生き残りBAD END

とぅるすけ

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第5章 「罪」偏

伝える時だと思うんだが…

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 翌朝、剣得はソファでの寝心地の悪さに目覚める。
 朝の静かな空気がカーテンの向こうから浮き出ていた。
 剣得は自然と楓彩の様子が気になり、寝室の戸を開く。

「楓彩ー…」

 楓彩はシングルベッドで臨と小雨にサンドウィッチ状態にされていた。
 特に、小雨の巨大な胸が邪魔そうだ。

「う…ぅ…う…」

 小雨の胸のおかげで何か良くない夢を見ているようだ。
 それに対する臨はと言うと、楓彩を抱き枕にして寝ていた。
 何とも子供っぽい光景だ。

「ほらー起きろー」

 剣得は寝室のカーテンを開ける。
 外は白く、雲に覆われていた。
 
「今日は雨か…」

 外を見て、初めて雨の音が聞こえた。

「うぅ…眩しいです…」

 楓彩の声が聞こえる。

「今何時ーー?」

 小雨は右手で目を擦りながら上体を起こす。

「おはよぉ…ふっ! うぅぅ…」

 続いて臨は丸くなっていた背中を伸ばし、寝たまま気持ちよさそうに伸びる。

「ほら、小雨! 臨! 仕事の時間じゃないのか?」

 その言葉に、楓彩の両サイドの2人はバッと起きて携帯を確認する。
 時刻は8時を廻っていた。

「やばい! 遅刻する!」
「まずいね…」

 そして、クシャクシャになった髪を振り乱して、2人は飛び出すように寝室から出ていく。
 残された楓彩。

「んんー…何事ですかぁ?」

 まだ半開きの目で剣得を見る。

「ほら、楓彩も起きな?」





 剣得が朝食を準備しょうと、寝室から出た時には、小雨と臨は玄関にいた。

「支度早っ!」

 臨と小雨はお互いに身だしなみを整え、

「じゃあね! 剣得くん!」
「食材は勝手に使ってください!」

 そう言って2人は玄関を閉めた。

「慌ただしいな…」
「…剣得さーん…ご飯ーー…」

 楓彩は寝ぼけた様子で剣得の袖を引っ張ってくる。

「はいよ…」





 数分後、剣得は手を抜くため、ベーコンと卵を見つけ出し、炒めていた。

「むはぁ…いい匂いです…」

 楓彩はキッチンとリビングを隔てている壁の上からひょこっと顔を出す。

 そして、机にはベーコンエッグと食パンが並ぶ。
 楓彩はベーコンエッグにケチャップをかけ、ジャムをパンに塗りたくる。

「いただきます!!」
「いただきます」

 楓彩は剣得の向かいで幸せそうに食べる。

「おいしい…(*´ч`*)」

 これだから剣得は料理を楓彩に作ってやることに、幸せを感じるのかもしれない。

「楓彩…」
「はい?」
「ケチャップ付いてるぞ」

 と、剣得は自分の口元を人差し指で差し、報せる。

「?」

 楓彩はテーブルの真ん中に置いてあるティッシュを取り、口元を拭く。

「剣得さん…そーいえば…私達今日お休みなんですよね?」

 楓彩と、剣得は病休扱いで、休みを貰っている。
 本来なら剣得は仕事へ向かわなければならないのだが、気の利いた部下のおかげで、楓彩との時間を作ることが出来た。
 感謝しなければならない。
 赤毛の秘書には…。

「今日は何をするんですか?」
「んーーそうだなぁ…」

 だが、これと言って予定を決めていたわけでもない。

「懐かしい公園でも行くか?」
「あっ! 行きたいです!」




 その後、楓彩は黒のTシャツに、チェックのミニスカートという若々しい格好で玄関の外に出る。
 つづく剣得も白いTシャツにジーンズという、男らしい格好で外に出る。
 シロンはお留守番だ。

