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「夜会に向けた特訓は完璧(本人比)。あとは『装備』の問題ね」
私はクローゼットの前で腕を組んでいた。
中には、先日殿下から頂いたミッドナイトブルーのドレスが鎮座している。
星空のように美しく、威厳に満ちたあのドレス。
しかし、私は首を横に振った。
「あれはダメよ。あれを着ると、どうしても『農村を救った女神』とか『魔馬を従える女帝』のイメージがついて回るわ」
「よろしいではありませんか。英雄の凱旋のようで」
セバスが他人事のように言う。
「ダメと言ったらダメ! 今回のテーマは『無害なモブ』よ! 壁の花としてひっそりと咲き、誰の目にも留まらずにやり過ごす。それが私の生存戦略なの」
私は力説した。
夜会は、リリナ嬢が「勝負」を仕掛けてくると予告した場所だ。
そこで私が強そうなドレスを着ていたら、「やる気満々じゃないか」と誤解され、全面戦争になってしまう。
必要なのは、敵意がないことを示す服装。
具体的には、淡いベージュや、パステルカラーのピンクなど、可愛らしくて地味なドレスだ。
「というわけで、セバス。街のドレスショップに行くわよ。今度こそ、私が望む『地味で可愛いドレス』を手に入れるの!」
「承知いたしました。……店員が気絶しないことを祈ります」
◇
王都でも屈指の高級ドレス店『ローズ・マリー』。
ここは貴族の令嬢御用達の店で、流行の最先端を取り入れたドレスが揃っている。
カランコロン♪
「いらっしゃいませー……ヒッ!?」
店に入った瞬間、出迎えた女性店員の笑顔が凍りついた。
無理もない。
今日の私は「お忍び」ではなく、公爵令嬢として堂々と入店したのだ。
背筋を伸ばし、特訓で身につけた「隙のない歩き方(暗殺歩法)」で音もなく近づき、近眼の目で店内を鋭くスキャンする。
その姿は、ドレスを選びに来た客というより、密輸品の摘発に来た捜査官のようだった。
「……ごきげんよう」
私は努めて優しく声をかけた(つもりだが、緊張で声が低くなった)。
「よ、よくいらっしゃいました、ミディア様……! ほ、本日はどのようなご用件で……? みかじめ料の集金でしたら、先月分はすでに……」
「違います。ドレスを作りに来たの」
「ド、ドレス……でございますか?」
店員は驚いたように目をパチクリさせた。
「ミディア様が……ドレスを? 甲冑ではなく?」
「誰が甲冑で夜会に行くのよ」
私はため息をつきつつ、要望を伝えた。
「今度の夜会に着ていくドレスが欲しいの。テーマは『目立たないこと』。そして『平和的であること』よ」
「目立たない……平和的……」
店員は震える手でメモを取る。
しかし、私の目つきと威圧感のせいで、彼女の脳内変換機能が暴走を始めた。
『目立たない』→『闇に紛れる(隠密行動用)』
『平和的』→『敵を速やかに排除し、永遠の静寂(平和)をもたらす』
「か、かしこまりました……! ミディア様の『お仕事』にふさわしい、最高の一着をご用意いたします!」
「ええ、頼むわね(通じたみたいでよかった)」
私は安堵して、店内のサンプルを見て回ることにした。
◇
店内には色とりどりのドレスが並んでいる。
「あら、これなんて素敵じゃない?」
私が足を止めたのは、淡いベビーピンクのフリルがついた、可愛らしいドレスの前だった。
リリナ嬢が着ていそうな、典型的なヒロインカラーだ。
「(これを私が着れば、少しは可愛らしく見えるかも……)」
私はドレスに顔を近づけた。
生地の質感を確かめようと、目を細め、眉間にシワを寄せ、じっと凝視する。
「……」
その姿を見た店員たちが、バックヤードで悲鳴を上げた。
「ひいい! ミディア様がピンクのドレスにガンを飛ばしてる!」
「『こんなふざけた色は燃やしてやる』って顔よ!」
「やっぱりリリナ様と同じ色は許せないのね……! 『同族嫌悪』ならぬ『捕食者の拒絶』だわ!」
私はそんな誤解など知らず、真剣に悩んでいた。
「(うーん、でもこのフリル、ちょっと子供っぽいかしら? 私の体格だと、無理して若作りしてる痛いおばさんに見えない?)」
