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心を隠す理由
しおりを挟むエリーナとアレクシスの微妙な距離感は依然として続いていたが、二人の間には少しずつ変化が生まれていた。エリーナはアレクシスの心を理解したいと願い続け、彼の冷たい態度の裏に隠された優しさを感じ取るようになっていた。一方で、アレクシスもまたエリーナに対して以前よりも柔らかい態度を見せる瞬間が増えてきていた。
そんな中、エリーナは公爵家の図書室で偶然、一冊の古びたアルバムを見つけた。それはアレクシスの幼少期からの写真が収められたもので、彼の無邪気な笑顔が印象的だった。しかし、ある時期を境に彼の写真には笑顔が消え、どこか寂しげな表情が映るようになっていた。
「アレクシス様の過去に何があったんだろう……?」
エリーナはそのアルバムを手に取り、胸の奥がざわつくのを感じた。
その夜、エリーナは意を決してアレクシスに過去について尋ねることを決意した。彼がどのような背景を持っているのかを知り、少しでも彼の支えになりたいという思いが強くなっていたからだ。
アレクシスが書斎で仕事をしているところにエリーナが入ると、彼はちらりと彼女を見ただけで再び書類に目を戻した。
「また何か用か?」
その冷たい声にも、エリーナはひるまずに進み出た。
「少しだけお時間をいただけますか?」
「……手短にな。」
エリーナは彼の言葉に頷き、思い切って切り出した。
「公爵様の幼い頃の写真を見ました。とても楽しそうな表情のものばかりで、幸せな時間を過ごしていたんだと思いました。でも、ある時から笑顔が消えていて……その理由が気になって。」
アレクシスはその言葉にピタリと動きを止め、エリーナをじっと見つめた。その視線には驚きと警戒心が入り混じっていた。
「……君にそんなことを話す義理はない。」
「それでも、私は知りたいんです。あなたがどんな想いを抱えているのか、少しでも理解したい。」
その真摯な言葉に、アレクシスは目を細めた。そして、ため息をつきながら椅子に深く腰を下ろした。
「いいだろう。話してやる。ただし、これを聞いても何も変わらない。それでもいいのなら。」
アレクシスは冷静な口調で、自分の過去を語り始めた。
彼は幼い頃、厳格な父親と優しい母親のもとで育った。母親は彼にとって唯一の癒しであり、心から愛している存在だった。しかし、彼が10歳の頃、母親は病に倒れ、あっけなくこの世を去った。その出来事が、彼の人生に大きな影を落としたのだという。
「母がいなくなった後、父はさらに厳しくなった。私が公爵家の後継者として完璧であることを求めた。感情を捨て、冷徹でいること。それが公爵家の人間としての在り方だと言われて育てられた。」
アレクシスの言葉には深い苦悩がにじんでいた。
「笑顔を見せる必要はない、感情は弱さだと教え込まれた。だから私は、そういう自分を演じるしかなかったんだ。」
エリーナは彼の話を黙って聞きながら、胸が締め付けられるような思いをしていた。彼が背負ってきた孤独と苦しみが、痛いほど伝わってきたからだ。
「……そんなことがあったんですね。」
エリーナは静かに呟いた。そして、思わずアレクシスの手に触れた。
「あなたがどれだけ辛い思いをしてきたのか、私には完全に理解することはできないかもしれません。でも、あなたがその孤独に囚われ続ける必要はないんです。」
アレクシスはエリーナの手を見つめながら、何も言わなかった。しかし、その目には僅かな動揺が浮かんでいた。
その夜、エリーナが自室に戻った後、アレクシスは一人で考え込んでいた。彼の心の中で、エリーナの存在が少しずつ大きくなりつつあることを認めざるを得なかった。
「……あの女は本当に厄介だ。」
彼はそう呟きながらも、どこか柔らかな表情を浮かべていた。それは、彼自身も気づかないほど小さな変化だったが、確実に彼の心に変化をもたらしていた。
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