婚約破棄を申し込むも、殿下の説得がガチすぎて詰む?

ちゅんりー

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「おーっほっほっほ! 見ていなさいセバス! ついに手に入れましたわ、禁断の秘薬『超強力・目覚まし睡魔粉末』を!」

王妃となったリペは、朝の光が差し込む寝室で、小さな小瓶を掲げて勝ち誇った。

「……お嬢様。いえ、リペ王妃様。それはただの『最高級の安眠ハーブ粉末』に見えますが。あと、小瓶のラベルに『陛下のために』と可愛い文字で書いてありますね」

「うるさいですわ! これを陛下の寝室に撒いて、陛下を朝の公務に遅刻させるのです! 王を怠惰に導く、これぞ歴史に名を残す悪妻の第一歩ですわ!」

リペは鼻息荒く、隣にあるカイル陛下の寝室へと忍び込んだ。

しかし、扉を開けた瞬間。

「おはよう、リペ。君の方から僕の寝室に夜這いに……おっと、朝這いに来てくれるなんて。今日は建国記念日以上の祝祭だね」

すでに着替えを終え、瑞々しい朝露のようなオーラを纏ったカイルが、満面の笑みで待ち構えていた。

「な、なぜ起きているのですの!? この秘薬で、お昼過ぎまでスヤスヤと眠りこけるはずでしたのに!」

「秘薬? ああ、枕元に置いてあったあの香りの良い粉末かい? リペの愛が詰まった安眠の守りだと思って、一晩中幸せに抱きしめて寝ていたよ。おかげでかつてないほど目覚めが爽やかだ。さあ、リペ。お礼に僕の腕の中で二度寝を楽しもうじゃないか」

カイルはリペを軽々と抱き上げると、そのままふかふかのベッドへダイブした。

「ひゃうんっ!? 離しなさいな! 私は貴方をダメな人間にするために来たんですのよ!」

「ダメな人間? ああ、そうだね。僕はリペがいないと、ネクタイ一本まともに結べない無能な王だよ。ほら、君の手で結び直してくれないか。そうすれば僕は、君に支配される一人の男として、今日も国を完璧に統治してみせるよ」

カイルはリペの首筋に顔を寄せ、うっとりと目を細めた。

「支配……? そうですわ! 私が貴方を操り、裏からこの国を牛耳る『影の女帝』になるのですわよ!」

「素晴らしいね。君が影なら、僕は君を照らす光になろう。君のわがままという名の『神託』を実行するために、僕は王冠を被っているんだから」

リペは、カイルの胸板をポカポカと叩きながらも、その心地よい体温に抗えず、次第に力が抜けていった。

(……なんで。私が悪いことをしようとするたびに、この人は『究極の愛』で返してくるんですの……)

そこへ、部屋の隅からセバスが静かにティーワゴンを押して現れた。

「失礼します。二度寝用のハーブティーと、お嬢様が昨夜こっそり焼いた『毒入り(という名の隠し味たっぷり)』スコーンをお持ちしました」

「あーっ! セバス! それを今出すのは反則ですわ!」

「いいじゃないか、リペ。君の焼いた毒なら、僕は喜んで飲み干そう。……ああ、美味しい。この毒(愛)が全身に回って、もうリペなしでは一秒も生きていられそうにない」

カイルはスコーンを頬張りながら、リペをシーツごと包み込み、そのまま再び眠りにつこうとした。

「……セバス。私、王妃になっても全然悪くなれませんわ」

「お嬢様。陛下という世界一の『全肯定モンスター』を相手にしている以上、お嬢様の悪は一生、甘いお菓子に変換される運命ですよ。……おや、窓の外を見てください。マリアンヌ様がまた木に登って、お二人の幸せそうな姿をスケッチしていますよ」

「……あの方も、国外追放(バカンス)から帰ってきたばかりなのに、元気すぎますわ……」

リペは、カイルの腕の中でふてくされたように目を閉じた。

悪役令嬢としての野望はついえたが、世界で一番甘やかされる「悪妻」としての朝は、これからもどこまでも続いていく。

「……カイル様」

「なあに、リペ」

「明日は……絶対に、朝食を抜きにさせますからね!」

「ふふ、それなら二人で秘密のピクニックに行こうという誘いだね。……ああ、本当に君は、僕を喜ばせる天才だよ」

「もう、勝手になさいましーーーっ!!」

王宮に響くリペの叫び声は、今日もまた、平和な一日の始まりを告げる合図となった。
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