生き残りBAD END

とぅるすけ

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第4章 見えた世界 偏

鬼月 彩楓

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 彩楓の一番古い記憶は10年前、暗い鉄格子の無効に望める白く長い廊下、カルテを持って意味のわからない単語を吐き続けるガスマスクをつけた白衣の人々。
 そして、牢屋の中では、自由の自分に対して、手足を拘束されている、男性にしては髪の長い彩楓の実父。
 名をもみじ

「このどちらかが“アスモデウス”なのか…」
「いや、あと2人、母親と娘がまだ捕まっていない…捜索中だ」

 何を話しているのだろう…まだ10歳の彩楓には理解出来なかった。

「ねぇ、父さん…奴ら何を話してるの?」
「しらん…なぁ、いろは、ちかぢか、ここからぬけだそうとおもう」

 その会話も聞かず、白衣の人達は長い廊下の無効へ去っていった。

「父さん? できるの?」

 父親は手足を拘束され、鎖に繋がれているため、牢屋の端から端までも移動出来ない。

「抜け出せるの?」
「いま、おれのなかまがだつごくをてつだっている」 

 仲間、父親の仲間は、

「わっ!」

 彩楓が目にしたのは地面をはびこる蟲たち。
 そう、父親の能力は動物を操作できる能力。
 その蟲たちは父親を拘束している鎖に纏わり付く。

「いろは、すこしまて」

 父親を拘束している鎖が喰い落ちる。
 手足が自由になった父親は長くなった爪で、手首を引っ掻き、血を出す。
 父親はおぼつかない足取りで彩楓に近づき、伸びた前髪で顔を隠し、彩楓の腕を掴む。
 その掴んだ腕に自分の血を細く塗っていく

「父さん? これは?」
「ふうせい“たち”のいるばしょだ」

 ──セラフィス 東区コーポ7 302号室

「たち?」
「いもうとがうまれたらしい」

 恐らく、虫たちと話したのだろう

「そう…でも父さん? 何で俺に?」
「おまえがにげろ…おれがおとりになる」

 父親の前髪の間から望む本気の瞳。

「え、でも父さん──」

「おれがおまえののうりょくをかいほうする」

「え?」

 父親はそんな訳の分からない事を言うと自分の額と彩楓の額を触れさせる。

「っ!」

 その瞬間、彩楓の中で、新しい感覚が目覚める。

「こ、これは?」
「じぶんでたしかめろ」

 その時、

「おい! お前ら!何をしている!」

 ガスマスクで白衣の声からして男だろうか、1人近づいてくる。

「いろは、たのんだぞ!」

 父親は右腕を男の方へ向ける。
 その腕の動きに合わせたかのように、父親の足元で蠢いていた蟲達が男にむらがる。

「うわぁぁぁ!!!! なんだこれ!!」

 男は必死に抵抗するが、虚しく、その場に倒れ込み動かなくなった。
 その蟲は凄まじいスピードで、鉄格子を削り取る。

「よし、いくぞ」
「う、うん」

 彩楓は武器になりそうな鉄格子の切れ端、1m程の鉄を拾い、父親のあとを追う。




「なんだこれ!! ぎゃああぁ!!」
「うわぁぁ!! 助けてくれぇ!!」

 父親は大したスピードではないが、走り続け、行く手を阻む人々に蟲をまとわりつかせ倒して行った。

「父さん! これ、どこへ向かってるの!」
「わからん! とりあえずはしれ!」 
「そんなぁ」

 急の運動で彩楓の体は悲鳴を上げていた。
と、その時、

「とまれ! いろは!」

 目の前に立っているのは、今まで倒してきた敵とは明らかに雰囲気が違う白衣の男性。
 丹精な顔つきに、ニット帽の上に丸いゴーグル。
 ニット帽の下から出る綺麗な茶髪。
 細い目の下のクマ、寝起きだろうか。