私は首をかしげ、小さく「チッ(悩み)」と舌打ちをした。
「ヒッ!!」
店員たちが抱き合って震える。
「舌打ちした! やっぱりお気に召さないんだわ!」
「ピンクはNGよ! パステルカラーは全部地雷よ!」
「急いで! あの方の『本性』に合う色を持ってきて!」
バックヤードは大混乱に陥った。
私が「ベージュもいいわね」と地味な色を見ようとすると、店員が飛んできた。
「ミディア様! そ、そのような『死んだような色』は、おやめください!」
「え? 死んだような色?」
「はい! ミディア様の溢れ出るオーラを消してしまいます! もっとこう、あなた様の内なる『闇』……いえ、『高貴さ』を表現する色でないと!」
「はあ……」
店員たちの熱意に押され、私は試着室へと案内された。
「とっておきをご用意しました。こちらです!」
カーテンが開けられる。
そこに鎮座していたのは。
「……」
私は絶句した。
それは、窓の外の闇夜よりも深く、吸い込まれそうな「漆黒」のドレスだった。
最高級のベルベット生地。
光を一切反射しない黒。
アクセントとして、胸元と裾には「鮮血」のような深紅のバラの刺繍が施されている。
そして背中には、コウモリの翼を模したような、鋭角的なレースの装飾。
「……これ、喪服?」
私は尋ねた。
「いいえ! 『女王の断罪服(ジャッジメント・ブラック)』でございます!」
店員が目を輝かせて言った。
「この漆黒は、何者にも染まらない孤高の強さを! そして真紅のバラは、散りゆく敵の命の煌めきを表現しております!」
「表現しなくていいわよそんなもの!」
「ミディア様の『処刑台』という二つ名に、これほどふさわしいドレスはありません!」
「褒めてないわよね!?」
私は拒否しようとした。
「あのね、私はもっとこう、フワッとした、優しい感じがいいの。ベージュとか、薄い水色とか……」
「ミディア様」
店長らしき年配の女性が進み出た。
彼女は真剣な眼差し(というより恐怖に引きつった目)で私に訴えた。
「ご自身の『格』を理解してください。ライオンがウサギの皮を被っても、耳がはみ出すだけです」
「私はライオンですか?」
「はい。……あ、いえ! 気高い獅子です! 中途半端に可愛らしい服を着て、周囲に『無理してる』と笑われるより、圧倒的な『美』と『恐怖』でねじ伏せる方が、結果として平和(誰も逆らえない状態)が訪れるのではありませんか?」
「……」
妙に説得力がある。
確かに、私がピンクのフリフリを着たら、それはそれで「ホラー」かもしれない。
「わ、分かったわ。一度着てみるだけ、着てみるわ」
「ありがとうございます! さあ、着付けを!」
◇
数十分後。
試着室のカーテンが、厳かに開かれた。
「……どうかしら」
私はおずおずと姿を現した。
漆黒のドレスは、私の白い肌とのコントラストで、恐ろしいほどに映えていた。
体のラインに吸い付くようなシルエット。
首元まで詰まった黒いレースが、禁欲的でありながら、逆に妖艶さを醸し出している。
そして何より、私のプラチナブロンドの髪と、鋭い青い瞳が、この黒いドレスと合わさることで、「魔王軍の女将軍」あるいは「国を傾ける悪の王妃」として完成してしまっていた。
「……」
店内が静まり返る。
店員たちが、ポカンと口を開けて私を見上げている。
(やっぱり似合わないんだわ……。怖いんだわ……)
私は涙目になり、俯いた。
「ごめんなさい……着替えるわ……」
私がカーテンを閉めようとした瞬間。
「素晴らしいいいいいッ!!」
店長が絶叫した。
「これです! これこそが私たちが求めていた『最強の悪役令嬢』の姿です!」
「えっ?」
「美しい! 恐ろしい! ひれ伏したい! 踏まれたい!」
店員たちが次々と膝をつき、祈りを捧げ始めた。
「魔女様万歳!」
「このドレスなら、夜会の主役間違いなしです! リリナ様など、視界に入った瞬間に灰になるでしょう!」
「灰にはならないわよ!」
私は混乱した。
鏡を見る。
そこに映っているのは、間違いなく「ラスボス」だ。
