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第一部

第十一話 甘いひと時

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翔太にテニスの練習に付き合ってもらった後、汗もかいて喉も乾いていたので、コート脇の自販機に足を向けた。

「翔太、スポドリでいい?汗かいてるだろうし…」

声をかけると、

「あぁ、出来たらローカロリーなヤツで宜しく!」

と返して来た。
あんだけ、ウチでご飯食べたのに、ローカロリー指定とかおかしいじゃん!絶対、ご飯セーブした方がいいに決まってる!って、ちょっと思ったけど喜んで食べてくれたから、今日の所はヨシとしよう。
ベンチに座っている翔太にローカロリーなスポドリを1本渡し、その隣に座った。

「翔太は、次の総体個人と団体両方選手として出るんだよね?」

月末のテスト後にある総体に向けて、運動部は気合を入れて練習している真っ最中だ。
総体の結果によっては、殆どの運動部で3年生は秋を待たずして引退し、受験勉強に専念する。

「うん。主将が張り切ってるからね。今年の団体は優勝目指してる。俺個人は、県大会ベスト8以上の結果を今季は残したいと思ってるけど、出来る事なら優勝したいかな…。優香も、今年も個人で出る予定なんだろ?目標は?」
「私?県大会の去年のベスト16は超えたい所だけど、他所が結構強くなってるって噂もあるから取り敢えずは、県大会出場できる順位が目標かな?翔太みたいに、優勝目指したい所だけど、こればかりは何とも言えないかな?総体、空手は2日目が試合だっけ?テニスの試合は、開会式後の1日目にシングルは終わっちゃうから、2日目の翔太の試合は応援に行けるかも!」
「え?応援来てくれるの?じゃあ、俺も優香の応援に行かなきゃな。去年は、1日目は開会式の後半日だけ学校に戻ってうちの学校の武道場でやってた剣道の試合見て、解散してもいい時間になったら速攻道場行って翌日の調整してたけど、今年は優香のスコート姿見に行かなきゃな。」
「応援に来てくれるって言うよりも、スコート姿の女子見に来たいって?」
「だって、優香のスコート姿を他のヤローも見るんだぞ!彼氏…いや、婚約者としては優香のこの脚見て、他のヤローがエロいこと考えたりすんの見捨てておけんわ!試合中は結果も含めて気が気じゃないしと思う…。」

翔太は、ジャージで隠れている私の太腿を指差して言う。

「翔太は、私のお父さんか…。過保護も程々にしてよね。スコート姿の女の子なんて、当日はそこらうち中にウジャウジャ居るわよ!私よりスタイル良い子は、うちの部にも居るし、エロい目で見に来るんなら、翔太は応援禁止!」
「健全な男子高校生の思考だと思うんだけどなぁ~。若干、優香の言う所のエロ要素は入ってそうだけど…。優香がどう言おうと、俺は応援に行くからな!」
「そう言うなら、翔太の道着姿だって、エロ要素てんこ盛りじゃん!組み合った時に、胸元がはだけたりして、胸板とかチラッと見えるじゃん。学校の武道場での練習中とか見学で応援してる子達、そんな姿見た時に超目がハートになってるからね!」
「へぇ~、よく知ってるね。テニスコートと空手部の武道場は随分離れてるけど、空手部の練習中に見学してる子がいる事、優香知ってるんだぁ~。何で?」

そこには、悪いことを思いついた顔をしたブラック翔太の姿…。

「基礎トレのランニング、時々遠回りコースを自分で設定して、翔太の姿見たくって、基礎トレのランニングと偽って翔太の姿見てました…。」
「素直でよろしい。俺を丸め込もうなんて優香には無理なことなんだよ。諦めること!俺は、優香が居れば良いんだし、優香しか見てないから安心しな。」

頭を、ポンポンってして、

「そろそろ帰んないと、スイーツ待ってる煩い人達から催促の電話でもかかって来るぞ…」

翔太の勘が鋭いのか、私の携帯が鳴り始めた。
液晶画面に表示されているのは、母親’Sははおやーずの片割れ、うちの母からだった。
液晶をタップし、通話モードにすれば、

「優香ぁ~、パパがモンブランはまだかぁ?って催促してるわよ!」
「丁度、さっき練習やめたばっかりから、ちょっとだけ休憩してから帰るから、もう少し待ってって伝えといて!」