「ったくよぉぉ、人がぐっすりサボってるってぇのによぉ!」

 イライラした表情で、彩楓達を睨む男性。

───刹那

 男の白衣の袖の中から伸びたおぞましい緑色の腕は、父親の集めた蟲に包まれ、止められていた。

「……あれぇ、止めれるんだ…僕の攻撃…」

 しかし、男性の腕を包んでいる蟲は次々と灰になって床に落ちていく。

「なに?」
「──父さん!!」

 その時、伸びた男性の腕から枝分かれした腕は、父親の胸を貫く。

「かふっ!」
「──っ!!」
「はい、残念…あっ、やべー殺しちゃった」

 伸びた腕は元通りになり、父親は四つん這いになる。

「いろ…は!! にげ…ろ!!」
「で、でも!」
「のうりょく…を…つかえ!!」
「能力…?」

 どうやら能力を使えば逃げれるらしい。
 しかし、どういった能力なのか、彩楓はまだ知らない。

「どうやって使うんだよ!!」
「うみを…おもいうかべ────」

────刹那

 彩楓の目の前で、白衣の男の袖から伸びた腕は止まる。
 父親が蟲を使って止めてくれた。
 しかし、父親も弱っているのもそうだが、蟲たちの数が少なく、目の前に出来た黒い壁は今にも崩れそうだ。

「にげろ!!」

 彩楓は時間が無いことを悟り、海を思い浮かべた。
その時、

「え───こぼぼっ!!」

 塩辛い水が彩楓の口に溢れる。
 体の自由が聞かない、息ができない。
 水の中だ。
 光が指す方へ向かう。

「ぶはっ!!」

 大きく息を吸い、呼吸を整える。

「海っ!?」



 父親が解放してくれた能力の使い方を覚えた彩楓はその、テレポートを駆使して陸地を目指した。
 運良く、進んだ方向に陸地を発見し、波に煽られながらも、その浜辺をイメージする。

「こうか…」

 彩楓が思った通り、風景はガラリと変わり、足元に砂浜、目の前に密林が広がっていた。
 その島と思われる陸地を歩き、人を探す。

「ここは…無人島なのか…」

 しばらく浜辺を歩いたが、人と出くわす気配がないため、遭難覚悟で密林に足を踏み入れる。

「いざとなったら能力で戻ればいいだろう」

 彩楓は今がいつなのか、生存者サバイバーが出現してからどれくらい経ったのか、人類は生き残っているのか…それすらも知らない。
 ずっと、暗い牢獄の中で父親と2人で暮らしていたからだ。

「…父さん」

 妙に肌寒い。
 彩楓は両手で自身を包む。
 裸足で草や、木の枝を踏むのにも慣れてきた。
 その時、

「これは…」

 彩楓が目にしたのは壁だった。
 コンクリートで出来た20m位の横に長い壁。
 それは左右を見ても途切れておらず、恐らく島を包むほどに巨大な壁なのだろう。

「…」

 彩楓は歩くのに夢中で気づかなかったが、日は沈み、夜も更けてきた。
 
「そうだよな」

 彩楓は壁伝いに歩くことに決めた。



しばらく歩くと、門らしきものが目に入る。
 1人で開けることは不可能だろう。
 すると、上の方から男性の声がする。

「おい君! 何をやっている!!」




 その後、その島の警察署で色々な質問をされたが、彩楓は全てに「分からない」と答えた。
 そして、海に落ちた際、消えてしまったが、自分の家族がいると思われる住所について尋ねる。

「セラフィス? あぁ、避難先の一つか…確か…」
「そこに君のご家族がいるのかい?」
「はい…多分…」

 後で聞いた話だったらしいが、彩楓が流れ着いた島は生存者サバイバーが出現した際、避難島に指定された島の一つ。
 ハワイ島。

「セラフィスに逃げた人達は幸運だよ…あそこは本来、避難島じゃねえからな…混乱で間違った情報が行ったんだろうな可哀想に…」

 保護してくれた人の話によると、セラフィスというのは現在、ハワイ島の東側、太平洋の中心に浮いている人工管理島。
 広い陸地生存者の巣窟、アメリカと日本に挟まれた、危険な場所だ。
 そして、最悪なことにセラフィスにいる人々はその事を知らない。
 さらに、

「SABERっていう頭のおかしい奴らがセラフィスの人々を救うって躍起になってるが、根はテロリスト集団だからな…どうせ下らないことしかやらんだろ、一応推しておくが、セラフィスに行くことは勧めない。諦めてくれ」
「そ、そうですか……くっ!」
「あ、そうだ宿を紹介するよ」
「ありがとうございます───」