「って…雨でしたね…」
「雨だな…」

 2人はとりあえず、1階まで降りる。
 エントランスから出て、屋根がある所で外を少し眺めている。

「どうしますか?」
「んーー…」

 剣得はふと、右側の道路の向かいにコンビニを見つける。

「楓彩…ちょっと待っててくれ」
「剣得さん?」

 剣得は雨が降る中、そのコンビニまで走っていく。

 そして、数秒後。

 剣得は左手にビニール傘をさして戻ってくる。

「お待たせ…」
「? 1本だけですか?」
「あっ! 抜けてた!!」

 剣得がもう一度コンビニに戻ろうとしたその時。

「いや…いいですよ」

 と、傘を持っている左腕を組まれてしまう。

「っ! 楓彩!?」
「えへへ…これでいいです♪」

 2人は雨降る街を歩き始める。

「歩きにくくないか?」
「大丈夫です♪」

 雨が傘に当たる音は耳障りがいい。
 雨という事で街道は人通りが少なく、今日は歩きやすい。

 そして、元住んでいたアパートを過ぎ、商店街を抜け、住宅街にでる。

「懐かしいな…」
「そうですね…」

 そして、見えてきた木々に囲まれた芝生の一帯。
 木々の葉に雨が当たる音が連鎖して、波の音のようだ。
 
「わぁ…懐かしい!」
「少し休んでいこう…」

 と、剣得は木々の中にある、屋根付きの木製のベンチを指さす。

 剣得と楓彩はそのベンチに腰をかけ、雨が降る緑の公園を眺めていた。
 と、その時、

「ちゅんちゅん…」

 楓彩の隣に近くに、濡れた小鳥が羽休めのために止まる。

「ん? あっ…こんにちは」

 楓彩は自分の左隣に来た相席者に挨拶をする。

「大変ですね…雨…」

 剣得は急に話し始めた楓彩を不思議そうに見る。
 だが、楓彩の隣にいる小鳥を見つけると剣得は「なんだ…いつもの事か」と言って、また雨が降る風景に目を移す。
 そして、目を閉じて昔のことを思い出す。

「(そういえば…昔もこんなことあったっけ? その時は晴れてたか…)」

 
 剣得が思い返したのは9年前の事だ。

 その日は今日とは違って快晴で、冬ながら暖かく、ピクニック日和だったことを覚えていた。
 
 剣得は楓彩を引き取ってからもうすぐ一年の節目を迎えようとしていた。

「楓彩ーー…転ぶなよー」

 剣得さまさに、今座っているベンチに座りながら花を詰んでいる楓彩を眺めていた。

 しばらくすると、楓彩は剣得の元へ戻ってくる。

「何をとったんだぁ?」
「これ…」

 楓彩は握っていた花を見せてくる。
 パンジーだろうか…。
 花に詳しくない剣得はよく分からなかった。

「おっ…綺麗だなぁ」
「…あっちにも…ある…」

 と、楓彩が指さすほうを見ると、水仙花が咲いていた。

「一緒に行くか?」

 楓彩は頷いた。
 
 水仙花が咲く前まで行くと、「踏んだり、盗らないで」との看板が。
 
「楓彩ー? とっちゃダメだぞー?」
「…」

 楓彩は小さく頷いた。

 楓彩は剣得の横で並んで膝を抱える。
 剣得もそれに合わせてしゃがむ。

「綺麗だな…」
「剣得さん…これ…好き?」

 楓彩は真っ直ぐで綺麗な目で剣得を見つめる。

「あぁ…そうだな…」 
「お母さん…これ…好きだった…」
「…」

 剣得はその言葉に返す言葉が無かった。
 楓彩の母親は────



「────剣得さん?」

 楓彩の呼び声で目を覚ます。
 どうやら寝てしまっていたらしい。

「…ん? 悪い…寝てたか…楓彩──って!」

 剣得が楓彩に目線を向けた時、信じられない光景を目の当たりにする。

「どうしたんですか? 剣得さん…?」

 楓彩の周りには野良猫や鳥などの小動物が群がっていた。

「お前は動物園か…」
「えへへ…なんだかみんな寄ってきちゃって…」

 と、頭に鳥を三羽乗せて柔らかい笑みを浮かべる。
 剣得はその時、別のことを思い出す。

───「楓彩は生存者《サバイバー》かもしれない」───

 剣得は再度、動物達と戯れている楓彩の楽しそうな横顔を見つめ直す。

「楓彩…」
「ん? 剣得さん?」
「話すことがある…」

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