そう伝えて、返事を待たず通話を切って、溜め息をついた。
スポドリを飲み干した翔太は、自販機横のゴミ箱にペットボトルを捨てに行った。私は、半分くらいまだ残っている。

「優香、汗かいてるから、もう少しピッチ上げて水分補給した方が脱水予防に繋がるよ。後々。しんどくなるタイプだろ?試合の次の日とか、結構辛そうにしてるもんな。」
「よく知ってるね。」
香椎かしいが、言ってたろ?『不自然にお互いを見てる事があった』って。試合の次の日や、試合の前日とか、無意味に学校で優香の事目で追ってたし。試合の次の日はいつもより早く寝てただろ?俺の部屋からも、当たり前だけど優香の部屋の電気の灯り見えんだよ。いっつも、俺が電気消してちょっとしたら電気消えてたのも知ってるよ。俺に張り合うようにしてるなって…。」
「知ってたの…。」
「あぁ、根詰めすぎて寝れなかった日に何の気なしに空でも見ようかな?ってカーテン開けたら、優香の部屋から灯り漏れててびっくりしたよ。女の子なら、絶対に寝てる時間帯だったからな。何日か試しに電気消してからカーテンをこっそり持ち上げて優香の部屋見てた。それで気づいたんだ。大体、俺の部屋の電気が消えたら、優香の部屋の電気が消えるって…。どっちが遅くまで頑張れるかって、意地出した時もあったけどそれにも優香は喰らい付く様にいつも通り俺の部屋の電気が消えるまで粘ってた。その負けん気は買ってるけど、体崩しかけちゃ医者目指す身としては、ヤバイだろ?これからは、程々にしろよ。追い込むだけが良い結果を出すとは限んねぇからな…。さて、優香ん家でスイーツ待ってるウザい人達からまた催促の連絡がくる前に、帰りますか。」

ラケットバックを肩に掛け、私の側にあったケーキの箱をスッと取り上げて、私が立ち上がるのを待つ翔太。
帰り道でも、行きと同じ様に翔太の腕に自分の腕を絡めて並んで帰った。夜だから出来た行動なんだけど、すごく落ち着くポジションに家に着いたとき離れがたかった。

「汗かいたし、一度家帰ってちょっとシャワー浴びてくるわ。」

と言って、一旦自分の家に帰ってしまった翔太。
私は1人、玄関を入りリビングに向かった。

「ただいま~。ちゃんと、『Le Lisル・リス』のケーキ買って来たよ!」

と言えば、待ってましたとばかりに母がリビングからキッチンに飛んで来た。

「アレ?翔太くんは?」

翔太の姿がないのに気付いて、聞いて来た。

「あ、汗かいたからシャワー浴びて戻ってくるって、一旦家に帰った。」

そう告げたら、

「優香もお風呂入って来たら?汗かいてるんでしょ?」

って、お風呂を勧めてくれた。
お皿に、両親’Sりょうしんずの好みのケーキ達を乗せて残りは冷蔵庫に入れておいた。
お盆をリビングに持って行き、それぞれの好みのケーキを前に置いた。父親’Sちちおやーずは、自分好みのケーキを目にし、早速パクついていた。

「優香ちゃん、翔太から私たちの好み聞いてわざわざ買って来てくれたの?」

翔太ママが言う。

「あ、一応…。ちゃんと覚えましたからね。レアチーズとプリンアラモード!って。あっ、翔太は一度家に帰ってシャワー浴びて戻ってくるって言ってましたから…。帰って来たとき、翔太を弄るのだけはやめてあげて下さいね。」

