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二人の距離
しおりを挟むエリーナとアレクシスの関係は少しずつ変化していたが、依然として冷徹な公爵の壁は高く、彼女の心に触れることは難しかった。しかし、エリーナは決して諦めることなく、アレクシスとの関係を築こうと日々努力を重ねていた。
それから数日後、エリーナは公爵家の庭園を散歩していた。春の陽気が心地よく、花々が咲き誇っているその場所で、彼女はひとときの安らぎを感じていた。だが、ふとした瞬間にその静かな時間が破られる。
「エリーナ。」
声をかけたのは、アレクシスだった。彼の姿が遠くから見え、エリーナは驚いたように振り向いた。
「公爵様、どうしてここに?」
「たまたま通りかかっただけだ。」
アレクシスは短く答え、エリーナの横に立った。
その瞬間、二人の間に微妙な空気が流れた。お互いが無言のまま歩き出すと、ふとアレクシスが口を開いた。
「最近、君が何を考えているのか、少しはわかってきたような気がする。」
エリーナはその言葉に驚き、視線を向けた。
「どういう意味ですか?」
「君は……私に関心を持ちすぎている。」
アレクシスは冷たく言ったが、その目はわずかに和らいでいた。
「それは、あなたが私にとって大切だからです。」
エリーナは真摯に答えた。
「私は公爵夫人としての役目を果たすことも大事だけど、それだけじゃなくて……あなたを理解したい。」
その言葉にアレクシスは再び黙り込み、しばらくの間、二人の間に沈黙が訪れた。
エリーナの真剣な思いに触れたアレクシスは、心の中で葛藤していた。彼の中には、自分を気にかけてくれるエリーナへの感謝と同時に、それに対する警戒心が交錯していた。彼はずっと、誰にも心を許さないようにしてきた。しかし、エリーナの優しさには抗えない部分もあった。
だが、その矛盾した思いをどうしても彼は解決できなかった。
「公爵様、これをお渡ししたくて。」
ある日、エリーナはアレクシスの執務室に足を運んだ。彼女は手に小さな箱を持っており、その中にはアレクシスが好きだと以前から聞いていた特製のチョコレートが入っていた。
アレクシスはその箱を見て、少し驚いたような表情を浮かべた。
「これは……君がわざわざ?」
「はい、少しでもお力になれればと思って。」
エリーナは微笑みながら答えた。
アレクシスはその箱を受け取り、じっとそれを見つめた。彼の手のひらの中で、箱が重く感じられるようだった。それは単なるチョコレートではなく、彼にとっては少し違う意味を持つように思えた。
「ありがとう。」
その言葉には、普段の冷たい響きが少しだけ和らいでいた。エリーナはその変化に気づき、心の中でほっと息をついた。
「どういたしまして。」
エリーナはにっこりと微笑み、軽く頭を下げた。そして、しばらくの間、二人は言葉なくその空間に身を委ねた。
その晩、アレクシスはチョコレートを一粒口にした。最初はその甘さに少し驚いたが、すぐに心地よさを感じ、いつの間にか手が箱の中のもう一粒を取っていた。
「……まさか、こんなことで。」
彼は自嘲気味に呟いた。しかし、心の奥底で、エリーナの思いやりがじわじわと浸透してきているのを感じていた。それでも、彼はその感情に蓋をしようとした。
「こんなこと、許されるわけがない。」
彼は自分に言い聞かせるように呟き、チョコレートを箱に戻した。だが、心の中でその甘さがまだ残っていた。
翌日、アレクシスは仕事を終えた後、またエリーナと出会うことになった。二人は庭園で再び顔を合わせ、少しばかりの時間を共有することになった。その間、言葉を交わすことは少なかったが、自然とお互いの存在を意識していた。
「公爵様、もしよければ、またお話しませんか?」
エリーナが柔らかな声で言うと、アレクシスは少しだけ顔を上げ、静かに頷いた。
「いいだろう。」
その言葉に、エリーナは安心したように微笑んだ。
だが、その時、遠くから一人の使用人が駆け寄ってきて、アレクシスに報告をした。
「公爵様、急なご連絡がございます。」
その報せにアレクシスはすぐに立ち上がり、エリーナに一言告げる。
「また今度。」
その言葉を残して、彼はエリーナに背を向け、足早に去っていった。
エリーナはその背中を見送りながら、胸にわずかな寂しさを感じた。彼の心に少しでも近づけたと思っていたが、まだ距離があることを実感していた。
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