【完結】冷酷公爵の執愛は甘すぎる ~逃げた私を100日で堕とすそうです~

22時完結

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揺れる心

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夜の静寂が森を包み込んでいた。木々の間を通り抜ける風が葉を揺らし、かすかなざわめきを生み出している。その音は、まるで遠い記憶を呼び覚ますように紗耶の耳に響いた。

小さな小屋の前に立つエドモンド公爵の姿は、闇の中で一層際立っていた。彼の存在が、逃げ続けてきたはずの紗耶の心を揺さぶる。

「なぜ、ここに……」

紗耶はかすれた声で問いかけた。

「お前を探し続けたからだ。」

エドモンドの声は低く、しかし迷いのない響きを持っていた。その瞳は紗耶をまっすぐに捉え、逃げ場のない感情を突きつけてくる。

「……私を捕らえるために?」

「いや、確かめるためだ。」

「確かめる?」

「お前が何を恐れているのか、なぜ逃げたのか。そして……私はなぜ、お前をこうまでして追うのか。」

その言葉に、紗耶の胸が激しく波打った。

彼はただ冷徹な貴族として、義務のために彼女を追っているのではない。何か、それ以上の感情がそこにある。

「あなたが……私のことを知って、どうするの?」

「知った上で、私は選びたい。」

「選ぶ?」

「そうだ。お前の運命を、ただ決めつけるのではなく、お前が何を望むのか、私自身の心で確かめたい。」

エドモンドは、静かに手を差し出した。

「お前が望むなら、今ここで私を拒め。そうすれば、私は二度とお前の前には現れない。」

紗耶は、驚いたように彼を見上げた。

逃げることはできる。拒めば、彼は去ると言っている。

だが――

彼がいなくなることを、なぜか考えたくない自分がいる。

彼の手を取れば、再び何かに縛られるかもしれない。けれど、逃げ続けることが本当に彼女の望む自由なのか――それすらも、今はわからなかった。

「私は……」

言葉が詰まる。

エドモンドは、黙って彼女を待っていた。

長い沈黙のあと、紗耶はゆっくりと視線を落とした。

「私は……あなたを信じることができない。」

そう言った瞬間、胸が苦しくなるのを感じた。

エドモンドの表情は変わらない。ただ、静かに目を閉じ、一度深く息をついた。

「それでも、私はお前を諦めない。」

静かな決意が込められた声。

紗耶は、戸惑いとともに彼を見つめた。

「私は、ただ逃げたかった。でも、今はわからない。何を恐れているのか、何を求めているのか……」

「それなら、見つけるまで私と共にいろ。」

エドモンドの言葉に、紗耶は思わず息を呑んだ。

「……一緒に?」

「そうだ。私と共にいれば、お前はもう一人ではない。」

「私は……」

紗耶は震える手を胸に当てる。

エドモンドの言葉は、どこか彼女の心の奥深くに触れた。

彼女はこれまで一人で生きてきた。誰にも頼らず、誰も信じず。

でも、もしも。

もしも誰かと共にいることで、本当に心が救われるのだとしたら――

彼女の瞳が揺れる。

エドモンドは、再びゆっくりと手を差し出した。

「お前が望むなら、私はお前を守る。」

その言葉は、今までに聞いたどんな言葉よりも、彼女の胸に響いた。

紗耶は、迷いながらも、そっとその手に触れようとした。

だが――

その瞬間、森の奥から何者かの気配が近づいてくるのを感じた。

エドモンドの表情が一瞬鋭くなる。

「誰か来る……!」

紗耶の心臓が跳ね上がる。

そして、次の瞬間。

森の闇から、複数の影が現れた。

「見つけたぞ!」

男たちの声が響く。

それは、エドモンドの追跡隊ではなかった。

「……っ!」

紗耶は反射的に身を引いた。

エドモンドは即座に剣を抜き、紗耶の前に立った。

「お前たちは何者だ。」

低く、しかし威圧的な声。

男たちは、にやりと笑った。

「さあな。だが、こいつを連れて行くよう命じられている。」

「誰の命令だ。」

「貴族なんて、皆同じだろう?」

エドモンドの目が鋭く光る。

紗耶は、息を詰まらせながらその場を見つめた。

何が起こっているのか。

なぜ、彼らは自分を追ってきたのか。

恐怖が胸を締め付ける。

「下がっていろ。」

エドモンドの言葉に、紗耶ははっとする。

彼は、間違いなく彼女を守ろうとしている。

しかし、ここでまた誰かに守られたら、自分はまた囚われてしまうのではないか――

「私は……」

紗耶は、震える声を押し殺しながら呟いた。

「私は、もう誰にも縛られたくない……!」

彼女は、その場から駆け出そうとした。

だが、次の瞬間。

エドモンドの腕が、彼女の手をしっかりと掴んだ。

「お前が望む自由とは、こういうことなのか。」

「っ……!」

彼の瞳が、まっすぐに紗耶を見つめる。

「お前が本当に望むものが何なのか、まだわからないのなら――せめて、私のそばで見つけろ。」

その言葉に、紗耶の足が止まった。

そして――

森の影の中で、新たな戦いが幕を開ける。
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