【完結】冷酷公爵の執愛は甘すぎる ~逃げた私を100日で堕とすそうです~

22時完結

文字の大きさ
9 / 20

囚われの城

しおりを挟む

冷たい石の床の感触が、紗耶の意識を現実へと引き戻した。

かすかに残る麻酔のような違和感が、彼女の身体を重くする。ゆっくりと瞳を開くと、見慣れぬ天井が視界に広がった。

「……ここは……」

彼女が横たわっているのは、古びた石造りの牢の中だった。小さな窓には鉄格子がはめられ、外から差し込む薄明かりが壁に影を落としている。

そして――

「目が覚めたか。」

静かな低い声が響く。

紗耶は、はっとして身体を起こした。

そこには、エドモンド公爵がいた。

「エドモンド……!」

彼は壁にもたれかかるように座っていた。手首には頑丈な鎖が巻かれ、身動きが制限されている。それでも彼の表情は変わらず、鋭い視線で牢の外を見据えていた。

「あなたも……囚われて……?」

紗耶が震える声で問うと、エドモンドは静かに頷いた。

「どうやら、私はお前と一緒に捕らえられたようだな。」

「そんな……どうして……?」

「お前を守ろうとした。それだけだ。」

その言葉が、紗耶の胸を締めつけた。

エドモンドがここにいるのは、彼女のためだった。

もし、彼が彼女を見捨てていたら、逃げられたかもしれない。それなのに――

「……ごめんなさい……」

無意識にそう呟いていた。

エドモンドは、わずかに目を細めた。

「謝る必要はない。」

「でも……あなたまで……」

「私の意思で動いたことだ。」

彼は淡々とした口調で言い切る。

それが、かえって紗耶の心を揺さぶった。

彼は決して後悔していない。それどころか、自分がここにいることを当然のように受け入れている。

「……あなたって、本当に……」

「本当に?」

「……わからない人。」

紗耶は小さく呟いた。

エドモンドは、何かを言おうとしたが、次の瞬間――

「目覚めたようだな。」

牢の外から、男の声がした。

二人は、一斉にそちらを見やる。

そこに立っていたのは、背の高い男だった。

年の頃は四十を過ぎたあたりか。鋭い眼光を持ち、貴族らしき服装に身を包んでいる。その表情には、冷酷さと計算高い狡猾さが滲んでいた。

「お前が……?」

エドモンドが低く問う。

男は、ゆっくりと足を進めた。

「初めましてだな、公爵閣下。そして、お久しぶりだ、お嬢様。」

紗耶の心臓が跳ね上がる。

「……あなたは……」

男は、ゆっくりと笑みを浮かべた。

「私はクラウス・グランヴィル。この城の主だ。」

その名を聞いた瞬間、紗耶の血の気が引いた。

「グランヴィル……まさか……!」

エドモンドが目を細める。

グランヴィル家――それは、かつて王国の影で暗躍し、数々の裏取引を行ってきた貴族の一派だった。だが、数年前に失脚し、表舞台から姿を消していたはずだった。

「お前が、なぜここにいる。」

「ふむ、説明が必要か?」

クラウスは、楽しそうに肩をすくめた。

「簡単な話だ。私は、王国から“消えた”ことになっている。だが、本当に消えたと思うか?」

エドモンドは無言で彼を睨みつける。

「私は、表向きの地位を失った。だが、だからこそ動きやすくなったのさ。裏の世界では、まだまだ私の力は健在だ。」

紗耶は震えながら、彼を見つめた。

「では……なぜ、私を?」

クラウスの笑みが深まる。

「それは、お前が“特別”だからだよ。」

「特別……?」

「お前の血筋には、ある秘密がある。」

「血筋……?」

紗耶は困惑した。

自分の家系は、ただの貴族の家柄だ。特別なものなど何もないはず。

「何を……言っているの?」

クラウスは、牢の鉄格子に手をかけた。

「お前の母親のことを知っているか?」

「母……?」

紗耶の母は、彼女が幼い頃に亡くなった。

だが――

「お前の母は、ただの貴族の娘ではなかった。」

「え……?」

「彼女は、“王家の血”を引いていたのさ。」

紗耶の全身が凍りつく。

「王家の……?」

「そうだ。お前の母の家系は、正統な王位継承権を持っていた。そして、その血を受け継いでいるのが――お前だ。」

「そんな……!」

紗耶は頭が混乱した。

自分が、王家の血を?

「お前の父親は、それを隠し続けていた。」

「どうして……?」

「簡単なことだ。お前の存在が、政争を生むからだ。」

クラウスは薄く笑う。

「もし、お前の出自が公になれば、どうなると思う?」

「それは……」

紗耶は言葉を失う。

王家の血を引く者がいると知れれば、権力を狙う者たちが動き出す。王位を巡る争いが再燃するかもしれない。

「つまり、お前は“鍵”なのさ。」

クラウスはゆっくりと言った。

「お前の存在を利用すれば、私たちは再び王国の中枢に戻れる。そして、お前が邪魔になれば――消すだけだ。」

ぞっとするような冷たい声。

紗耶の身体が震える。

「お前は選べる。私に従えば、お前を“王家の正統な血族”として祭り上げてやる。だが、拒めば――」

彼の目が細められた。

「この世から消えてもらう。」

牢の中の空気が張り詰める。

エドモンドは、静かに口を開いた。

「お前の好きにはさせん。」

クラウスは、興味深そうにエドモンドを見た。

「ほう、公爵閣下は、この娘に肩入れするつもりか?」

「私は、こいつを利用する貴様を許さない。」

「なら、どうする?」

クラウスの笑みが、冷たく深まる。

「お前に、選択肢はあるのか?」

牢の扉が重く閉じられる音が響いた。

紗耶の運命は、大きく動こうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

ブラック企業に勤めていた私、深夜帰宅途中にトラックにはねられ異世界転生、転生先がホワイト貴族すぎて困惑しております

さら
恋愛
ブラック企業で心身をすり減らしていた私。 深夜残業の帰り道、トラックにはねられて目覚めた先は――まさかの異世界。 しかも転生先は「ホワイト貴族の領地」!? 毎日が定時退社、三食昼寝つき、村人たちは優しく、領主様はとんでもなくイケメンで……。 「働きすぎて倒れる世界」しか知らなかった私には、甘すぎる環境にただただ困惑するばかり。 けれど、領主レオンハルトはまっすぐに告げる。 「あなたを守りたい。隣に立ってほしい」 血筋も財産もない庶民の私が、彼に選ばれるなんてあり得ない――そう思っていたのに。 やがて王都の舞踏会、王や王妃との対面、数々の試練を経て、私たちは互いの覚悟を誓う。 社畜人生から一転、異世界で見つけたのは「愛されて生きる喜び」。 ――これは、ブラックからホワイトへ、過労死寸前OLが掴む異世界恋愛譚。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

触れると魔力が暴走する王太子殿下が、なぜか私だけは大丈夫みたいです

ちよこ
恋愛
異性に触れれば、相手の魔力が暴走する。 そんな宿命を背負った王太子シルヴェスターと、 ただひとり、触れても何も起きない天然令嬢リュシア。 誰にも触れられなかった王子の手が、 初めて触れたやさしさに出会ったとき、 ふたりの物語が始まる。 これは、孤独な王子と、おっとり令嬢の、 触れることから始まる恋と癒やしの物語

処理中です...