天使さんと悪魔くん

遊霊

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追え!異世界のナゾ

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いつもより寒い夜、コオロギたちが鳴いている。そんなことより僕はあの路上での出来事が忘れられなかった。あの天使と悪魔は幻だったのか...?天使と悪魔の姿を記憶を頼りに秘密のノートに描いていた。
「なんだったんだろ、あれ....?」窓の外を眺めていると真っ黒な空に、突如光りを放つ玉が現れた。
その玉はフワフワと不安定な動きをしながら、電信柱の周りを回っている。その光を放つ玉は何かに気付いたように移動し始めた。「幽霊....?」僕は目をごしごしさせながら窓の外を覗く。光を放つ玉はこちらの視線に気が付いたのか、ゆっくりと近づいてくる。
「ふ、ふふふ...」玉は人面のような模様を浮かびあがらせた。「うわ~...な、なんだこれ?」驚くのもつかの間、玉はニコニコしたまま窓から離れていき道路の方へ移動していった。僕は気になって玉を追いかけようとした。すると突然、リビングのドアが開く。
「コラァ!今何時だと思っているんだ!」「お、お父様....」父親の登場に動揺した。早く追いかけないと...!
「お前昨日から何かコソコソしているな?態度もよそよそしい。」「....!」何も言い返せなかった。天使と悪魔のことを話してもどうせ信じてもらえない。
「答えろ、何か目的があるんじゃないのか?」「た、魂が僕を呼んでいるんだ...です」小声で訴える。父親の目は冷たく目が合う度に足が震える。
「はぁ?それより早く寝ろよ!」「くっ...!」僕は仕方なくとぼとぼと部屋に戻った。
それから、秘密のノートを開き天使と悪魔が描かれたページを見つめていた。すると、どこかから聞き覚えのある音が耳に入ってきた。
壁の裏から寝息が聞こえる...!
まさかと思い寝息が聞こえる壁を手でノックする。「....ドチラサマ?」
「あ、悪魔ァ!」壁裏から姿を現したのはなんと悪魔だった!悪魔は大きな口を開けて息を吸う。
「あの~、悪魔さん...僕...」「我の名は、悪魔王デルタだ...」デルタは一瞬眉間に皺を寄せた。
「お願いです悪魔王デルタさん、僕を背中に乗せて飛んでください!」

「うわ~!これが夜の町か...」僕は初めて見る空からの夜景に興奮していた。デルタは大きく立派な翼をはためかせる。そしてついに光を放つ玉に追いついた。
「ふ、ふふふ...」玉はそのまま学校のグラウンドへと入っていった。
デルタに別れを告げ学校に正門から入る。今思えばあの路上で見たノーセンモンスターの魂に似ている...?そんな気がした。
魂は学校の中へすり抜けて入ってゆく。僕は非常用の入口から中に入る。
真っ暗な廊下をひたすら歩いてゆく。廊下全体に寂しさが染みる。渡り廊下を駆け抜け、階段を使い二階へ上がる。魂はゆらゆらとこちらを嘲笑うかのように図書室に消えた。
図書室。天井にあるブレーカーがチカチカと点滅し1つ、2つ、3つ、と拡大してゆく。点滅するブレーカーの光を追ってゆく。本棚の前にいた魂は本と本の僅かな隙間を通り抜けていってしまった....
「今度こそどこに消えたんだ?本棚の中....?」7段ある棚を一通り調べてみるとあることが起きた。突然、図書室中の本棚と床がパズルの様に移動し、床下の穴から大きな螺旋階段が現れたのだ。下からくる生臭くて気持ち悪い、獣のような匂いに耐えながら階段を降りていった。
階段から降りると目の前には何故か見たことのない奇妙な植物が壁を這って動いていた。胸がドキドキと脈打つ。
植物が生い茂る一本の道を進んでいくと今度は遺跡のような建物が。遺跡の入口には古代文字のような不思議な記号が掘ってある。入口は長い間放置されていたのか大部分が草に侵食されていた。ツタをひたすら手でよけながら前へ進む。やがて、大広間のような所に出た。すると...
「ふ、ふふふ、ふふふふ...」魂が再び顔を出し、こちらに寄ってくる。
「あ!さっきの魂!」魂は遊んでほしいかのように顔の周りをクルクルと回りはじめた。その奇妙で滑稽な動きに思わず笑みがこぼれる。
「アハハハ!」「ふふふ...」僕と魂の心が一瞬、繋がった気がした。

遺跡の出口。笑う魂と一緒に遺跡を出た。久々に吸う外の空気はとても美味しかった。遺跡の外は一面が花畑になっていた。空はすんだ宝石のようにブルーに輝いている。魂の行く方へひたすら歩いてゆく。道端に所々生物の骨らしき物が落ちている...。

