませんわ! 愛のない結婚なんて、殿下にとっても不幸ですわよ!」

リペは、ついに最大のカードを切った。

女性に「好きではない」と言われて、ショックを受けない男はいないはずだ。

カイルは一瞬、動きを止めた。

(やったわ……! ついに効いた……!)

リペが勝利を確信した次の瞬間、カイルは深く、深く感動したように顔を覆った。

「……リペ。君は、どこまで僕を試すんだい?」

「……はい?」

「『好きではない』なんて……。そんな残酷な嘘をついてまで、僕の愛の本気度を確かめようとするなんて。君は、僕がその程度の言葉で諦めるような男だと思っているのかい?」

カイルの瞳に、ガチな熱が宿る。

「僕はね、リペ。君のその『ツン』とした態度の裏側に隠された、繊細な『デレ』を見逃さない。君が僕を拒絶しようとするたびに、僕の心には新しい火が灯るんだ。『ああ、彼女はまだ僕に、もっと愛してほしいと強がっているんだな』ってね」

「全っっっ然違いますわよ! 本気で、1ミリも、これっぽっちも!」

「いいんだ、リペ。言葉は時に真実を隠す。だが、君のその真っ赤になった耳たぶは嘘をつけないよ」

「これは怒りで赤くなっているんですのよーっ!」

リペの絶叫も虚しく、カイルの説得(という名のノロケ)はそこから三時間に及んだ。

彼がいかにリペを愛しているか。
リペがいかに王妃にふさわしいか。
そして、今この瞬間も、二人の魂がいかに共鳴し合っているか。

「……というわけで、リペ。君の用意したこの百の理由は、すべて僕への『愛の挑戦状』として受理したよ。明日もまた、君の新しい愛の形を見せてくれるかな?」

夕暮れ時、疲れ果てて魂が口から出かかっているリペに対し、カイルは爽やかな笑顔で書類を返した。

リペは、もはや反論する気力も残っていなかった。

「……セバス、帰りますわよ……」

「お疲れ様です、お嬢様。説得されるはずが、逆に三時間も愛の言葉を浴びせられるとは……。お嬢様も、ある意味、殿下の体力を奪うという点では悪女かもしれませんね」

「セバスのいじわる……。もう、甘いものは当分見たくありませんわ……」

リペはフラフラと馬車に乗り込んだ。

一方、カイルは彼女が去った後も、リペが叩きつけた書類を大切そうに胸に抱いていた。

「リペ……。君が僕のために、これほど文字を書いてくれるなんて。今夜はこれを枕の下に敷いて寝るとしよう」

殿下のポジティブ脳は、今日も絶好調であった。
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