生き残りBAD END

とぅるすけ

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第5章 「罪」偏

急ぎ時?

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 「ふぇぇ……ひぐっ……お腹痛いよぉ…」

 楓彩は青いベンチに横になり、お腹を抑えていた。

「大丈夫か? 楓彩…」

 剣得は楓彩の頭の方に座り、頭を撫でる。

「うぅ…」
「大丈夫? 楓彩ちゃん」

 小雨が楓彩の寝ているベンチの前にしゃがむ。

「うぅ…」
「楓彩ちゃんが手加減してくれるから私も手加減したんだけど…」
「え…」

 剣得はその小雨の言葉に耳を疑う。

「だって、初撃がスピードに見合ってない威力だったんだもん…」

 剣得も、その言葉を聞いて、気が付く。
 確かに、楓彩がもし、本気で蹴ったなら小雨の体はただでは済まないだろう。
 何せ、鉄を切断できる威力だ。

「楓彩? 本気じゃなかったのか?」
「……はい…って、小雨さんも手加減してたんですか!?」
「あはは…」

 小雨は楓彩から目を離す。

「むぅ…なんかお互い本気出しませんでしたね…」
「もう一回やる?」
「そうですね! 次は本気で!」

 楓彩は起き上がってガッツポーズを取る。

「止めとけよ…」


 始まってから数秒後、楓彩は鼻を抑え、断末魔を上げながら顔を赤くして悶えていた。

「っあぁぁぁぁ!! 痛いぃぃぃ!!」 

 どうやら先ほどと小雨の技をもろに食らってしまったらしく、横で見ていた剣得も頭を抑えて、「やれやれ」という感じだった。

「甘い甘い! そんなんじゃ、G,S,A最強の武術家の私は倒せないよ?」

 だが、楓彩の泣き顔をみて。

「楓彩ちゃぁん!! ごめんねぇ!! 大丈夫!? よしよし!」

 と、楓彩に抱きついて、頭を撫で回した。

「ふぇぇ…」



 その後、剣得は総督室へ、小雨は仕事があると言って自分の部門に戻る。
 残された楓彩は東区に行こうにも、瘴気が邪魔で行けず、行く宛もないので、

「ショウさんに会いに行きますか…」


 楓彩は「ショウちゃんの工房」と、白いスプレーで手書きされている鉄製の引き戸の前に立つ。
 楓彩はドアを開こうと取っ手に手を掛けるが、

「あれ? 開かない…」

 鍵が掛かっているのかドアは開かなかった。

 その時、中から「ドタっ」という音が聞こえたが。
 そして、引き戸が静かに開く。

「なに? …楓彩?」

 開いたドアの隙間から、頬を赤く染め、息遣いが荒いショウが顔を出す。

「遊びに来ました…って…ショウさん? 何してたんですか? 顔赤いですよ? それにこの臭い…おし────」

「──まま待って!! 気のせいじゃないかなぁ!? …ははっ(オナってたら漏らしたなんで言えない!!)」

 ショウは顔をもっと赤くして楓彩の口を手で塞いだ。
 その時に見えたのはショウが裸にYシャツ1枚ということ。

「…むぐぐっ(なんて格好してるんですかショウさん!)」

 その後、ショウは裸Yシャツのまま、ソファに小さく座っている楓彩と話していた。

「あははっ…楓彩知らなかったの? 小雨は私や剣得よりも対人戦強いんだよ? 能力無しだけどね?」

 ショウは頬を膨らませている楓彩に笑顔を向けていた。

「まさか、ゲームの技で倒されるなんて思っていませんでした…」
「まぁ、そんな技使われている内は小雨も本気じゃないね…」

 ショウは悪戯な笑を浮かべる。

「ショウさんも勝てないんですか…」
「まぁね…あの子、耐久力があるからね」
「そう! それですよ! 一回私もゾッとするくらい本気の一撃が入ったんですよ!?」

 楓彩は目を見開いて興奮した様子で前のめりになり、襟から貧乳を望ませる。

「頭に当たっちゃった時は本当に蒼白しましたよ!」

 楓彩曰く、楓彩の本気の一撃ですら小雨はノーガードで耐えたようだ。

「まったくもう…聞いてませんよぉ…あっ! ショウさんも今度お手合わせ出来ますか?」
「…いいけど、なんで楓彩はそんなに格闘練習がしたいの?」

 ショウは不思議に思った。
 単に強くなりたいのなら、楓彩はまず、剣術を磨くべきだろう。
 なら彩楓など、いい師匠になりそうだが。

「んー…“私の刀”…まだ丸いんです…皆さんの足を引っ張らないためにも覚悟を決めたいなって…おもったんです…」

 楓彩の刀、恐らく心を写す刀、心鉄器《しんてっき》だろう。
 楓彩の心は優しく、人を傷つけることなど縁がないため、「平和」を表すように刃が丸い。

「そう…人を傷つけることに慣れるってこと?」

「そうじゃないですけど…まぁそうなりますね…認めたくはないですけど…」

「まぁ、そんなに急がなくてもいいと思うよ?」

「?」

「嫌なことは嫌でもいいと思う…しってる? 雨の雫がコンクリートの同じ箇所に落ち続けるとそこには穴が出来るんだよ? それと同じ」

「よく分からないですけど…」

「あれ? いい例えだと思ったんだけど…。とにかく、時間を掛けて大きくなればいいさ」

 ショウは楓彩の頭を優しく撫でる。


────こんな非常な世界でも、あなたは私の日常なんだから…簡単に変わってもらっちゃ困るよ───
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