「同助さん...。」後ろから優しい声がする。「天使さん!!」振り返るとそこには、あの時の天使さんが佇んでいた。翼をたたみ折り、こちらへゆっくりと歩いてくる。
「ここは一体どこなの?」天使さんは表情を柔らかくして言った。「ここには名前がありません。あなたが名前を付けるべきです。」「え...」考え戸惑っていると、雲行きが怪しくなってきた。
「雨が降ってきます。同助さまどうぞこちらへ...」天使さんに手を差し出され彼女が発する光る膜の中へ入る。雨が降り始めると雨粒に当たった花はどんどん枯れていった。
「花、枯れていっちゃうよ...?」「平気です...また植えればいいのです。」天使さんの表情が曇る。怖くなって手を強く握った。

村。天使さんと僕は暗い空を飛行した後、とある村に降り立った。そこは木製の家が1錬と二階建ての建物があるだけの村だった。
天使さんに連れられ二階建ての建物へ入っていった。鈴の音が鳴る古びた扉を引く。
「ここは...?」「私たち専用の宿です。どうぞ中へ」天井からぶら下がる長い紐を引っ張ると、パッと部屋に明かりが灯った。
「元々は旅人を受け入れるための施設だったのですが、中々人が来ないので古くなってしまいました。」「じゃあ、僕がお客さん一人目?」天使さんは明るく微笑んだ。
机の上に散らばっていた新聞らしき紙に目がいく。新聞の見出しにはこう記されていた「太陽 消える」
「我らを見守っていた太陽が突然空から姿を消した。これは自然破壊と大量殺人を繰り返した人間への天罰なのか?街の人々は心中懺悔....」「笑いがあるかぎり、我々は消えない!!」「天使と悪魔はどこへ?」そこから下は文字列と写真がごっちゃになっていて読めない。
「天使さん!この記事は何?この世界に一体何が起こったの??」天使さんは息を吸い、少し目を閉じてから話しはじめた。
「それは私がまだ、この世界を取り持つ聖天使だった頃.....」「今から1000年前、私は悪魔王様の元に使えていました。」
とある城。森や自然に囲まれているのどかな場所。天気が良い日は森から街の子供たちや動物たちが城の庭へやってきて、遊んだり競技などで競いあっていた。
「それまでは平和でした...ですがその周辺にあった街の人々が食べ物や金銭を巡り争いを始めてしまいました。」
「街の人々に何もできず火は私たちの住む城にまで及び、とうとう国から逃げ出すしかなくなったのです...。」
悪魔王と聖天使は逃げ続けた。逃げ続け、逃げ続け、命が尽きるまで逃げ続けた。二人はついにとある花畑へと辿り着く。その花畑は二人を出迎えるかのように暖かかった。
「ですが、罠がありました。地獄を崇拝する"教団ノーセン"が待ち構えていたのです...。」
二人は教団ノーセンに見つかりまた何処かへ逃げるしかなくなった。二人は偶然にも花畑の先で遺跡を見つける。
遺跡の中である不思議な光を見た。その光は過去、未来、見知らぬ世界を見せるかのように直接心の中へ入ってきた。
「その後の事は...記憶から抜けてしまっています。」
同助は感ずいた。この世界へ来るときに見た光景が一緒だった、と。
遺跡と花畑。そして国の崩壊がナゾを呼んだ。
「同助さま、あなたに渡さなければいけない物があります。手を出して...」天使さんは僕の手をやさしく握った。
「もしこの先、そちらの世界が崩壊を起こす時にこれを....」
突然言葉が詰まる。
気が付くと鋭いナイフのような物が天使さんの胸を貫いていた。「っ....!」「.....!?」
僕は椅子から転げ落ちる。部屋中に不気味な笑い声がオーバーラップする。
「ハッ!無様な姿だな、聖天使ソラネよ...」全身が黒いマントに覆われた化け物が現れた。
真っ黒な化け物はこちらを冷たい目で見下す。
「今からお前ごとこの世界を消し去る。」のしのしと近づいてくる。恐怖で足が動こうとしない。目の前の無残な光景をただひたすら見ているだけしかなかった。
「お、お前は誰だ!?」「弱々しい人間ごときに名を知る筋合いはない...食らえ...」化け物はマントの隙間から杖を出し先端をこちらに向ける。やがて杖の先端に付いている水晶玉が黒光りし、周りから粒子が集まる。
「これが全ての....全ての悲しみだ!!」杖から放たれた波動は机を粉々にし、物凄い勢いで飛んでくる。「うわあああっ.....?」とっさに腕で顔を覆う。
一瞬、周りの時間が止まったかと思うと目の前には光輝く龍のような生き物が僕を守るかのように周りを囲んでいた。
「フンッ、なるぼど...地獄に仏というやつか。」真っ黒な化け物はそう言い残して影に消えていった。

龍はいつの間に目の前からかいなくなっていた。手に持っていたペンダントが赤く元気に輝く...。
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