魔力ゼロの-人形使い(ドールマスター) -最強ドールと契約してダンジョンを攻略します-

仁科異邦

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探索者協会にて

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探索者協会の本部は、駅前の大きなビルに入っていた。
一階がロビーと受付。
二階以上が各種手続きと管理部門。
平日の昼間でも人の出入りが多い。

探索者志望の学生、現役の探索者、ダンジョン関連の業者。
いろんな人間が混在している場所だ。

「……広いですね」
「都市の中核施設だから」
「源之助様の時代にも、似たような場所がありました」
「どんな場所」

「武士が集まる詰所のようなところです。もっと殺伐としていましたが」
「現代はだいぶ穏やかになったと思う」
桜花がロビーを見渡した。

「……そうですね。皆、表情が柔らかい」
「平和だから」
「平和」
桜花が小さく繰り返した。
何か思うところがあるような顔をしたが、俺は聞かなかった。



受付に向かった。
カウンターには若い女性の職員が座っていた。
「ご用件はなんでしょう」
「探索者登録をしたいんですが」
「はい、では契約者の方はそちらの端末で——」
職員の目が、桜花に止まった。
一瞬だった。

でも確かに止まった。
「……ドールの型式を確認させていただけますか」
「旧世代戦闘特化型です」
職員の手が止まった。

「……もう一度よろしいですか」
「旧世代戦闘特化型。記録上の型式は不明です」
職員がしばらく画面を見た。
それから立ち上がった。

「少々お待ちください」
奥に消えた。
上野が小声で言った。
「なんか呼びに行ったぞ」
「だろうな」



戻ってきた職員の後ろに、年配の男がいた。
胸に「第二管理部長」のバッジをつけている。
男が桜花を見た。
目が細くなった。

「……旧世代型、本物か」
「はい」
「型式は?」

「記録にはありません」
「契約者は?」

「石浜秀馬です」
男が俺を見た。
「石浜……石浜家の人間か」
「そうです」
男がまた桜花をじっと見た。

「……少し待て」
また奥に消えた。
今度は二人連れて戻ってきた。
片方は協会の制服を着た中年の女性。
もう片方は、私服の老人だった。

老人は桜花を見た瞬間、足が止まった。
「……本当に、現存していたか」
老人の声が、少し震えていた。

「ご存知ですか」
桜花が聞いた。
「知識としては知っている。旧世代型は大厄災後の混乱期に大半が封印されたと記録にある。現存するものは……ないはずだった」
「私は眠っていました」
「どこで」
「石浜家の、地下室に」
老人がゆっくり息を吐いた。

「……200年」
「はい」
「一人で?」
「はい」
老人がしばらく黙っていた。
それから俺を見た。

「それを君が見つけたのか」
「納屋の掃除中に偶然」

「偶然‥」
「偶然です」
老人が苦笑いした。

「石浜家の血筋でなければ、地下室自体入れなかったはずだ。偶然とは言えんかもしれんな」



ロビーがざわつき始めていた。
俺たちを中心に、人が集まってきていた。
探索者らしい体格の男たちが、桜花を遠巻きに見ていた。

「旧世代型って……あの資料に載ってる?」
「載ってるわけないだろ、現存ゼロって話だぞ」
「出力どのくらい出るんだ」
「聞いたことある。戦闘特化型は速度と火力が桁違いらしい」
「らしいじゃなくて実際どうなんだよ」
桜花がそちらを一瞥した。

探索者たちが黙った。
目が合っただけで黙った。
俺は小声で桜花に言った。
「睨むなよ」
「睨んでいません」
「いつもの顔だとしても迫力があるんだよ」
桜花が少し考えた。

「……努力します」
努力で変わるものなのかは分からなかった。



手続きが再開した。
通常の端末では型式が登録できなかった。
担当者が別のシステムを引っ張り出してきた。
「旧世代型の登録は……十年ぶりです」
「他にもいるんですか」
「一体だけ、別の地方に。でも活動はしていない」
「そうですか」
「海外にも居ると思いますよ‥さて、あなたは活動する予定ですか?」

桜花が俺を見た。
俺が答えた。
「します」
担当者が頷いた。

「では出力測定が必要になります。現行の基準表に型式がないため、特例扱いになりますが」
「構いません」
「測定室に案内します」



測定室は地下だった。
広い空間に、各種センサーが設置されている。
担当の技術者が三人いた。

全員、桜花を見る目が普通じゃなかった。
研究者が珍しいものを見るような目。
桜花は気にした様子もなかった。

「測定方法を説明します。あちらのターゲットに向けて、最大出力で一撃を——」
「分かりました」
桜花がターゲットの前に立った。

刀を構え静止する。
技術者が計器を確認した。

「では、いつでも——」
音がした。
技術者が計器を見て固まった。

「……すいません、お願いできますか」
「終わりましたが」

「あ、えっと……測定が追いつかなかったので」
桜花が頷いた。

もう一度構える。
今度は技術者が計器を凝視していた。
音がした。

また固まった。
三人が顔を見合わせた。
「……数値、合ってますか」
「合ってます」

「機器の誤作動では‥?」
「確認しましたが正常です」
一人が俺に振り返った。

「契約者の方」
「なんですか?」
「この数値が正しければ——」
男が少し言い淀んだ。

「現行のSランクドール相当の出力が出ています」
ロビーで遠巻きにしていた探索者たちが、ドアの隙間から覗いていた。
さっきより人数が増えていた。



登録証が発行された。
ランクはF。
初期値だ。
備考欄には「型式特記あり・出力測定値は別途管理台帳参照」と書かれていた。
Fランクの登録証に、Sランクの但し書きがついている。
「なんか釣り合わないな」

「ランクは実績で上がるものですから」
「まあそうだけど」
桜花が登録証を受け取った。
じっと見た。

「……初めて、正式な記録に残りました」
「そうか」
「源之助様の時代には、私の存在は記録されませんでした。戦争特化型は、表に出すものではなかったので」
登録証をしまった。

「少し、変な感じがします」
「良い意味で?」
桜花が少し考えた。
「……そう思います」


ロビーに戻ると、人が増えていた。
明らかに俺たちを待っていた。
探索者の一人が声をかけてきた。
「あの、少しいいか」

「なんですか?」
「模擬戦、お願いできないか。Aランクの俺たちじゃ相手にならないかもしれないが——」
桜花が俺を見た。

「秀馬」
「断れ」
「承知しました」
探索者に向き直った。
「今日は予定があります。またの機会に」

探索者が「また来るんだな」と確認して引き下がった。
俺たちはそのままビルを出た。


外の空気を吸った。
「疲れた」
「人が多かったですね」
「お前のせいだけど」
「申し訳ありません」
「謝らなくていい。別にお前は何も悪くない」
桜花が少し黙った。

「……秀馬」
「なに」
「あの場で、私を売ることもできました」
「は?」
「国や協会に引き渡せば、それなりの対価が得られたはずです。旧世代型は希少でしょうから」

俺はしばらく何も言えなかった。
「……なんでそんなこと言う」
「可能性として、あり得たので」

「ないよそんな選択肢」
桜花が俺を見た。
「……なぜですか?」
「なぜって、お前は俺の相棒だろ」
桜花がまた黙った。
長い沈黙だった。

それから前を向いた。
「……そうですね」
声が、いつもより少し低かった。

「では、ダンジョンに行きましょう」
「唐突だな」
「早く実績を積んでFランクを脱出しないと、格好がつきません」
「それはそう」

俺たちは駅に向かって歩き出した。
桜花の歩幅が、昨日よりも少し広い気がした。
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