俺も恋愛対象者‼

私欲

文字の大きさ
7 / 7
エピローグ

エピローグ

しおりを挟む
「おはよう、広瀬、これ、面白かった」
 最近話すようになった佐藤君は、私の隣の席の男の子だ。一昨日、私が紹介した本を片手に、嬉しそうに笑っている。佐藤君の特徴的な尖った耳は今日も赤い。
「おはようって、もう読んだの? 早いね」
「面白くて、止まらなかった」
 佐藤君はそう言うと、照れ臭そうに笑う。私も席に座りながら、佐藤君に身体を向ける。
 先日、教室で私の好きな歌を歌っていた佐藤君を見てしまって以来、好きな曲や好きな歌を互いに紹介しあっている。佐藤君から紹介されるものは、自分では見つけることが出来ないものばかりで、読んだり聞いたりすると世界が広がるような気持ちにしてくれる。紹介されたものは欠かさず、触れていた。
「どんでん返し、俺も好きなんだよな」
 佐藤君は結構、言葉数が少ない。それでも、的確な言葉選びをするので、佐藤君が紹介するものは全て興味を持ってしまう。
「私が面白いと思ったものを、佐藤君にも面白いって言ってくれるの嬉しい」
 私もきっと佐藤君と同じで耳を赤くしているのだろう。
 佐藤君とずっと話してみたかった。あの時の電車で見かけてから、どんな風に話す人なんだろう。
 声は? 話す速度は?
 だから、佐藤君が歌を歌ってた日、実はこっそり立ち聞きしていた。チャンスがあれば、私もその歌が好きだと声を掛けたかった。でも、歌っている所を聴かれたら嫌だろうか? そう考えて、その場から離れようとしたときに、佐藤君が転んでいた。
 私は佐藤君と話すことが毎日の楽しみになっていた。
 そんなこと佐藤君は知らないだろうけど。

 サアっと冷たい風が私たちを包む。佐藤君から発された言葉は「寒いな」と言ったようなごく自然の会話のようなテンションで言われたので、言葉の意味がすぐには理解できなかった。
 佐藤君の少し尖った耳は、とても真っ赤になっていて、その赤を見て、解った。
 私は告白をされたのだと。
 私は佐藤君が好きなんだろうか?
 でもきっと私は今、彼と同じように耳を赤くしている。
 先日、葵に正式に告白をされて、付き合ってほしいと言われた。
 葵のことは好きだったのに、葵の申し出に対して、すぐ首を縦に動かすことが出来なかった。
 首をすぐに縦に動かさない選択をした時、誰かが教室のドア前で倒れた音がした。駆け寄ると佐藤君で。佐藤君を保健室に連れて行こうとする私を見た葵がなにか呟いていた気がする。その時の私はどんな顔をしていたのだろうか。
 葵と私の好きは、同じ好きなのか。
 さきほどのおみくじに書かれた「恋愛」欄に「その人を手放すな 己の気持ちに従え」と書いてあった。葵のことだと思った。純粋に葵と話せなくなるのは嫌だった。だから、私のこの自分でも整理できない気持ちだけれど、葵の告白を受けるべきなのかなと思っていた。
 己の気持ちに従いたいけれど、本当に従っていいのかとやはりすぐに答えは出なかった。小さい頃は何も考えずに好きだと言えたのに。今は、好きにたくさん種類があって困る。
 ……佐藤君への好きはどの種類だろう。
 佐藤君は好きだ。その好きは、佐藤君と同じ好きなのだろうか? 葵の時と同様、正直、分からない。
 それでも白い肌にそばかすが印象的な佐藤君の顔がみるみる赤くなっていくのを見て私は単純に、同じがいいなと思った。
 思ったんだ。
 だから、私は「私も」と無意識に答えていた。
 「私も好き」だと佐藤君に伝える選択をした。
 佐藤君と同じような赤い顔をして。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

処理中です...