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エピローグ
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「おはよう、広瀬、これ、面白かった」
最近話すようになった佐藤君は、私の隣の席の男の子だ。一昨日、私が紹介した本を片手に、嬉しそうに笑っている。佐藤君の特徴的な尖った耳は今日も赤い。
「おはようって、もう読んだの? 早いね」
「面白くて、止まらなかった」
佐藤君はそう言うと、照れ臭そうに笑う。私も席に座りながら、佐藤君に身体を向ける。
先日、教室で私の好きな歌を歌っていた佐藤君を見てしまって以来、好きな曲や好きな歌を互いに紹介しあっている。佐藤君から紹介されるものは、自分では見つけることが出来ないものばかりで、読んだり聞いたりすると世界が広がるような気持ちにしてくれる。紹介されたものは欠かさず、触れていた。
「どんでん返し、俺も好きなんだよな」
佐藤君は結構、言葉数が少ない。それでも、的確な言葉選びをするので、佐藤君が紹介するものは全て興味を持ってしまう。
「私が面白いと思ったものを、佐藤君にも面白いって言ってくれるの嬉しい」
私もきっと佐藤君と同じで耳を赤くしているのだろう。
佐藤君とずっと話してみたかった。あの時の電車で見かけてから、どんな風に話す人なんだろう。
声は? 話す速度は?
だから、佐藤君が歌を歌ってた日、実はこっそり立ち聞きしていた。チャンスがあれば、私もその歌が好きだと声を掛けたかった。でも、歌っている所を聴かれたら嫌だろうか? そう考えて、その場から離れようとしたときに、佐藤君が転んでいた。
私は佐藤君と話すことが毎日の楽しみになっていた。
そんなこと佐藤君は知らないだろうけど。
サアっと冷たい風が私たちを包む。佐藤君から発された言葉は「寒いな」と言ったようなごく自然の会話のようなテンションで言われたので、言葉の意味がすぐには理解できなかった。
佐藤君の少し尖った耳は、とても真っ赤になっていて、その赤を見て、解った。
私は告白をされたのだと。
私は佐藤君が好きなんだろうか?
でもきっと私は今、彼と同じように耳を赤くしている。
先日、葵に正式に告白をされて、付き合ってほしいと言われた。
葵のことは好きだったのに、葵の申し出に対して、すぐ首を縦に動かすことが出来なかった。
首をすぐに縦に動かさない選択をした時、誰かが教室のドア前で倒れた音がした。駆け寄ると佐藤君で。佐藤君を保健室に連れて行こうとする私を見た葵がなにか呟いていた気がする。その時の私はどんな顔をしていたのだろうか。
葵と私の好きは、同じ好きなのか。
さきほどのおみくじに書かれた「恋愛」欄に「その人を手放すな 己の気持ちに従え」と書いてあった。葵のことだと思った。純粋に葵と話せなくなるのは嫌だった。だから、私のこの自分でも整理できない気持ちだけれど、葵の告白を受けるべきなのかなと思っていた。
己の気持ちに従いたいけれど、本当に従っていいのかとやはりすぐに答えは出なかった。小さい頃は何も考えずに好きだと言えたのに。今は、好きにたくさん種類があって困る。
……佐藤君への好きはどの種類だろう。
佐藤君は好きだ。その好きは、佐藤君と同じ好きなのだろうか? 葵の時と同様、正直、分からない。
それでも白い肌にそばかすが印象的な佐藤君の顔がみるみる赤くなっていくのを見て私は単純に、同じがいいなと思った。
思ったんだ。
だから、私は「私も」と無意識に答えていた。
「私も好き」だと佐藤君に伝える選択をした。
佐藤君と同じような赤い顔をして。
最近話すようになった佐藤君は、私の隣の席の男の子だ。一昨日、私が紹介した本を片手に、嬉しそうに笑っている。佐藤君の特徴的な尖った耳は今日も赤い。
「おはようって、もう読んだの? 早いね」
「面白くて、止まらなかった」
佐藤君はそう言うと、照れ臭そうに笑う。私も席に座りながら、佐藤君に身体を向ける。
先日、教室で私の好きな歌を歌っていた佐藤君を見てしまって以来、好きな曲や好きな歌を互いに紹介しあっている。佐藤君から紹介されるものは、自分では見つけることが出来ないものばかりで、読んだり聞いたりすると世界が広がるような気持ちにしてくれる。紹介されたものは欠かさず、触れていた。
「どんでん返し、俺も好きなんだよな」
佐藤君は結構、言葉数が少ない。それでも、的確な言葉選びをするので、佐藤君が紹介するものは全て興味を持ってしまう。
「私が面白いと思ったものを、佐藤君にも面白いって言ってくれるの嬉しい」
私もきっと佐藤君と同じで耳を赤くしているのだろう。
佐藤君とずっと話してみたかった。あの時の電車で見かけてから、どんな風に話す人なんだろう。
声は? 話す速度は?
だから、佐藤君が歌を歌ってた日、実はこっそり立ち聞きしていた。チャンスがあれば、私もその歌が好きだと声を掛けたかった。でも、歌っている所を聴かれたら嫌だろうか? そう考えて、その場から離れようとしたときに、佐藤君が転んでいた。
私は佐藤君と話すことが毎日の楽しみになっていた。
そんなこと佐藤君は知らないだろうけど。
サアっと冷たい風が私たちを包む。佐藤君から発された言葉は「寒いな」と言ったようなごく自然の会話のようなテンションで言われたので、言葉の意味がすぐには理解できなかった。
佐藤君の少し尖った耳は、とても真っ赤になっていて、その赤を見て、解った。
私は告白をされたのだと。
私は佐藤君が好きなんだろうか?
でもきっと私は今、彼と同じように耳を赤くしている。
先日、葵に正式に告白をされて、付き合ってほしいと言われた。
葵のことは好きだったのに、葵の申し出に対して、すぐ首を縦に動かすことが出来なかった。
首をすぐに縦に動かさない選択をした時、誰かが教室のドア前で倒れた音がした。駆け寄ると佐藤君で。佐藤君を保健室に連れて行こうとする私を見た葵がなにか呟いていた気がする。その時の私はどんな顔をしていたのだろうか。
葵と私の好きは、同じ好きなのか。
さきほどのおみくじに書かれた「恋愛」欄に「その人を手放すな 己の気持ちに従え」と書いてあった。葵のことだと思った。純粋に葵と話せなくなるのは嫌だった。だから、私のこの自分でも整理できない気持ちだけれど、葵の告白を受けるべきなのかなと思っていた。
己の気持ちに従いたいけれど、本当に従っていいのかとやはりすぐに答えは出なかった。小さい頃は何も考えずに好きだと言えたのに。今は、好きにたくさん種類があって困る。
……佐藤君への好きはどの種類だろう。
佐藤君は好きだ。その好きは、佐藤君と同じ好きなのだろうか? 葵の時と同様、正直、分からない。
それでも白い肌にそばかすが印象的な佐藤君の顔がみるみる赤くなっていくのを見て私は単純に、同じがいいなと思った。
思ったんだ。
だから、私は「私も」と無意識に答えていた。
「私も好き」だと佐藤君に伝える選択をした。
佐藤君と同じような赤い顔をして。
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