このまま玉座に座って「勇者よ、よくぞ来た」と言っても違和感がない。
「セバス、どう思う?」
私は最後の砦である執事に助けを求めた。
セバスは、片眼鏡の位置を直し、深く頷いた。
「お似合いです、お嬢様。これなら、何が起きても『ドレス負け』することはありません」
「そういう問題?」
「ええ。もしリリナ嬢が何か仕掛けてきても、このドレスの迫力があれば、すべてが『女王の戯れ』として処理されるでしょう」
「……」
「それに、地味なドレスを着て『モブ』になろうとするのは、諦めが肝心かと。お嬢様はどこにいても輝いて(目立って)しまわれますから」
セバスの言葉は、褒め言葉のようでいて、私の逃げ道を完全に塞ぐものだった。
「……分かったわ」
私は観念した。
「これを買うわ。……おいくら?」
「お代は結構です!!」
店長が叫んだ。
「えっ? タダ?」
「はい! ミディア様に着ていただけることが、我が店にとって最高の宣伝(魔除け)になります! その代わり、どうか店を破壊せずに帰ってください!」
「破壊しないってば!」
結局、私は定価の倍額を(無理やり)置いて店を出た。
手元には、漆黒のドレスが入った大きな箱。
「はあ……」
帰りの馬車で、私は深くため息をついた。
「結局、また『強そうな服』になっちゃった」
「良いではありませんか」
セバスが慰める。
「『平和』を望むなら、圧倒的な『武力』を持つのが一番の近道です」
「それ、独裁者の論理よ」
私は箱を撫でた。
まあ、生地はいいし、着心地も悪くなかった。
何より、あのドレスを着た時、不思議と背筋が伸びる気がしたのだ。
「……そうね。リリナ様との勝負。逃げ隠れせずに、堂々と受けて立つには、これくらいの戦闘服が必要なのかもしれないわ」
私は覚悟を決めた。
「見てなさい。この『漆黒のドレス』で、夜会を……いえ、私の運命を切り開いてみせるわ!」
私の瞳に、闘志の炎が宿る。
その顔は、もはや「断罪を恐れる令嬢」ではなく、「敵陣に乗り込む指揮官」のそれだった。
こうして、装備は整った。
マナー特訓も(一応)済んだ。
あとは、本番を迎えるのみ。
運命の夜会まで、あと一日。
私はクローゼットの前で腕を組んでいた。
中には、先日殿下から頂いたミッドナイトブルーのドレスが鎮座している。
星空のように美しく、威厳に満ちたあのドレス。
しかし、私は首を横に振った。
「あれはダメよ。あれを着ると、どうしても『農村を救った女神』とか『魔馬を従える女帝』のイメージがついて回るわ」
「よろしいではありませんか。英雄の凱旋のようで」
セバスが他人事のように言う。
「ダメと言ったらダメ! 今回のテーマは『無害なモブ』よ! 壁の花としてひっそりと咲き、誰の目にも留まらずにやり過ごす。それが私の生存戦略なの」
私は力説した。
夜会は、リリナ嬢が「勝負」を仕掛けてくると予告した場所だ。
そこで私が強そうなドレスを着ていたら、「やる気満々じゃないか」と誤解され、全面戦争になってしまう。
必要なのは、敵意がないことを示す服装。
具体的には、淡いベージュや、パステルカラーのピンクなど、可愛らしくて地味なドレスだ。
「というわけで、セバス。街のドレスショップに行くわよ。今度こそ、私が望む『地味で可愛いドレス』を手に入れるの!」
「承知いたしました。……店員が気絶しないことを祈ります」
◇
王都でも屈指の高級ドレス店『ローズ・マリー』。
ここは貴族の令嬢御用達の店で、流行の最先端を取り入れたドレスが揃っている。
カランコロン♪
「いらっしゃいませー……ヒッ!?」
店に入った瞬間、出迎えた女性店員の笑顔が凍りついた。
無理もない。
今日の私は「お忍び」ではなく、公爵令嬢として堂々と入店したのだ。
背筋を伸ばし、特訓で身につけた「隙のない歩き方(暗殺歩法)」で音もなく近づき、近眼の目で店内を鋭くスキャンする。
その姿は、ドレスを選びに来た客というより、密輸品の摘発に来た捜査官のようだった。
「……ごきげんよう」
私は努めて優しく声をかけた(つもりだが、緊張で声が低くなった)。
