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玄弥、初めて霊力を使う
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放課後。
部活の掛け声も消えた訓練場の端。
夕焼けが地面を赤く染めていた。
玄弥は、ひとりで立っていた。
「……やるぞ」
誰に言うでもなく、そう呟く。
これまでは、
失敗する前提で手を伸ばしていた。
どうせ何も起きない、と。
だが今日は違う。
――使える。
葛葉の言葉が、胸の奥に残っている。
玄弥は静かに息を吸い、吐いた。
術式も、型も取らない。
ただ、力があると信じて、内側を探る。
すると。
胸の奥で、何かが脈打った。
「……っ」
熱でも、光でもない。
確かに“流れ”がある。
玄弥は、恐る恐る掌を前に出す。
意識を集中させる。
――出ろ。
次の瞬間。
掌の上に、淡い霊光が灯った。
小さく、揺れる光。
だが、紛れもない。
「……」
玄弥は、息をするのを忘れた。
消えない。
幻じゃない。
もう一度、意識を向ける。
光は、少しだけ強くなった。
「……使えてる」
声が、震えた。
「ちゃんと……使えるんだ」
今まで、何度も何度も。
何も起きない掌を見つめてきた。
嘲笑。
失望。
諦め。
それらが、一気に胸に押し寄せる。
玄弥は、膝をついた。
掌の光が消える。
「……くそ……」
奥歯を噛みしめても、止まらなかった。
「なんで……今まで……」
拳で地面を叩く。
痛みより、悔しさの方が勝った。
見下されてきた視線。
才能がないと言われた言葉。
何も言い返せなかった自分。
全部が、頭を巡る。
「……悔しい……」
声が掠れ、視界が滲む。
涙が、ぽろぽろと落ちた。
だがそれは、
弱さからの涙じゃない。
可能性を知ってしまった涙だった。
玄弥は、濡れた顔を乱暴に拭う。
「……遅すぎる」
それでも。
立ち上がる。
夕焼けの中、もう一度掌を開く。
今度は、迷わなかった。
淡い霊光が、確かに灯る。
それを見つめながら、玄弥は静かに誓った。
膝をついたまま、玄弥は顔を伏せていた。
涙は止まったはずなのに、胸の奥がまだ熱い。
「……みっともないな」
そう呟いたとき、
小さな足音が近づいた。
「みっともなくなどない」
葛葉の声だった。
気づけば、すぐ隣に立っている。
夕焼けに照らされて、白い髪が淡く光っていた。
「長い間、できぬものをできぬと言われ続けた」
「それでも折れずに、ここまで来たのじゃ」
葛葉は、玄弥の頭にそっと手を置く。
「おぬしは、できないのではない」
はっきりと、断言する。
「今まで、呪いによって抑え込まれておっただけじゃ」
玄弥は、ぎゅっと拳を握る。
「……じゃあ、あれは」
「当然の結果じゃ」
「九尾と契約し、道が開いた」
「それでも今まで使えなかったのは」
「おぬしが弱いからではない」
葛葉は、少しだけ声を落とす。
「それほど強い呪いを、背負わされておったということじゃ」
玄弥は、ゆっくり顔を上げた。
「……俺は」
「遅れておるだけじゃ」
葛葉は、くすりと笑う。
「だがのう」
「今さら止まる理由もない」
夕風が吹き、校庭の草が揺れた。
「今日、霊力が灯った」
「それは“始まり”じゃ」
葛葉は、玄弥の目をまっすぐ見る。
「焦らずともよい」
「だが、諦めるな」
「おぬしは、ちゃんと前に進んでおる」
玄弥は、深く息を吸った。
胸の奥に、さっきとは違う熱が灯る。
「……ありがとう」
「礼などいらぬ」
葛葉は、どこか誇らしげに言った。
「おぬしが立ち上がるなら」
「わしは、隣におるだけじゃ」
その言葉は、
夕焼けよりも温かかった。
夕焼けが、校庭の影を長く伸ばしていた。
霊力を使えたという事実が、まだ胸の奥でざわついている。