 
───諦められるわけねぇだろ


 半年後

 彩楓は施設での生活にも慣れ、ちゃんとした生活を送っていた。
 そんなある日、自室のベッドの上で仰向けで昼間の光が差し込む天井を見上げていた時、ふと思った。

「どうすればいいかなぁ、俺の力で…」
「彩楓くーん? お昼ご飯にしよー?」

 ドアの向こうから隣の部屋の女の子の声がする。

「あ、うん! 今行くよ」

───さて、行動しますか…

 彩楓はその日を境に能力鍛錬を開始した。
 そして、ついにテレポートの精度は劇的に成長し、テレポートの連続性を手に入れた。


 
 ハワイ島は浜辺に出れないように街の外部を巨大な壁が覆っている。
 彩楓はその東側の壁に近づく。

「まぁ、これくらいどうにでもなるな…」

 その言葉通り、彩楓の能力は行きたい場所をイメージ、指定するだけで、瞬時に移動できる精度の高いテレポートだ。

「壁はとりあえず置いておくか…」

 彩楓はまず、セラフィスの場所を知らなければならない。

 彩楓が訪れたのは警察署。
 役員に見つからないように、テレポートを繰り返しながら、周辺海域の図を手に入れる。

「なんだ、割とちょろいな」

 同じ手口で、警察署から脱出する。


 施設に戻り、海域の図展開する。
 そこにはハワイ島の上の辺りに、「セラフィス」と書いてある。

「よし、明日には決行しよう…」



 翌朝、まだ日が昇りきっていない頃。
 彩楓は警察署から拝借した拳銃と地図、方位磁針をもって東側の壁の前に来ていた。

「……」

 彩楓は浜辺をイメージする。
 すると、瞬時に目の前の風景が浜辺になる。

「(この能力にも慣れてきたな)」

 しかし、彩楓がテレポートした先はこの島に初めて訪れた時にテレポートした浜辺だ。
 こうなることを予測していた彩楓は方位磁針を確認する。

「すこし、歩くのか…」

 

 
 彩楓の持つ方位磁針が前方を東と示した時、陽は昇り、当たりは昼間になっていた。

「はじめるか」

 彩楓はその場から見える遠くの海を指定する。
 そして、辺りは一瞬で海になり、彩楓は着水する前に、同じことを繰り返す。

「(順調)」

 そして、

「っと」

 コンクリートの上に着地する。

「壁? なのか…」

 彩楓が着地したのはセラフィスを囲むように隔てられている壁だった。

「こんな物で生存者サバイバーから守っているのか」

 そして、視界に捉えたのは中心に巨大な摩天楼が建っている街島。
 ハワイ島よりは小さいようだ。

「あれがセラフィスか…よし!」

 

 セラフィスに上陸した彩楓は間もなくして人に遭遇する。
 買い物帰りと思われる女性だ。

「す、すみません、この住所を知ってますか…?」

 彩楓の声に足を止めた女性に「東区 コーポ7 302号室」と書いてある紙を提示する。

「東区? あぁ、この島の反対側よ?」
「ありがとうございます…」

 彩楓は人目につかないようにテレポートを繰り返し島の東側へ向かう。


 そして、見つけた。

「………」

 規制線に群がる人々の目線の先にある一部の部屋の壁が破損しているコーポ7と書かれたアパート。

「……………」
「強盗ですって助からなかったそうよ…?」
「物騒で嫌ねぇ。まさか“鬼月”さんの部屋に入るなんて…お金なんかそんなに持ってないはずだったけど…」

 その軽々しいおばさん達の会話を聞いた彩楓の口は開かなかった。
 ただ、目の前に広がる絶望を直視していた。



 彩楓は気づいたら日が沈む海を一望できるセラフィスにおいて数少ない浜辺に立っていた。

「あれ…なんでこんな所にいるんだ…俺は…」

 日は沈み、辺りは夜の暗さに包まれる。

「守れなかったのか…家族を…」

 遅かった…守れなかった。

「…うぁ……うわああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 彩楓はやり場のない悲しみ、怒り、孤独感を夜空へ叫ぶ。

「………はぁ」

 その時、涙の無効に見えた夜色に光る点々とした星たち。

「あぁ、世界はこんなにも」

 ずっと牢獄の中にいた。
 こんな美しい世界の表情を見たことがない。
 その光景は、傷ついた、そして復讐心に燃える彩楓の心をなだめるように真上に広がっていた。


「───美しかったのか───」


 その後、自由と孤独を手に入れた彩楓は例の組織、SABERの立場を借りることで、目立たずに彩楓を拘束、母親と妹を殺した組織を探った。
 
 愛を失い、夢を失った少年は青年になり、与えられた復讐を目指して走った。


 それから9年───
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