「よ、よくいらっしゃいました、ミディア様……! ほ、本日はどのようなご用件で……? みかじめ料の集金でしたら、先月分はすでに……」
「違います。ドレスを作りに来たの」
「ド、ドレス……でございますか?」
店員は驚いたように目をパチクリさせた。
「ミディア様が……ドレスを? 甲冑ではなく?」
「誰が甲冑で夜会に行くのよ」
私はため息をつきつつ、要望を伝えた。
「今度の夜会に着ていくドレスが欲しいの。テーマは『目立たないこと』。そして『平和的であること』よ」
「目立たない……平和的……」
店員は震える手でメモを取る。
しかし、私の目つきと威圧感のせいで、彼女の脳内変換機能が暴走を始めた。
『目立たない』→『闇に紛れる(隠密行動用)』
『平和的』→『敵を速やかに排除し、永遠の静寂(平和)をもたらす』
「か、かしこまりました……! ミディア様の『お仕事』にふさわしい、最高の一着をご用意いたします!」
「ええ、頼むわね(通じたみたいでよかった)」
私は安堵して、店内のサンプルを見て回ることにした。
◇
店内には色とりどりのドレスが並んでいる。
「あら、これなんて素敵じゃない?」
私が足を止めたのは、淡いベビーピンクのフリルがついた、可愛らしいドレスの前だった。
リリナ嬢が着ていそうな、典型的なヒロインカラーだ。
「(これを私が着れば、少しは可愛らしく見えるかも……)」
私はドレスに顔を近づけた。
生地の質感を確かめようと、目を細め、眉間にシワを寄せ、じっと凝視する。
「……」
その姿を見た店員たちが、バックヤードで悲鳴を上げた。
「ひいい! ミディア様がピンクのドレスにガンを飛ばしてる!」
「『こんなふざけた色は燃やしてやる』って顔よ!」
「やっぱりリリナ様と同じ色は許せないのね……! 『同族嫌悪』ならぬ『捕食者の拒絶』だわ!」
私はそんな誤解など知らず、真剣に悩んでいた。
「(うーん、でもこのフリル、ちょっと子供っぽいかしら? 私の体格だと、無理して若作りしてる痛いおばさんに見えない?)」
私は首をかしげ、小さく「チッ(悩み)」と舌打ちをした。
「ヒッ!!」
店員たちが抱き合って震える。
「舌打ちした! やっぱりお気に召さないんだわ!」
「ピンクはNGよ! パステルカラーは全部地雷よ!」
「急いで! あの方の『本性』に合う色を持ってきて!」
バックヤードは大混乱に陥った。
私が「ベージュもいいわね」と地味な色を見ようとすると、店員が飛んできた。
「ミディア様! そ、そのような『死んだような色』は、おやめください!」
「え? 死んだような色?」
「はい! ミディア様の溢れ出るオーラを消してしまいます! もっとこう、あなた様の内なる『闇』……いえ、『高貴さ』を表現する色でないと!」
「はあ……」
店員たちの熱意に押され、私は試着室へと案内された。
「とっておきをご用意しました。こちらです!」
カーテンが開けられる。
そこに鎮座していたのは。
「……」
私は絶句した。
それは、窓の外の闇夜よりも深く、吸い込まれそうな「漆黒」のドレスだった。
最高級のベルベット生地。
光を一切反射しない黒。
アクセントとして、胸元と裾には「鮮血」のような深紅のバラの刺繍が施されている。
そして背中には、コウモリの翼を模したような、鋭角的なレースの装飾。
「……これ、喪服?」
私は尋ねた。
「いいえ! 『女王の断罪服(ジャッジメント・ブラック)』でございます!」
店員が目を輝かせて言った。
「この漆黒は、何者にも染まらない孤高の強さを! そして真紅のバラは、散りゆく敵の命の煌めきを表現しております!」
「表現しなくていいわよそんなもの!」
「ミディア様の『処刑台』という二つ名に、これほどふさわしいドレスはありません!」
「褒めてないわよね!?」
私は拒否しようとした。
「あのね、私はもっとこう、フワッとした、優しい感じがいいの。ベージュとか、薄い水色とか……」
「ミディア様」
店長らしき年配の女性が進み出た。
彼女は真剣な眼差し(というより恐怖に引きつった目)で私に訴えた。
「ご自身の『格』を理解してください。ライオンがウサギの皮を被っても、耳がはみ出すだけです」