玄弥は、どう扱えばいいのか分からず、立ち尽くしていた。
「ふむ……」
葛葉が腕を組み、玄弥を上から下まで眺める。
「せっかくじゃ」
「今日は少し、霊力の使い方を教えてやろう」
玄弥は思わず顔を上げた。
「……いいのか?」
「当然じゃろ」
「宝の持ち腐れほど、見ていて腹立たしいものはないからのう」
口は悪いが、声はどこか柔らかい。
「まず勘違いしておる点がある」
葛葉は、指で玄弥の胸を軽く突いた。
「霊力は“出すもの”ではない」
「通すものじゃ」
「通す……?」
「そうじゃ」
葛葉は、地面にしゃがみ、指先で線を描く。
「水が流れる川を思い浮かべてみい」
「力とは、溜め込めば澱む」
「流せば、形を成す」
玄弥は、ゆっくり目を閉じた。
さっき感じた、あの脈動。
無理に引きずり出そうとせず、ただ流れを意識する。
「肩に力が入りすぎじゃ」
「もっと楽にせい」
葛葉の声が、近い。
「怖がるな」
「霊力は、おぬしの一部じゃ」
玄弥は、息を整える。
すると――
胸の奥の“流れ”が、さっきよりも自然に動き始めた。
「……っ」
掌に、淡い光が灯る。
先ほどよりも、安定している。
「ほう」
葛葉が目を細める。
「今の感覚を忘れるでない」
「それが“基礎”じゃ」
「これが……」
「そうじゃ」
「誰も教えなかった、当たり前の訓練じゃ」
葛葉は立ち上がり、背伸びをする。
「おぬしは、今まで独学以前の段階で躓かされておった」
「だが、もう違う」
玄弥は、光る掌を見つめる。
不安はある。
怖さもある。
それでも――
確かに、前に進んでいる感覚があった。
「明日からもやるぞ」
葛葉は、当然のように言った。
「わしがいる間は、逃げられんから覚悟せい」
玄弥は、苦笑しながら頷いた。
「……よろしく頼む」
「うむ」
葛葉は、少しだけ胸を張る。
「九尾の葛葉、直々の稽古じゃ」
「光栄に思うがよいぞ」
夕焼けの中。
こうして、玄弥の“本当の修行”が始まった。
部活の掛け声も消えた訓練場の端。
夕焼けが地面を赤く染めていた。
玄弥は、ひとりで立っていた。
「……やるぞ」
誰に言うでもなく、そう呟く。
これまでは、
失敗する前提で手を伸ばしていた。
どうせ何も起きない、と。
だが今日は違う。
――使える。
葛葉の言葉が、胸の奥に残っている。
玄弥は静かに息を吸い、吐いた。
術式も、型も取らない。
ただ、力があると信じて、内側を探る。
すると。
胸の奥で、何かが脈打った。
「……っ」
熱でも、光でもない。
確かに“流れ”がある。
玄弥は、恐る恐る掌を前に出す。
意識を集中させる。
――出ろ。
次の瞬間。
掌の上に、淡い霊光が灯った。
小さく、揺れる光。
だが、紛れもない。
「……」
玄弥は、息をするのを忘れた。
消えない。
幻じゃない。
もう一度、意識を向ける。
光は、少しだけ強くなった。
「……使えてる」
声が、震えた。
「ちゃんと……使えるんだ」
今まで、何度も何度も。
何も起きない掌を見つめてきた。
嘲笑。
失望。
諦め。
それらが、一気に胸に押し寄せる。
玄弥は、膝をついた。
掌の光が消える。
「……くそ……」
奥歯を噛みしめても、止まらなかった。
「なんで……今まで……」
拳で地面を叩く。
痛みより、悔しさの方が勝った。
見下されてきた視線。
才能がないと言われた言葉。
何も言い返せなかった自分。
全部が、頭を巡る。
「……悔しい……」
声が掠れ、視界が滲む。
涙が、ぽろぽろと落ちた。
だがそれは、
弱さからの涙じゃない。
可能性を知ってしまった涙だった。
玄弥は、濡れた顔を乱暴に拭う。
「……遅すぎる」
それでも。
立ち上がる。
夕焼けの中、もう一度掌を開く。
今度は、迷わなかった。
淡い霊光が、確かに灯る。
それを見つめながら、玄弥は静かに誓った。