翔太ママに、可愛らしく釘を刺して置いた。

「お母さん、私もお風呂行ってくるから、翔太帰ってきたらそう言っといて。」

と言って、リビングを後にした。

2階に上がって、お兄ちゃんの部屋に入り翔太が着替えた服を持って自分の部屋に行き、ベッドの上にそっと置いた。クローゼットから着替えの下着やルームウエアを持ち、お風呂へ直行した。Tシャツを脱げば、胸元には翔太にもらったドックタグが揺れている。
シャワーで全身の汗を流し、髪を洗ってトリートメントをして体を洗って湯船に浸かる。
そのまま目を瞑れば、眠りに落ちそうな心地良い疲労感がなんとも言えない。頭にはタオルドライのヘンテコな格好。
お風呂を上がる前に、洗顔をして、浴室から出て直ぐに化粧水をたっぷりと肌につけ、タオルドライも出来るお気に入りのマイクロファイバーのタオルキャップで髪をまとめた。
ふわふわなボアのパーカータイプのロングワンピースでリビングに向かえば、リビングには翔太だけがいた。翔太は、スウェットデニムのセットセットアップのルームウェアをTシャツの上に着ていた。髪は洗いざらしのサラサラな状態で、昼間とまた雰囲気が違って色気があった。
両親’Sりょうしんずは、部屋に居なくてリビングのテーブルは綺麗に片付けられて居た。

「あれ?両親’Sりょうしんずは?」
「ウチに行って飲み直しだと…。千賀一佐が偶然こっちに来てたらしくって、ウチに寄るって連絡があったのもあるみたいだけど…。後で、優香の事、千賀一佐に紹介したいからちょっとだけ、ウチまで付き合ってよ。」

と言う。流石に、このルームウエアで初対面の方に会うわけにはいかない…。着替えなきゃいけないっぽいな…って、思ってたら、

「優香、すっぴんでも変わんねぇな。可愛いし、綺麗だ。」

って、翔太に言われた。

「翔太、タルト食べるでしょ?飲み物は?コーヒー?紅茶?それとも、炭酸系?」
「コーヒーかな?あ、インスタントで良いよ。落とすの大変でしょ?」
「私も飲むから、ドリップするよ。翔太も飲むんだし、美味しいほうがいいでしょ?」

キッチンに向かい、コーヒーをドリップする準備を始めた。

「なんか手伝うことある?」
「マグカップ出しといて。私、ちょっと2階に行ってくるから!」

着替えと、翔太の服を取りに行く為、翔太をリビングに残して2階へ駆け上がった。タオルキャプを外して、サッとヘアオイルを塗ってその後は自然乾燥に任せた。
クローゼットから、フードのついたスエットと、黒のスキニーパンツを取り出して履き替えた。翔太の着ていた服は、丁寧に畳んであったので紙袋に入れて大事に抱えて部屋を後にした。
リビングに戻ると、

「何?わざわざ着替えて来たの?千賀一佐に会うから?あの人、そんなこと気にしないのに。すごく気さくなおじさんだよ。」
「それは、翔太が知り合いだから言えることで、私にとっては初対面の方だし…。」

半分乾きかけている髪は、少しウェーブがかかっている。タオルキャップに納める時に捻って入れ込んでたからだ。動くと、ウェーブがかかった髪が揺れる。

「優香、濡れた髪型、ウェーブがかかっててちょっとエロい…。大人っぽくて。で、その紙袋は?」

翔太が耳元で囁いた。

「エロ翔太降臨?タオルドライしてたから、癖がついちゃったのかな?紙袋の中身は、お兄ちゃんの部屋に置きっぱなしだった、翔太の服だよ。丁寧に畳んであったからちょっとびっくりした。」
「あ、拓斗さんのジャージ、洗ってからまた持ってくるわ。うちの洗濯機に突っ込んじまったから。」
「あぁ、全然急がないし、なんなら翔太貰っちゃってても構わないよ。多分。もし、返すんならお兄ちゃんが帰ってくるのは次、多分お盆の頃だと思うからそれまでに返してくれたら大丈夫だよ。お兄ちゃんが、そのジャージ着るかどうかわかんないけど…。」

用意してくれていたマグカップに角砂糖を1個だけ入れた。

「翔太は、お砂糖どうする?」
「う~ん、甘いもの食べるけど1個だけ入れてもらおうかな?」

角砂糖を翔太のマグカップにも1個入れて、ティースプーンでクルクルと混ぜてマグカップを渡した。冷蔵庫から、ケーキの箱を出して、お皿に乗せてリビングに持って行く。イルカのモチーフがついたデザートフォークをチョイスした。

「ドルフィンか…。ブルーの愛称だな。そういや、千賀一佐も昔ブルーで5番機飛ばしてたんだよなぁ~。」

翔太がボソッと呟いた。
甘いタルトを2人寄り添ってリビングで食べた。
今までで一番いろんな意味で甘いタルトだった気がする。
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