「私はライオンですか?」
「はい。……あ、いえ! 気高い獅子です! 中途半端に可愛らしい服を着て、周囲に『無理してる』と笑われるより、圧倒的な『美』と『恐怖』でねじ伏せる方が、結果として平和(誰も逆らえない状態)が訪れるのではありませんか?」
「……」
妙に説得力がある。
確かに、私がピンクのフリフリを着たら、それはそれで「ホラー」かもしれない。
「わ、分かったわ。一度着てみるだけ、着てみるわ」
「ありがとうございます! さあ、着付けを!」
◇
数十分後。
試着室のカーテンが、厳かに開かれた。
「……どうかしら」
私はおずおずと姿を現した。
漆黒のドレスは、私の白い肌とのコントラストで、恐ろしいほどに映えていた。
体のラインに吸い付くようなシルエット。
首元まで詰まった黒いレースが、禁欲的でありながら、逆に妖艶さを醸し出している。
そして何より、私のプラチナブロンドの髪と、鋭い青い瞳が、この黒いドレスと合わさることで、「魔王軍の女将軍」あるいは「国を傾ける悪の王妃」として完成してしまっていた。
「……」
店内が静まり返る。
店員たちが、ポカンと口を開けて私を見上げている。
(やっぱり似合わないんだわ……。怖いんだわ……)
私は涙目になり、俯いた。
「ごめんなさい……着替えるわ……」
私がカーテンを閉めようとした瞬間。
「素晴らしいいいいいッ!!」
店長が絶叫した。
「これです! これこそが私たちが求めていた『最強の悪役令嬢』の姿です!」
「えっ?」
「美しい! 恐ろしい! ひれ伏したい! 踏まれたい!」
店員たちが次々と膝をつき、祈りを捧げ始めた。
「魔女様万歳!」
「このドレスなら、夜会の主役間違いなしです! リリナ様など、視界に入った瞬間に灰になるでしょう!」
「灰にはならないわよ!」
私は混乱した。
鏡を見る。
そこに映っているのは、間違いなく「ラスボス」だ。
このまま玉座に座って「勇者よ、よくぞ来た」と言っても違和感がない。
「セバス、どう思う?」
私は最後の砦である執事に助けを求めた。
セバスは、片眼鏡の位置を直し、深く頷いた。
「お似合いです、お嬢様。これなら、何が起きても『ドレス負け』することはありません」
「そういう問題?」
「ええ。もしリリナ嬢が何か仕掛けてきても、このドレスの迫力があれば、すべてが『女王の戯れ』として処理されるでしょう」
「……」
「それに、地味なドレスを着て『モブ』になろうとするのは、諦めが肝心かと。お嬢様はどこにいても輝いて(目立って)しまわれますから」
セバスの言葉は、褒め言葉のようでいて、私の逃げ道を完全に塞ぐものだった。
「……分かったわ」
私は観念した。
「これを買うわ。……おいくら?」
「お代は結構です!!」
店長が叫んだ。
「えっ? タダ?」
「はい! ミディア様に着ていただけることが、我が店にとって最高の宣伝(魔除け)になります! その代わり、どうか店を破壊せずに帰ってください!」
「破壊しないってば!」
結局、私は定価の倍額を(無理やり)置いて店を出た。
手元には、漆黒のドレスが入った大きな箱。
「はあ……」
帰りの馬車で、私は深くため息をついた。
「結局、また『強そうな服』になっちゃった」
「良いではありませんか」
セバスが慰める。
「『平和』を望むなら、圧倒的な『武力』を持つのが一番の近道です」
「それ、独裁者の論理よ」
私は箱を撫でた。
まあ、生地はいいし、着心地も悪くなかった。
何より、あのドレスを着た時、不思議と背筋が伸びる気がしたのだ。
「……そうね。リリナ様との勝負。逃げ隠れせずに、堂々と受けて立つには、これくらいの戦闘服が必要なのかもしれないわ」
私は覚悟を決めた。
「見てなさい。この『漆黒のドレス』で、夜会を……いえ、私の運命を切り開いてみせるわ!」
私の瞳に、闘志の炎が宿る。
その顔は、もはや「断罪を恐れる令嬢」ではなく、「敵陣に乗り込む指揮官」のそれだった。
こうして、装備は整った。
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