膝をついたまま、玄弥は顔を伏せていた。
涙は止まったはずなのに、胸の奥がまだ熱い。
「……みっともないな」
そう呟いたとき、
小さな足音が近づいた。
「みっともなくなどない」
葛葉の声だった。
気づけば、すぐ隣に立っている。
夕焼けに照らされて、白い髪が淡く光っていた。
「長い間、できぬものをできぬと言われ続けた」
「それでも折れずに、ここまで来たのじゃ」
葛葉は、玄弥の頭にそっと手を置く。
「おぬしは、できないのではない」
はっきりと、断言する。
「今まで、呪いによって抑え込まれておっただけじゃ」
玄弥は、ぎゅっと拳を握る。
「……じゃあ、あれは」
「当然の結果じゃ」
「九尾と契約し、道が開いた」
「それでも今まで使えなかったのは」
「おぬしが弱いからではない」
葛葉は、少しだけ声を落とす。
「それほど強い呪いを、背負わされておったということじゃ」
玄弥は、ゆっくり顔を上げた。
「……俺は」
「遅れておるだけじゃ」
葛葉は、くすりと笑う。
「だがのう」
「今さら止まる理由もない」
夕風が吹き、校庭の草が揺れた。
「今日、霊力が灯った」
「それは“始まり”じゃ」
葛葉は、玄弥の目をまっすぐ見る。
「焦らずともよい」
「だが、諦めるな」
「おぬしは、ちゃんと前に進んでおる」
玄弥は、深く息を吸った。
胸の奥に、さっきとは違う熱が灯る。
「……ありがとう」
「礼などいらぬ」
葛葉は、どこか誇らしげに言った。
「おぬしが立ち上がるなら」
「わしは、隣におるだけじゃ」
その言葉は、
夕焼けよりも温かかった。
夕焼けが、校庭の影を長く伸ばしていた。
霊力を使えたという事実が、まだ胸の奥でざわついている。
玄弥は、どう扱えばいいのか分からず、立ち尽くしていた。
「ふむ……」
葛葉が腕を組み、玄弥を上から下まで眺める。
「せっかくじゃ」
「今日は少し、霊力の使い方を教えてやろう」
玄弥は思わず顔を上げた。
「……いいのか?」
「当然じゃろ」
「宝の持ち腐れほど、見ていて腹立たしいものはないからのう」
口は悪いが、声はどこか柔らかい。
「まず勘違いしておる点がある」
葛葉は、指で玄弥の胸を軽く突いた。
「霊力は“出すもの”ではない」
「通すものじゃ」
「通す……?」
「そうじゃ」
葛葉は、地面にしゃがみ、指先で線を描く。
「水が流れる川を思い浮かべてみい」
「力とは、溜め込めば澱む」
「流せば、形を成す」
玄弥は、ゆっくり目を閉じた。
さっき感じた、あの脈動。
無理に引きずり出そうとせず、ただ流れを意識する。
「肩に力が入りすぎじゃ」
「もっと楽にせい」
葛葉の声が、近い。
「怖がるな」
「霊力は、おぬしの一部じゃ」
玄弥は、息を整える。
すると――
胸の奥の“流れ”が、さっきよりも自然に動き始めた。
「……っ」
掌に、淡い光が灯る。
先ほどよりも、安定している。
「ほう」
葛葉が目を細める。
「今の感覚を忘れるでない」
「それが“基礎”じゃ」
「これが……」
「そうじゃ」
「誰も教えなかった、当たり前の訓練じゃ」
葛葉は立ち上がり、背伸びをする。
「おぬしは、今まで独学以前の段階で躓かされておった」
「だが、もう違う」
玄弥は、光る掌を見つめる。
不安はある。
怖さもある。
それでも――
確かに、前に進んでいる感覚があった。
「明日からもやるぞ」
葛葉は、当然のように言った。
「わしがいる間は、逃げられんから覚悟せい」
玄弥は、苦笑しながら頷いた。
「……よろしく頼む」
「うむ」
葛葉は、少しだけ胸を張る。
「九尾の葛葉、直々の稽古じゃ」
「光栄に思うがよいぞ」
夕焼けの中。
こうして、玄弥の“本当の修行”が始まった。
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